絶望の底、目覚める刻の番人:【3】灰の記憶、消えない誓い
淡い青光りに照らされた登り通路を、二人はゆっくりと歩き出した。
壁面に走る結晶の脈動が、まるで遺跡そのものの心臓のように、鈍く明滅を繰り返している。
足元に敷き詰められた結晶質の床は、一歩ごとに硬質な音を鳴らし、
その響きは狭い通路の奥へと吸い込まれるように消えていった。
錆びた鉄パイプを杖代わりに引きずるアレンの足取りは重く、
隣を歩くルカの木の杖の音も、いつもよりずっと弱々しかった。
地上での戦いで負った傷が、歩みを進めるたびにじくじくと疼く。
だが、その痛みよりもずっと重く、二人の胸の奥にのしかかっているものがあった。
しばらく、どちらも口を開かなかった。
聞こえるのは、二人の呼吸と、足音と、遠くから響く得体の知れない駆動音だけ。
青白い光の帯が壁を這うたびに、ふと、燃え盛るエミールの村の光景がアレンの脳裏をよぎる。
赤く染まった空、崩れ落ちる家々、
そして――
自分たちを庇うように両手を広げた、じいさんの背中。
あの瞬間の熱と、爆風の匂いすら、まだ肌にこびりついているような気がした。
やがて、ルカがぽつりと呟いた。
「……じいさん、最後まで、僕たちのこと守ろうとしてくれたね」
その声は、震えを必死に押し殺しているのが分かるほど、かすれていた。
アレンは前を見たまま、小さく頷いた。
「あぁ。……あの人は、いつも歯車ばっかり見てたけど、俺たちのことちゃんと見ててくれたんだな。今更、分かったよ」
言葉にしてしまうと、喉の奥が締め付けられるように痛んだ。
もっと早く、ちゃんと伝えればよかった。
そんな後悔が、今更のように込み上げてくる。
ルカの瞳から、また涙が滲む。しかし、今度はそれを拭おうともせず、ただ静かに歩き続けた。
「村のみんなも……エミールも、もうどこにもない。分かってる。分かってるけど……まだ、信じられなくて」
声が、途中で小さく崩れる。
ルカは唇を噛み締め、それでも足を止めなかった。
「……いいんだ、ルカ。今は、無理に飲み込まなくていい」
アレンはそっとルカの背中に手を添えた。
地上での戦いで裂けた傷が、その僅かな動きだけで鈍く痛む。
だが、その痛みは、今は不思議と心地よくすら感じられた。生きている証のように。
「俺だって、まだ実感なんてない。何もかも、あっという間に奪われて……それでも、今できることは、前に進むことだけだから」
アレンは一度、拳を強く握りしめ、ルカは唇を噛み、涙を拭った。
「……うん。僕、ちゃんと歩くよ。アレンの隣で」
ふいに、アレンは足を止めた。ルカが不思議そうに振り返る。
「ルカ」
「……なに?」
「約束する。……村を、エミールを焼いた奴らに、絶対に落とし前をつけさせる。そして――お前のことは、俺が必ず守る。もう、誰も失わせない」
声は小さかったが、そこには、これまでのアレンにはなかった、静かで固い意志が滲んでいた。
ルカは一瞬目を見開き、それから、泣き笑いのような表情で頷いた。
「……うん。僕も誓うよ。アレンを、一人にはしない」
二人は再び足を踏み出す。
悲しみは消えない。
だが、それを抱えたまま前に進む強さと、消えることのない誓いだけは、確かにこの瞬間、二人の中に芽生えていた。
最後まで読んでいただき誠にありがとうございます。
アレンと、ルカ、決意を新たに歩みだし、これからの目標をかみしめる。
今後の展開と、アレンの決意、ルカとの歩み。いろいろ思い浮かぶこともありますが、
ボリュームオーバーにならないように執筆していきます。
これから先書きたいシーンがいくつかあるので、自分自身楽しんでいきたいと思います。
お手数ですが、☆での率直な評価をいただけると、今後の執筆の参考になります。どうぞよろしくお願いいたします。




