絶望の底、目覚める刻の番人:【2】 起動する刻の番人 イヴ
チカチカと不規則だった青い光が、次第に一定の周期を持つ波のような脈動へと変わっていく。
浮遊したデバイスは、アレンの目の前、ちょうど視線の高さで静止した。
すると、
デバイスの表面から何条もの緻密なレーザー光線が照射され、
光の粒子が宇宙の星々のように急速に集束し、一人の「少女」の姿を形作っていった。
それは、透き通るような銀色の髪をなびかせた、
----光のホログラムの少女だった。----
彼女の瞳には生身の人間が持つような揺らぎはなく、冷徹なそして無感情な美しさと、絶対的な理性が宿っている。
少女のホログラムは、ゆっくりと瞬きをすると、目の前にいるボロボロの少年二人を見つめ、抑揚のない無機質な声を響かせた。
『――システムチェック、完了。言語リソース、周辺言語に適合。バイオメトリクススキャンを開始します』
少女の瞳から放たれた薄いグリーンの光の膜が、二人の身体を瞬時に通り抜けた。
『対象の遺伝子情報を解析……』
二人はなにが起こっているか理解できず、立ち尽くしている。
『クロノ・ファクター保有率、98.7%』
『基準値をクリア』
『マスター権限の「登録」を実行します』
『……はじめまして、マスター・アレン。および、随行者ルカ』
その瞬間、その声は空間から消え、二人の脳内に直接響くようになった。
『私は、クロノス・ラビリンスが生んだ古代遺物、識別コード【イヴ】』
『これより、マスターの生存および目的達成のための永続的サポートを開始します』
『現在の状況を報告します』
驚く二人を無視して、無機質な声は続けて話す。
『ここは、地上からの垂直距離、約3,500メートル。超古代文明遺跡の【地下50階層】です。』
『この遺跡の構造は地上へと垂直に繋がっており、各階層を繋ぐ連絡通路を上がっていくことで、物理的に地上へと帰還することが可能です』
二人はその言葉を聞き、ハッと我に返る。
「地上へ戻れる……! じゃあ、今すぐ上へ戻ろう、アレン!」
ルカの瞳に、パッと希望の光が灯った。
しかし、イヴは表情を一つ変えず、淡々と冷酷な現実を付け足した。
『ただし。ここから地上の出口までの通路には、変異した凶悪な野生の魔獣たちが無数に巣食っています』
ルカは愕然とした表情を浮かべている。
「……だったら、ここに出てくる化け物を片っ端から倒して、強くなればいい」
アレンは痛む身体を引きずりながら、壁に手をついて、ゆっくりと、確実にその足で立ち上がった。
そして、床に転がっていた一本の、長さ一メートルほどの錆びた鉄の棒を拾い上げ、それを両手で固く握りしめた。
「ルカ。地上のあの四天王ガイルは、俺たちじゃ逆立ちしても勝てない化け物だった。じいさんは俺たちを逃がすために命を捨てたんだ」
「……このまま怯えてここで死ぬか、ここで化け物を倒して、レベルを上げて、ガイルをも超える力を手に入れて地上へ殴り込みをかけるか。答えは一つだろ」
無力さへの怒り。理不尽に全てを奪った魔族への激しい憎悪。
それらの感情が混ざり合い、アレンの胸の奥で、熱い「復讐の決意」へと生存の炎が昇華していく。
「強くなるんだ」
はっきりと、そして自分自身に刻み込むように、アレンは続けた。
「この遺跡の化け物どもを全部俺たちの経験値にして、レベルを上げて、あの四天王ガイルをこの手で絶対に叩き潰す。そのためなら、何百回だって戦ってやる・・・」
アレンは強く拳を握りしめたまま、ルカを見つめた。
「ルカ、俺と一緒に上に上がろう」
少年の剥き出しの強い感情の鼓動を、イヴは静かに検知していた。
『マスター・アレンの精神変容を確認。感情エネルギーの急上昇を感知しました』
『これより、当機のシステムとマスターの脳波のシンクロ率を向上。戦闘適合化プログラムを、フェーズ1からフェーズ2へと移行します』
イヴのホログラムが、アレンのすぐ傍へと滑るように移動した。
『マスター。あなたのその「復讐と逆襲」の決意をデータとして受領しました。私には、あなたのように怒ることはできません』
『しかし、あなたが地上の強者を打ち破り、その正義を成し遂げるため、この遺跡の全ての知識をもって、あなたをアシストすることを約束します』
イヴが細い指先を上層へと続く前方の通路に向けると、それまで閉ざされていた巨大な結晶質の隔壁が、ゴゴゴゴ……と重低音を立てて左右に開き始めた。
その先に広がっているのは、淡い青光りに照らされた、どこまでも続く未知の登り通路。
ルカは、アレンの横顔をじっと見つめていた。
彼の瞳にある炎は、地上のどんな絶望の火よりも熱く燃えていた。
ルカは深く息を吸い込み、涙を袖でゴシゴシと拭い去ると、杖を両手で強く握り直し、一歩、アレンの隣へと並んだ。
「……行くよ。アレンが突っ走るなら、今度こそ僕が後ろからしっかりサポートしてあげる。ここでレベルを上げて、あの化け物ガイルを一緒にぶっ飛ばそうじゃないか!」
臆病で泣き虫なルカは、今ここにはいない。
「 地上へ向けて、出発だ!」
手に持った杖を高らかに上げ、声高に叫んだ。
「あぁ、当たり前だろ! 頼むよ、ルカ!」
二人はお互いに視線を交わし、力強く頷き合った。
『これより、超古代文明遺跡の逆侵攻を開始します。あなたのデータ解析を開始しましょう』
イヴの力強い声と共に、アレンとルカは
開かれた通路の奥へと、並んで足を踏み出した。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
絶望の底に突き落とされたアレンとルカ。
しかし、超古代アーティファクト『イヴ』との出会いによって、二人の反撃の物語が幕を開けます。
ここからアレンたちは、どのように強くなっていくのか……?
楽しみにしていただけると嬉しいです。
お手数ですが、☆での率直な評価をいただけると、今後の執筆の参考になります。どうぞよろしくお願いいたします。
次回の更新もお楽しみに!




