絶望の底、目覚める刻の番人 【1】 奈落の闇と、鉄の味
重力という目に見えない巨大な圧力が、16歳の少年の未熟な肉体をひたすらに引き裂こうとしていた。
鼓膜を直接暴力で叩き割るような、あの地上の大爆発の余波。
背中を襲った熱風の残滓が、まだ皮膚の上でジリジリと燻っているように熱い。
「うわあああああああああああッ!!」
暗黒の縦穴の中、すぐ近くから響くルカの悲鳴が、風の咆哮に掻き消されてはまた近づいてくる。
アレンは上下の感覚すら完全に喪失していた。
ただ、恐怖の中で、彼は本能的に、高台の遺跡が異常起動した際、
自分の胸元へとまるで吸い込まれるようにして飛んできた、手のひらサイズの
――――六角形のなにか――――
だけを、両腕で必死に抱きしめていた。
冷たく、それでいてどこか規則的に脈打つような奇妙な駆動振動を伝えるその物体だけが、今の暗闇の中でアレンが触れることのできる、唯一の現実だった。
ズガガガガガガガガガガガガッ!!!
突然、垂直の落下から、滑らかな曲線を描く巨大な傾斜路へと二人の身体が激突した。
それは超古代文明が作った、結晶質の硬い側壁を持つ巨大なダストシュートのような滑り台だった。
摩擦熱で衣服が焦げるような強烈な熱が背中を襲う。
何度も身体を側壁に強打し
火花を散らしながら
アレンとルカはその斜面を滑り、転がり、落ちていった。
どれほどの時間、その地獄のような滑落が続いたのだろうか。
永遠にも思える苦痛の時間の果てに、唐突に傾斜路が途切れた。
ドサァァァァァァァァッ!!!
二人の身体は暗闇の空間から勢いよく放り出され、
滑らかな、しかし冷徹な硬さを持つ金属の床の上を
何十メートルも激しく転がった。壁に激突し、ようやくその狂気じみた運動エネルギーが停止する。
「が、はっ……げほっ! げほっ、げほっ……!?」
アレンは床に顔を伏せたまま、激しく咳き込んだ。
肺が痛い。
酸素がうまく吸えない。
口の中は完全に血の味で満たされ、全身の関節という関節が、
まるで別々の方向へ捻じ曲げられたかのような凄まじい激痛を訴えていた。
かろうじて指先を動かし、自分がまだ生きていることを確認する。
「痛っ……つ、あ……。アレン……アレン、生きてる……?」
数メートル先から、掠れたルカの声が響いた。
ルカは全身を強く打ち、衣服もボロボロに破れていたが、幸いにも木の杖はまだその手に握られていた。
ルカは痛む身体を引きずりながら、床を這ってアレンの元へと近づいてきた。
そして、アレンの血まみれの右手に、自分の震える掌をそっと重ねた。
ルカは涙と金属の煤で顔をぐしゃぐしゃにしながら、細い声を震わせて呪文を唱え始める。
自らが信じる絶対的な存在へ、親友の命を救うための切実な祈りを捧げるように。
「――『優しき女神よ、その大慈の衣を広げ、微かなる癒やしの光で彼の苦痛を払い給え――プチ・ヒール』!」
ルカの掌から、消え入りそうなほど淡い、優しい緑色の光がポッと灯った。
大きな傷は治せないが、掠り傷を癒し、痛みを和らげる程度の微々たる癒やしの力。
それでも。
アレンの手のひらの、あの地上の戦闘で裂けていた擦り傷が、ほんの少しだけ薄い皮で塞がり、
全身を支配していたズキズキとした鋭い痛みが、波が引くようにほんの少しだけ和らいだ。
「ルカ……お前だって、ボロボロなのに……」
「何言ってるんだよ。僕を置いて一人で突っ走るアレンが悪いんだ。」
「……でも、よかった。生きててくれて、本当によかった……っ」
ルカは無理に微笑んだ。
自分の持てる限りの手札の全てを使って、どんな時でも親友を支えようとしている。
アレンはその手のひらの温もりに、胸の奥が熱くなるのを感じ、壊れそうだった理性を繋ぎ止めた。
「あぁ。ありがとな、ルカ。お前のおかげで、目が覚めたよ」
アレンが立ち上がろうとしたその時、
彼の両腕に抱えられていた六角形の金属が、
これまでにないほど強烈な輝きを放ち始めた・・・。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
いかがだったでしょうか。
平和だったはずの開拓村エミールが一夜にして崩壊し、主人公アレンと幼馴染ルカが、超古代文明遺跡『クロノス・ラビリンス』の最深部へと突き落とされるところから物語は始まります。アレンとルカ。二人がこのあとどうしていくのか。
今回は二人の絆の原点と、絶望の底で再び立ち上がる瞬間までを、じっくり描いてみました。派手なバトルはこれからが本番です。次話では、いよいよ遺跡に潜む最初の脅威との死闘が始まります。アレンとルカ、そしてもう一人の・・・、どんな力でこの絶望を切り拓いていくのか、楽しみにしていただけたら嬉しいです。
お手数ですが、☆での率直な評価をいただけると、今後の執筆の参考になります。どうぞよろしくお願いいたします。




