↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クロノス・ギア〜故郷を焼かれた俺は、魔獣の時間を喰らって強くなる。ただし、喰らうほど人間ではなくなっていく〜  作者: 錆びた歯車


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
15/16

ステップ&エラー 命を削る学習:【3】 1.42秒

【3】 1.42秒


世界が、軋んだ。


背骨を、熱いものが駆け上がる。


指の先、足の先まで、何かが無理やり流し込まれていく。


黒い刃が、頭上から落ちてくる。


風を裂く音が、低く、長く、引き延ばされていく。


痺れていた足が、床を蹴っていた。


蹴ろうと思うより、先に。


前に流れていた重心が、ありえない速さで後ろへ戻る。


鎌が、鼻先をかすめて床に突き刺さった。


遅れて、結晶の床が砕ける音。


『回避、完了』


『残り0.9秒。離脱を推奨します』


離脱。


下がれ、ということだ。


この一瞬で、ルカのところまで走れ、と。


(……違う)


魔獣の頭が、こちらを向こうとしている。


ゆっくりと。首の付け根から、ぐるりと。


――ありえない角度に、曲がる首。


首が回るたびに、甲殻の継ぎ目が、わずかに開く。



――『硬ぇ獣は、関節を狙え』――



しわがれた声が、耳の奥で鳴った。


『残り0.6秒』


アレンは、踏み込んだ。


魔獣の、懐へ。


足の筋が、ぶちぶちと音を立てる。


骨が、内側から軋む。


それでも、止まらなかった。


床に刺さった鎌のすぐ横を、すり抜ける。


黒い胴の下へ。首の付け根の、真下へ。


『残り0.3秒』


鉄パイプを、両手で握り直す。


痺れていた指が、今は、はっきりと鉄の冷たさを感じていた。


腰を落とす。


あの丘で、何度も、何度も振った構え。


「おおおおおっ――!」


振り抜いた。


鈍い音がした。


何かが、ひしゃげる音。


鉄パイプが、甲殻の継ぎ目に深くめり込んでいた。


『瞬時駆動(オーバークロック)、終了』


世界が、元の速さに戻った。


ドサッ、と。


魔獣の頭が、ありえない方向に折れたまま、床に崩れ落ちる。


六本の脚が、でたらめに空を掻く。


鎌が、床を叩く。何度も、何度も。


狙いも何もなく


ただ、動いているだけだ。


同時に、アレンも膝から崩れた。


「が……っ、は……」


息が、吸えない。


全身の筋肉が、内側から焼かれているみたいに熱い。


指一本動かすのも、つらい。


『頭部の機能停止を確認。胴体の反射運動は、しばらく続きます』


『胸部に、コアの反応があります』


アレンは、床を這った。


すぐ横で、鎌がびくん、と跳ねる。


結晶の床に、また一本、細い傷が増えた。


動きが鈍った隙に、胸の下へ潜り込む。甲殻の隙間。


そこで、小さな光が、弱々しく脈打っていた。


光が脈打つたびに、脚の先が、ぴくりと震える。


アレンは、震える右手を伸ばした。


あの時は、指が勝手に動いた。


今度は、自分で触れる。


指先が、光に触れた。


とくん、と。


温かいものが、流れ込んでくる。


腕を伝い、胸に届き、焼けついた身体の芯に、静かに溶けていく。


光が、少しずつ色を失っていく。


脚の震えが、間遠になっていく。


ぴくり。


……ぴくり。


最後に、鎌の先が一度だけ、かつん、と床を打った。


やがて光は灰色の石になり、さらさらと崩れて、指の間からこぼれ落ちた。


魔獣は、もう動かなかった。


――刻喰(ときぐい)。


胸の奥が、一度だけ、かすかに疼いた。


「アレン!」


ルカが、駆け寄ってきた。


泥だらけの膝で、すぐ隣に滑り込む。


「大丈夫!? 怪我は!? 今の、なに……?」


アレンは、仰向けに転がった。


天井の青い光が、ゆっくりと明るくなって、また暗くなる。


「……半分だけ、借りた」


「え?」


「なんでもない」


ルカは、むっとしたように頬をふくらませた。


それから、ぽろっと涙をひとつ落として、笑った。


アレンは、右手を目の前にかざした。


手のひらに、まだ、鉄パイプの重さが残っていた。


じんじんとした痺れも。


最後に振り抜いた、あの手応えも。


今度は、ちゃんと、残っていた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


今回は、1.42秒という、ほんの一瞬の戦いを書きました。

短い時間の中で、アレンが何を選んだのか。そこを伝えたくて、一行ずつ悩みながら書きました。


倒したあとの静かな場面も、書いていてとても好きなところです。


これからも、自分の理想の物語を書き続けていきます。

お手数ですが、☆での率直な評価をいただけると、今後の執筆の参考になります。どうぞよろしくお願いいたします。

感想やご意見も、気軽にコメントしていただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。