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クロノス・ギア〜故郷を焼かれた俺は、魔獣の時間を喰らって強くなる。ただし、喰らうほど人間ではなくなっていく〜  作者: 錆びた歯車


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ステップ&エラー 命を削る学習: 【1】 借りものの力

螺旋階段は、どこまでも続いていた。


結晶の壁が、淡い青に光っている。


その光を頼りに、一段、また一段。


上へ。


地下49階へ続く踊り場で、アレンは壁に背中を預けた。


「はぁ……はぁ……っ」


身体は、軽い。


あの赤い一粒を取り込んでから、確かに何かが変わった。


手足の先まで、まだ、あの熱が満ちている。



なのに――



鉄パイプを握る右手が、止まらずに震えていた。


気づけば、左手が胸の上にあった。


心臓の鼓動を感じる。


アレンは、ゆっくりと息を吐いた。


「アレン……少しだけ、休もう?」


数段下で、ルカが膝を抱えて座り込んでいた。


泥と汗で汚れた頬。


泣き腫らしたままの目。


「僕、魔力がもう空っぽで……足も、言うこと聞かなくて……」


「……ああ。ごめん。少し休もう」


アレンはルカの隣に腰を下ろした。


ルカの目は、まだ赤い。


あの時、この目は、自分のために泣いていた。


頭の奥では、かすれたノイズが、途切れ途切れに続いている。



「……ありがとな」



「え?」


「なんでもない」


ルカは首をかしげたが、それ以上は聞かなかった。


アレンは、右手を開いた。


あの赤いコアに触れた指先。


いくら見つめても、そこには、何も残っていなかった。


アレンは、その手を静かに握りしめた。


そして立ち上がり、鉄パイプを両手で構えた。


足を開き、腰を落とす。


村で、猟師のじいさんたちに叩き込まれた構え。


薪の棒を剣に見立てて、ルカと何度も打ち合った、あの構えだ。


ひゅっ、と。


錆びた鉄が、空を切る。


『腰が高ぇ! そんなんじゃ、猪に吹っ飛ばされるぞ』


しわがれた声が、耳の奥でよみがえった。


日に焼けた太い腕。獣の脂と、煙の匂い。

罠の仕掛け方も、獲物の足跡の読み方も、全部あの人たちに教わった。


もう一度、振る。


歯車の下の草地に、薪の棒がぶつかる乾いた音。


『アレン、ずるい! 今のは反則!』


草まみれで転んだルカが、頬をふくらませて笑っていた。


石畳の小道を下り、木の橋を渡ると、どこかの家の窓から、煮込みの匂いが流れてきて。


井戸の広場では、誰かが「早く帰れ」と笑いながら手を振っていて。


もう一度、振る。


――あの夜の、赤い空。


崩れ落ちる屋根。


煙に塗りつぶされていく、窓の灯り。


アレンは、奥歯を噛みしめた。


鉄パイプを握る手に、力がこもる。


もう一度。


もう一度。


「……アレン、休むって言ったのに」


「休んでるよ。足は止めてる」


「腕が動いてたら、意味ないってば」


ルカは呆れたように言って、それから、少しだけ笑った。


その笑い声を聞いて、アレンの手の震えが、ほんの少しだけ収まった。


一振りごとに、手のひらに鉄の重さがなじんでいく。


「行こう、ルカ」


「……うん」


アレンは、ルカより一段先に足をかけた。


ルカは、その背中を見上げた。


村の丘を駆け上がっていた頃と、同じ背中だった。


二人は、もう一度、階段を上り始めた。


その先に、地下49階の入り口が、暗い口を開けて待っていた。


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。


今回は、激しい戦いを終えたあとの、静かな休息の時間を描きました。


命をつないでもらったあとに残る、手の震え。

隣で泣いてくれた幼馴染と、頭の奥で小さく響く声。

そして、素振りのたびによみがえる、故郷の記憶。


派手な場面はありませんが、アレンという少年がどんな人間なのかを、言葉ではなく仕草で感じてもらえたら嬉しいです。


一振りごとに、何を思っていたのか。

ぜひ想像しながら読んでいただけたらと思います。


お手数ですが、☆での率直な評価をいただけると、今後の執筆の参考になります。どうぞよろしくお願いいたします。


それでは、また次話でお会いしましょう。

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