武士の情け
俺は本を何となくパラパラと捲っていくと…、
【……気づけば私は彼女の甘い香りにクラクラとしながら、彼女の臀部に手を回していた。驚き声をあげようとする彼女の唇に私は唇を重ね、その口中を貪るように自らの舌で蹂躙した。やがて二人の口からはクチュクチュと二人の唾液が混ざり合う湿った音が…】
これって、官能小説じゃねーか!
魔法入門はガワだけかよ! 俺のワクワクを返せーーー!
このエロオヤジめ! 中身の魔法の本をどこにやったんだーーーー!
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その日の夜、家族で食事をしている最中、俺は父さんに詰め寄った。
「父さん、魔法の本はどこ? あの本はガワだけで中身は別の本だったよ?」
ブフォ! ガフッ! っと、父さんは口の中の物を盛大に噴き出した。
「お、おま…あれを見たのか!」
「あらトールちゃん、何の話?」
父さんは慌てふたむき、母さんは俺の話に喰いついた。
なので、愛するマイ・マミーの平穏な夫婦生活の為にも、俺は泣く泣く父さんの秘密を暴露する事にしたのだ!
本当はばらしたくないよ? 本当だよ?
「実は父さんの部屋にあるまほ…ングッ!」
全速力で食卓を回り込んできた父さんが、俺の口を塞ぎやがった!
「ま…魔法の本な、あれな~後で貸してやるからな~」
「フガフンガガ?」
「あなた、トールちゃんの口から手を放して。トールちゃん説明なさい」
俺が父さんをチラッと振り返り見ると、目で絶対に言うなと訴えている。
辛いんだよ、俺だってもの凄く辛いんだ! だけどここで言わねば、きっと問題が起きる! って、言った方が問題が起きるのか?
ファンタジーの世界だけでなく、地球でだって中世では本はかなり良いお値段。
特にこんな片田舎で、本なんて高級品を手に入れるのは、かなり難しいはず。
だって行商人しか来ないんだもんな。
なのに、あんな買い手が限定される様な官能小説なんて物を、行商人がわざわざこんな田舎まで持って来るわけない! 断言できる!
そもそも、官能小説ったって好みがある。
兄×妹、姉×弟、母×息子、父×娘、人妻寝取り、ダブル不倫、やスワップ系だけでなく、レイプ系やイチャラブ系など、もうそれは多種多様だ。
その上、日本だって一大勢力を築き上げたお腐れ様ご用達のボーイズラブ物だってある…この世界には広がってないことを願おう…。
父さんが魔法の本のカバーで隠してたあの本の中身は、ずばり巨乳人妻寝取り系だった! いや…意外と良い趣味してんな、父さん…。
仕方ない! 隠し通たい父さんの気持ちを、ここは涙を堪えて汲んであげよう!
うん、精神年齢アラフィフの俺にはわかるよ、その気持ち。
ま、今は肉体年齢5歳だけどね!(笑)。
「母さん、実は魔法の本が見たくって探したけど見つからなくって」
父さん武士の情けだ! ここは誤魔化してあげようじゃないか!
だから、後であの本を、もう一度じっくり読ませてね。
「中身とか表紙とか言ってなかった?」
「ん~~? そんなこと言ったっけ?」
俺は父さんに目でシグナルを送っておいた。
貸し一つだからな?
「んぎゃぁ…んぎゃぁぁぁぁ!」
「あらあら、コルネちゃんはお眠かしら? そう、さっきのは聞き違いだったのね…。まあいいわ。あなた、トールちゃんに魔法の本を貸してあげてね」
微妙に疑ってはいるが、母さんは誤魔化せた…らしい?
俺の天使、コルネちゃんがグズり始めたから有耶無耶になったとも言う。
母さんはコルネちゃんを抱き上げつつ席を立った。
「ああ、もちろんだ。トールは魔法が使いたいんだな! わかったまかせとけ! ハッハッハッハ!」
ワザとらしすぎだよ、父さん。
結局、母さんはコルネちゃんを抱いたまま、寝室へと向かって部屋を出て行った。
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夕食後、俺は父さんの部屋で魔法の本(中身だけ)と、グーダイド王国史という本を借りた。
「父さん、中身だけって…、絶対に母さんにばれるよ?」
「うっ…」
「今回は黙ってるけど、そのうち気付かれちゃうからね」
女の勘ってのは馬鹿に出来ないのだよ。
覚えておくがいい、我が父よ!
「わかった…。取りあえずカバーをくっ付けておこう…」
なぜか父さんは、渋々魔法の本のカバーを中身と合体させた。
そんなにそのカバーが好きだったのか?
まあ、俺は本が読めれば、それでいい。
だが、重要な事なんで、一言だけ言っておこう!
「父さん、その本も後で貸してね。エヘッ!」
上目遣いで可愛くおねだりしてみた。
「お前にはまだ早い!」
父さんに、光の速さで断られた! まあ、確かにまだ5歳だしね。
年齢相応の肉体だから、実は性欲も無いんだけど、気になっちゃうんだよね。
いつか俺の中の抑えきれないリビドーが爆発する日が来るから、その前に貸してくれればいいよ。ちゃんと隠れて自爆するからさ。
ま、まさか父さんも自爆してるのか? まさか将来、父子で同じネタで自爆!?
何か虚しいから、アホな妄想は止めとこう…。
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我が家の部屋割りは、父さんと母さんと妹で一部屋、俺で一部屋だ。
母さんが妹を妊娠するまでは、俺が両親と一緒だった。
今は俺の部屋があるんで、早速読書(真面目な魔法の本)タイムだ。
賢者タイムじゃないから、そこんとこ間違えないように。
かなり重要な事なので、もう一度言っておく。
読書タイムなのだよ、皆さん!
さてさて、まずは魔法の入門書を読みましょうかね。
ふむふむ……なるほど基本的に誰でも魔法は使える可能性はあるっと。
適正はある程度以上の魔法の行使に影響するって事か。
初級魔法なら練習次第で誰にでも使えるってのはいいな。
魔法の行使には魔素が必要とな? そこは魔力じゃないのか?
ほうほう、魔素とはこの世界に満ちていて何処にでもあるのか。
大気の組成の一部と解釈していいのかな?
魔素の濃い場所では、同じ魔法でも威力が上がるのか。
なかなか興味深いな魔法。
やり方次第で色々と応用が出来そうで、探求心がうずうずしてくる。
やっぱファンタジーは、こうでなくっちゃな。
そりゃ、ファンタジー小説の主人公が魔法鍛えて無双したくもなるのも分かるぜ。
ふむふむ……ほうほう……おぉー! なるほど……ふむ……。
こうして部屋にある蝋燭が尽きるまで読書を続けた。
「トールちゃん、早く寝なさい! 蝋燭も高いのよ! 本は昼間に読みなさい!」
夜更かしして本を読み込んでいたら、母さんにめっちゃ怒られた。




