その20
技法を教えて貰えても、その技を熟すのは自分自身である。
ネオは少しでも追い付きたい一心で、一人でも練習をするようになった。刺繍道具をいつも持ち歩き、身の回りにある花や虫をじっと見ながら刺繍していった。もっと早く、もっと正確に。力加減、均等に刺す感覚、太さや長さを触って、見て、手に覚えさせる。上手くできると嬉しいし、思い通りにいかないと悔しいと感じた。教会学校での勉強も、友達との比べっこでもそんなことを思ったことはなかったのに。
上手くできたと思っても、数日後見るとあんまり良いと思えなくなった。本当にこの刺し方が一番良かったのか、違う色が似合うんじゃないか。
試してみたいことがどんどんと浮かんでくる。時間が足りない。
他のことに時間を使うのが惜しくて、教会学校には全く行かなくなった。友達とも遊ばなくなった。誰にも邪魔されたくなかったし、誰からも話しかけられたくなかった。ネオは今迄に無い程、一つのことに没頭していた。気づいたら日暮れ前、なんてこともよくあった。一日は飛ぶように過ぎていくし、まだまだ知りたいことも沢山ある。足りない、足りない、足りない。
村の外にはどんな町があって、どんな景色があるのだろう。オーキー国は広い。両親が働きに出ている町の組合も見たいし、ボンジュの話に聞いた海だって見たい。人に溢れた王都も見たい。王族の居る王都は、人々が身に付けているものも、流行りのもの、村に居ては拝めないものばかりに違いない。
ネオは神父がいつもしていた王都の魔法学院のことを思い出した。
選ばれた者が通う魔法を学ぶ場所。モーベロン様に力を与えられ、魔法で以って人々に奉仕することを天命とし、神に仕えることを誓った者達の修練のための場所。怪我を治療できるのは素晴らしいし、何より無償で施してくれるのはありがたい。
しかし、魔法は治癒の魔法しかないのだろうか。神父は常々、モーベロン様の御加護により与えられるただ一つの御技が治癒の魔法だと言っていたが、ボンジュが言っていた、古の守人は…
…魔法を使ってたんじゃないのか。
そうだとしたら、何故、神父様は治癒魔法しかないと言うのだろう。どうしてモックスプナタリオンの噛み跡がある人しか使えないのだろう。魔法学院ではどんなことを教えてくれるのだろう。王都に行くことができれば魔法に纏わることの一端でも知れるだろうか。
疑問は尽きず、頭の中に次々に押し寄せてくる。自分が知っていることなんて本当に少なくて、出来ることはもっと限られている。今はまだ村の中で、目の前にあることに精一杯だが、ここでの興味が満たされたとしたら…
そんなことを考える日々が続き、七の月はあっという間に終わろうとしていた。




