表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/32

その16

一方、村は森から(かす)かに聞こえた不気味な咆哮(ほうこう)にざわついていた。


「ヤマグマでも出たか」

「この辺りには居ない筈だが… 村に来ると大変だ。男衆は集まって警戒を…」


広場に居た大人達の話を遮るように、再び何かの叫ぶ声が聞こえた。今度は、はっきりと。


「まさかワザワイノツカイが出たんじゃねえだろうな」

「そんな、大昔じゃないんだぞ。ワザワイノツカイなんて」

「何か光らなかったか?」

「何も分からんと対処ができない。一度教会へ皆を集めるんだ。誰か森へ入っている奴は居ないか?」


村人達は互いに声を掛け、その場に居ない者を探す。

家の中に居た者、畑に出ていた者が連れ立って教会へ向かう。子供や老人が多い村で、凶暴な獣が来ることは大きな被害が出ることを意味する。ましてや人がどうすることもできない、と話に聞くワザワイノツカイが来たとなると、なす(すべ)がないだろう。


その頃、ネオは庭の畑で草を(むし)っていた。急に首筋が冷え、背中にざわりと悪寒が走った。


何だろう…。風も吹いてないのに。


そして森からの声を聞く。今までに聞いたことのない、恐ろしい声。森の方を向き、思わず立ち上がった。

立ち上がったが、体が固まったように動かない。立ちくらみに似た、血が下がる感覚に襲われる。

森に何かが居る。ボンジュが入っているはずの森に。


どうしよう、どうしよう、どうしたらいい?


頭と気持ちが乱れる中、木々の隙間から噴き上がる光をネオは見た。金色に輝く光と(まだら)に千切れた影の切れ端を見た。そして耳が痛くなるような叫びを聞いた。


何が…起こってるの…?


「ネオ、居たか。皆今教会に集まって… って、オイ!」


ダヒルの声に、戒めが解けたように体が動いた。森へ走ろうとするネオにダヒルは飛びつく。


「ばあちゃんが、森に行っているんだ」

「何…! 落ち着け、俺等が行ってもどうしようもできねぇよ。大人達に知らせよう」


ネオの心は(おさま)らなかった。大人だってどうしようもできなかったら、どうするというのか。ダヒルに連れて行かれながら、不安はモヤモヤと(つの)っていく。


どうしよう。ばあちゃんに何かあったら。お願いします、神様。ばあちゃんを守って…! 


教会に着いたネオとダヒルはボンジュのことを大人達に伝えた。ボンジュの捜索に村の男衆何人かがあたってくれ、程なく帰還した。青い顔をしながらも、ボンジュは戻って来たのである。


「ばあちゃん!」


ネオはボンジュへ駆け寄る。


「ああ、ネオ…」


ボンジュの目は(うつ)ろで顔色はすこぶる悪かったが、怪我をしている様子もなかった。


「ボンジュさん、あの声は何だったのかね」

「………ワザワイノツカイさ」

「ワザワイノツカイだって?!」

「そんな、まさか!」

「本当なら生きて帰れるもんか!ワザワイノツカイなんて何処にも居なかったじゃないか!」


広場は騒然となり、混乱を極めた。


「ああ。いきなり消え失せたんだ。跡しか残っちゃいない。あたしにも何が何だか…」

「これもきっと、モーベロン様のご加護でしょう」


神父はそう(のたま)い、手を合わせた。他の者もワザワイノツカイが出たなど信じられない、と口にしながらも神父に(なら)い、合掌する。


「そう… ご加護さ。神の…」


村人のざわめきに埋もれ、ボンジュの呟きを気にする大人は居なかった。至極当然のその言葉が、ダヒルには何故か意味ありげに聞こえた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ