その15
その時、閉じていた瞼の向こうに光を感じた。
流れていた記憶が途切れ、その拍子で目を開けた。…エプロンのポケットが淡く輝いている。手を入れ探ると、光源はネオのくれたリボンだった。一体何事かと、手の平に乗せたリボンをよく見ようとした瞬間、リボンに施された刺繍が一際強く光った。
カッと眩く輝いた光はワザワイノツカイに向かった。強すぎる光にボンジュは思わず目を瞑る。
何だ。何が起こっているのか分からない。
ァァッツアアアアアアアアアギャァァアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!
聞こえたのは凄まじい叫び声。先程の吠え声より大きなワザワイノツカイの叫びだった。相手に自身の優位を示す咆哮ではない、恐れ慄く悲痛な叫声だった。
ビリビリと空気が震える。ボンジュは圧力に耐えるよう踏ん張った。
音が止み、ようやく光が収まって、そっと目を開ける。何故か、ワザワイノツカイの姿はそこになかった。逃げ去ったのかと思ったが、四方に通り跡は見当らない。代わりにあるのは、そこに居たことを示す木や草が踏み倒されてできた空間。そして地面に焼付いたように残る、タールのような黒い跡。
ワザワイノツカイは消えてしまった。存在した跡だけを残して、消えた。幻でもなく、立ち去ったのでもなく、消えて無くなってしまった。
足から力が抜け、ボンジュはその場にへたり込んだ。鼓動が耳の奥からいやに大きく、ドクドクと聞こえる。
…生きている。
浅い息を体が繰り返す。下がった手からリボンがはらりと落ちた。落ちた感触で意識がリボンへ向く。汗が額からツッと流れた。
あの子には何も教えていない。何も知らない。…何も…知らない…はず
鼓動がさらに速くなった気がした。心臓は異常に動いているのに、体に全く力が入らない。
座り込んだまま、ボンジュはしばらく動けなかった。この時、ボンジュの力を取り上げ、心臓の動きを速めたのは、死を免れた安堵ではなく、ワザワイノツカイを消し飛ばす刺繍を刺したネオであった。




