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その13

食卓に置かれた燭台が何かの弾みでカタリと音を立てた。その音でボンジュは意識を引き戻した。

ネオはこの刺繍をいつから用意していたのだろう。あのショールは抽斗に仕舞ったままだ。ボンジュの知らない間に見たりしていたのだろうか。


燭台を手に、自室に向かったボンジュは抽斗(ひきだし)を開けてみた。ショールは一番下に仕舞い込んである。ボンジュだって年明けの日から取り出していない。折り畳まれ、記憶の通りの場所にあった。

広げて大事な模様の所を見る。ネオの作った刺繍を並べて比べてみても、模様は全く同じだった。差があると言えば、まだ刺繍の腕が拙いものだから、少し糸がよれているところくらいだ。


明かりにしていた燭台から、蝋がポタリと落ちた。それもショールの模様の上に。

まずい。糸が切れようものなら、元に戻せない。この糸は今の自分には作れない。

無理に蝋を剥がしては刺繍を傷めてしまうかもしれない。明日、明るくなってから直そう。

ショールもリボンも抽斗に仕舞い、ボンジュは蝋燭の火をフッと吹き消した。




村から明かりが消え、皆が寝静まった頃。風にさやいで揺れる木々の音、夜動く生き物や虫の声がそこいらでする森の中。今夜は空に月も出ていない。星々は雲に隠れ、湿った闇がじんわりと沈んでくる。


どこかとも定かでない闇の中で、目に見えない腐った空気が渦を巻く。ぐるぐると大きく回る螺旋の先に、重さを増した気味の悪い塊が溜まっていく。そして…

ここで生きるモノでない何かが、森の中で形を成した。

ピリっと小さな静電気のような空気が走る。眠っていた森の生き物達も普段とは違う何かを感じ、飛び起きて逃げ出す。夜目の利くクチボソヨタカがギギと鳴き、以降は生き物の音はスンと止まった。

草木が薙ぎ倒され、重苦しい何かを引きずる音だけが、途切れ途切れに残されていく。

森の異変に気づかないのは、いつも通り安寧の夢を見る人間達だけ。




夜が明けてすぐに、ボンジュはショールの手直しに取り掛かった。糸を傷めないよう、ゆっくり少しづつ蝋を剥がす。屑を払って布を整えると、きちんと元通りになった。

よかった。糸もほつれてない。

一安心したボンジュは、ついでにとネオの刺繍のよれていた糸も引いて直しておいた。


「ネオ、ありがとうね。このリボン」


ボンジュは落ち着きを取り戻し、起きてきたネオに感謝の気持ちを伝えた。

ネオは照れたように笑った。


「えへへ、使ってくれる?」

「もちろんさ、後でこれに付け替えておくよ」


ネオは上機嫌だった。朝餉も勢いよく食べ、庭のピヒピヨ鳥たちの世話に向かった。

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