その11
ネオを外に遊びに行かせてから直ぐに、ボンジュは忙しく動き回っていた。
まずは掃除。昨日までに大体済ませておいたのだが、今日は最も清めておかなければならない。特に台所の水場は念入りに磨き上げた。
掃除が終わると、朝から煮て骨から外しておいたポロッポ鳥の肉を冷暗所をから取り出した。外した燻製の骨と根菜から取った出汁は昼にトマトスープにして食べた。
出汁を濾して残った食材から骨を取り除き、ポロッポ鳥の肉とヒナ豆、岩塩、山椒、そしてひとさじの蜂蜜を加え、残ったトマトスープと合わせて煮詰める。バターを何層にも重ねたパイ生地を焼き皿に広げ、とろりと煮詰めた鍋の中身をゆっくり乗せて優しく包む。
後はこれを竃で焼けば出来上がり。竃に火を入れ、薪を足す。薪が炭化し、竃の中の温度が十分上がったところで焼き皿を入れ、戸を閉めた。
ふと視線を横にずらす。竃の側に置いたオボラの花に、日の光が窓より注がれていた。綿雪のように白い花は、開花した時のように光を纏う。
きれい…
ボンジュは幼い頃に母に聞かされた話を思い出した。光の神が生まれた日、祝うために真っ先に咲いたのがオボラの花。だから、この日に採ってきた一番目に咲いた花を飾るのだと。
「天の下在す 御ジュシュ様よ 遍く我らに与えたもう 御光 眩し 尊きや
大御の神がお生まれの めでたき始祖の日 かしこみ かしこみ」
ボンジュは目を閉じ、毎年この日に唱える、木教ではない神を称える言葉を口にした。とても小さな声で。なぜなら。
この言葉は誰にも聞かれてはいけない。
先程までの穏やかな気持ちは薄れ、胸中に一抹の不安が来去する。自分は年を取った。体は老いに逆らえず、あと数年でオボラの一番花を採りに行けなくなる。もう、この日を祝えない時が来る。誰にも、何も伝えられないまま…
何もしていないと悲観的な思いが押し寄せてくる。特別な日に嫌な事を考えたくない。ボンジュは桶を抱え、水を汲みに外へ出た。




