その8
「お、ネオ。教会で会うのいつぶりよ?」
トコトコと教会に入ってきたダヒルが隣に座ってきた。
「ん…ちょっとね… 最近忙しくて」
「大人みたいなこと言うんじゃねえよ。全く」
「みなさん、おはようございます」
神父が登壇し、子供達は一斉にシュンと静かになる。
「今日もスタトット村は平和ですね。人々は温和で働き者。しかし、この穏やかな日々は昔から当たり前に在った訳ではありません。…今日は国の興りについてお話しましょうか」
天井の高い簡素な講堂は木の長椅子だけが並べられており、丸い硝子の窓から日の光がこぼれ落ちていた。一段高くなった構台に腰掛け、神父はゆっくりと話し始める。
「今より100年も昔のこと、世は幾つもの集落に分かれ、まさに混沌の時代でした。統一がまだなされていない世は大変不安定で、災厄がそこかしこで起こり、飢えや病気に苦しむ者が大勢いました。これらは全てワザワイノツカイが現われたためです」
ワザワイノツカイ。生き物であり、生き物でない。体があるのに実体が掴めない。どこから生まれているのか多くの学者が様々な説を唱えているが、未だ分らない。姿形は様々で、暴れに暴れて去っていく。
あるモノは風を巻き起こし、氷の雨を降らせ土地を荒らす。あるモノは稲妻を呼び、木々を燃やし尽くす。あるモノは水を溢れさせ、全てを押し流す。あるモノは病を広め、あるモノは目に付いた物を全て喰らう。
どう立ち向かおうと、抗おうと、防ごうと、全て無駄、全く無意味。圧倒的な力の前に、人間はどうか助かりますようにと祈ることしかできない。
「我らが偉大なる初代王モーゼル様は、真の神モーベロン様よりこの世を統一し、人々を正しい道に導くよう聖なる任を与えられたのです。モーゼル様は民の1人1人に木教の教えを説きながら、粗野で野蛮な人々に文明という光を与えました。モーゼル様はモーベロン様より賜った魔法の力を惜しみなく使い、国を一つにまとめたのです。するとどうでしょう、ワザワイノツカイは次第に姿を現さなくなりました。こうして統一を成し遂げた功績を称える日が国統一の日で…」
蕩々と述べる神父の説教を聞きながら、ネオは今日の事を考えていた。
ボンジュは何故、薫風月の20の日、オボラの花を取りに行くのだろう。糸を染める材料にはしていないし、一房だけ竃の近くに飾っている。綺麗な硝子の器に生けて。
美味しい料理も食べられる。ボンジュの好物、ポロッポ鳥のパイ包み。ネオの好物の香辛料と香草がたっぷり入ったルビトマトのスープも。父や母が居れば、2人の好物も食卓に並んだ。
それが決まって薫風月の20の日だとネオが気付いたのは、3年程前。一度、どうして今日はご馳走なの?と聞いたことがあった。ボンジュは笑って「あたしの機嫌がいいからさ」としか答えなかった。両親にも聞いたが、知らないと言っていたし、そんなことどうでも良さそうだった。




