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その7

家に帰りついた頃には、しっかりと明るく、ばっちり朝になっていた。

静かに戸を開け、台所に入っても、背から下ろした籠を置く以外の物音がしない。まだネオは起きていないようだ。

ボンジュはそうっと半円状の浅い硝子の器を戸棚から出した。冷えた水を張り、オボラの一番花を浮かべる。ふんわりと咲いた花は茎だけを水の中に沈めた。うっすら青みがかった硝子に、白い花弁が緩やかに揺蕩(たゆた)う。


一番花は、やはり特別に映る。ボンジュは器を(うやうや)しく捧げ持つと、(かまど)の側にそっと置いた。


残りの花は、背の高い素焼きの水差しに生け、食卓に飾る。花を生け終わると、数日前、行商市で手に入れた高級品のバターとポロッポ鳥の燻製を冷暗所から取り出した。これから仕込む、今日の夜のための特別なご馳走、ポロッポ鳥のパイ包み。その味を思うと胸が躍った。

大鍋に鳥がひたひたになるまで水を入れて、煮立ってきたところで香辛料と野菜を放り込む。煮込んでいる間に生地の仕上げ。粉をこねて薄く伸ばし、バターを包んではまた伸ばす。何度も何度も繰り返し、出来上がった生地は一旦冷暗所に戻しておく。

次は朝餉(あさげ)の支度。朝は決まって雑穀粥か、古くて固くなったパンを山羊の乳で煮ふやかした乳粥だ。でも、今日は特別な日。朝もちょっと特別にしてやろうと、乳粥にバターひとかけと蜂蜜漬けの木の実を砕いて入れた。


それにしても今日はネオが中々起きてこない。いつもならとっくに、「お腹空いたー」と言いながら手伝いに来るのに。


「ネオ、起きてるかい?」

「あ、うん」


朝餉の支度が整ったので屋根裏で寝ているネオを呼ぶと、バサッと掛け布団をはね除ける音がした。


「早く顔洗っといで。朝ご飯出来てるよ」

「すぐ行くから、あっちで待ってて!」


慌てて着替えながら返事をするネオを残し、ボンジュは台所に戻った。ネオは詰めていた息を吐き、布団に隠した小袋をズボンのポケットに突っ込んで梯子を降りる。

台所からは、いつもと違う香りが漂っていた。鼻をくすぐる香辛料とハーブと甘い蜂蜜の香り。


やはり今日は朝から特別だ。


乳粥を見て、ネオは特別な日が今日で間違いなかったと確信した。

甘くてねっとりと美味しい朝餉を食べ終え、鞄を引っ掴んで戸口に向かう。


「行ってきます!」


今日はボンジュが家に誰か居るのを嫌う。ネオは久しぶりに教会学校へ向かった。

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