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転生魔術師の異世界生活~幾千と破滅フラグを回避していくうちにチートに目覚めて最強になる~  作者: 哀上寝之
第二章

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第四十八話「メイドさんとの組手」

 二ヶ月ほど城下散策はお休み。

 ほとぼりが冷めるまでだとかではない。

 五人の行方を追っているうちに、なんとなくずるずると時が経っていた。


 外出は定期的なお姉様たちとの勉強会くらい。

 朝から夕まで魔法と武術の修練。

 夕から寝るまで勉強に勤む毎日を送っている。


 前はそこそこの頻度でハールマ城に通っていたが、今は次男タカイスの方からティンバラスール城の方に出向いてくるようになった。

 ご機嫌伺いとかもっともらしい理由をつけて、本当はマーグラの様子を見に来ているのだ。

 四男から下の弟たちも同様で、たまに遊びにやってくる。


 グェムリッド宮殿中庭。

 

 俺はジェニングズの一件以降、実践を想定した修練に励んでいた。


 クケイとの間合いは三〇メートルほど。

 お互いシャツにドロワーズという簡素な格好である。

 

 魔力増幅(ダリーサーラ)は五回復唱。

 最近は五回程度なら肉体への負担も感じなくなった。

 一見すれば、魔法の得意な俺が有利であろうか。


 クケイは短めの木刀を片手に一礼し、駆けてきた。


光弾(カエラスティス)!」


 俺は両手から光り輝く魔力の(かたまり)を次々に放つ。

 その数十六発。


 クケイは高速で射出される破壊魔法を右に左に躱していく。

 光弾(カエラスティス)は地に着弾するごとに土ぼこりが舞う。

 芝にめり込んだり、跳ね上がって暴れる光弾は、すぐには消滅せず煌々(こうこう)と瞬く。

 土ぼこりと眩しさで視界は最悪である。


 クケイの気配は正面。

 右後ろに内力(ないりょく)を移して陽動。

 気配を消して左方から旋回することにした。

 旋回した先、クケイが最初に立っていた地点に移動する。


小魔の雷槍雨(ディアボルトゥニトゥラスタム)!」


 手を合わせてから少し間隔を広げると、両掌(りょうてのひら)の間に荒々しい火花が発生。

 それを再び押し込み、魔力を込めて一気に解放し、上空に飛ばした。

 

 上空に漂う不安定なエネルギーの塊。

 色こそ青白く(まばゆ)いが、線香花火の火球の様に、ゆらゆらと小さな火花を散らしている。


「落ちろ!」


 火球は合図と同時に膨張し、無数の小さな雷となって地に降り注いだ。

 耳をつんざく破裂音を何度も立てながら芝を抉っていく。

 と同時に、跳ねまわったり地面で(うごめ)いたりしている光弾(カエラスティス)を全て爆発させた。


 相変わらず土ぼこりと眩しさで視界は悪い。


「ッ!!」


 背後。


 木刀の横なぎを間一髪伏せて避ける。

 遅れた髪の毛先が斬られた。


「お見事です」


 気配を完全に消されていて感知不能。

 クケイの肉薄は予想よりだいぶ速かった。

 

 地に伏せた状態からクケイの足を獲ろうとする矢先、彼女の右膝が迎え撃たんと反応を見せた。


「あっぶ!」


 辛うじて膝蹴りを避け、立ち上がる。

 休む暇もなくクケイが斬り掛かってきた。


 手に魔力を(まと)わせてクケイの木刀の斬撃を()なす。


 毎秒、都合五合の斬撃。

 ジリ貧である。


 木刀は浮いていた。

 手から明らかに得物(えもの)が離れているのに、クケイはそれを意のままに操っている。

 手元で一回転したり、一メートルほど離れてまた戻ってきたり。

 先が予測しにくいのに加えて、斬撃の速度が少しずつ早まっていた。


 六合、七合、八合……。

 少しずつ確実に早くなる。


 体捌きや歩法も徐々に複雑になり、掌打や蹴りまで浴びせてくる。

 段々とクケイの口角が上がっていく。


「ここだ」


 カァン!


 渇いた音。


 浮いた木刀を巻き上がれ(キャビスサジット)を纏わせた手で弾くと、高速回転しながら上空高くまで飛んでいった。


「まだ終わりではありません」


 木刀が飛ばされたことを気に留めず、攻撃の手を緩めない。

 むしろ木刀を振り回していた時の方がマシと思える位に攻撃が苛烈になった。


「!?」


 両腕が突然ピクリとも動かない。

 攻撃を捌いてるうちにどこかで点穴を突かれていたようである。


 跳び上がり、クケイに蹴りを四発浴びせた。


 四発目の反動で距離を取ろうと空中で一回転した時、正面にクケイは居なかった。

 またも背後。

 気付く頃には空中で背中を獲られ、裸締め(バックチョーク)され掛かっていた。


 そのまま落下し、二人して尻餅。


「……、」

「成長されましたね」


 一昨年(おととし)までクケイの一撃は避けられなかった。

 去年は避けられるようにはなったが、魔術師の本能から間合いを取ることばかり考えて、詰めることをしなかった。

 今年から間合いを詰めて、そこから体術で対応するようになったのだ。


 武術の腕は向上し、魔法の手数も大分増えている。

 間違いなく成長はしているが、差は少しずつしか縮まらない。


「っと、え?」


 点穴を解放してくれたかと思ったら、そのまま膝枕に移行した。


「先の手合せについておさらいをいたします」

「このままで?」

「お嫌でしょうか……?」

「あっ、嫌じゃないですけど」


 上空を眺めていると高速回転しながら木刀が落ちてくる。

 クケイが手を鉤爪状にして待ち構えていると、木刀は不自然に引き寄せられてその手の内に収まり、丁寧に横に置いた。


「目を眩ませたあとの陽動は素晴らしかった。一般的な魔術師ではあのように内力操作できる者はおりませんから、気を探る者であれば一度は引っかかりましょう」

小魔の雷槍雨(ディアボルトゥニトゥラスタム)はどうやって避けたんですか?」

「雷が落ちる前に移動しただけでございます」

「はあ」


 世の中上には上が居るのだ。

 わかってはいるけど悔しい。


「そんな落ち込まないでくださいませ。リョウ様は十分お強いのですから」

「どうせ直撃しても内力と魔力で保護(レジスト)するんですよね? あのあとの徒手にしてもそうです。はぁ、僕の自信はズタボロですよ」


 クケイは優しく頭を撫でてくれながら、


(わたくし)には詠唱を省き全力で攻撃なさっても」

「それは駄目です」


 無詠唱で、周りの影響を考慮しなければ戦闘をより有利に運べるのはわかってる。

 戦闘技術と内功はともかく、魔力と単純な攻撃力は俺の方が上だ。


 単に事故が怖かった。

 周りの人間が気付かず巻き込まれたら。

 そう思うと無詠唱ではなかなか闘れない。

 そういう場面に遭遇し、(はら)でも括れば別だが。

 俺は周囲を考慮せず暴れたらどうなるかを知っている。

 あの広場でみた破滅的結末のうち、開き直って(ほふ)った将来だ。

 ()()()()()()()()()()が、感覚は頭の中に生々しく記憶されている。

 

「リョウ様はすでに一流の魔術師であらせられるのです。小魔の雷槍雨(ディアボルトゥニトゥラスタム)は難しい魔法です。レベルこそ四に定義してありますが、制御の難しさからみれば五か六に相当します。運用は高度で術式を自ら組んでいるのと変わりなく、魔術の領域とも言えましょう」


 小魔の雷槍雨(ディアボルトゥニトゥラスタム)小魔の雷撃(ディアボルトゥニトゥルア)の応用。

 一撃の威力は下がるので同じLv4に定義されている。

 クケイに対しては目暗ましにしかならなかったが、そこらの使い手なら感電した時点で行動不能は間違いない。

 

「――――闘いながら三つ同時に魔法を発動できる魔術師などそうはいません。ですから、どうか気を落とさず精進なさいませ。近いうち私がご指導願う時がくると思います」

「わかりまひた。ありがとうございまふ」


 お腹。

 鼻で息を吐いて吸うと、クケイの匂いが鼻腔に流れ込む。

 

「……、」


 クケイの方からツッコミを入れてくれるのを待っているのに、一向にその気配がない。

 時間にして一分。

 沈黙が続く。

 短いようで、体感的には戦闘時のように長かった。


 ちなみに今日の性別は男の子。

 自分から起き上がれば終わるのに、本能がこの状況から抜け出したくないと拒否するのだ。

 きっかけが欲しい。


「りょーうー! 結構揺れたけどなにしたの?」


 聞き慣れた声にビクッと起き上がる。

 見上げると鸞子(ランコ)が腰に両手を当て覗き込んでいた。

 

 どうやら室内まで揺れたらしい。


「あ、えっと、指南してもらってました」

「……クケイ? 体調悪いのかしら?」

「問題ありません。少し早いですが今日はこれまでにしましょう。誰か」


 立ち上がり手を叩く。

 エレシュとイナンナが駆け寄ってきた。

 何かを払拭するように、てきぱきと彼女らに指示を伝えている。


「ねぇ、クケイに何したの?」


 鸞子の言葉が、ギクりと心に突き刺さる。


「別に、なにも」

「へぇー、何もしてないのにあんな顔するんだ」

「……、」


 原因は明白だが、言い出せない。


「なんかモヤっとするわ、そこに直りなさい!」

「ひぃ」


 ひさしぶりに(ラン)に関節技を掛けられ尋問。

 口は割らなかった。





***





 次の日の朝。


「あっ、あぁ……」


 やらかした。

 若い男の子なら稀にあるやつだ。

 ちなみに前世でやらかしたことはない。

 まさか意図せず欲望を外へ吐き出してしまうとは。


「ご気分でも優れませんか?」

「な、なんでも……ないです」

「すん、すんすん」


 クケイは鼻を利かせている。


「あっ、駄目です! 正直に言いますね、パンツ汚しちゃいました」

「リョウ様が、ですか? 何かご病気でも!?」

「大丈夫です。これは男の子ならたまにある生理現象なので……」

「そうなのですか。ではシャワーと着替えの準備をいたします」

「うぅ……姉上にはどうか」

「心得ております」


 (ラン)は何も知らずにスヤスヤ寝ている。

 悟られるわけにはいかない。





 シャワー室にて。


「あの下着は提出いたしますがよろしいでしょうか」


 たぶん城の医者に病理診断されるのだろう。


「できればして欲しくないですけど」

「ならば私が洗っておきましょう」

「助かります……」


 鸞子の下着類は基本使い捨てで、常に新品をつけている。

 ヒミカも恐らく同様。

 領主の令嬢、金持ちとしてはまぁ普通のことだろう。

 もちろんそのまま捨てるのではなく、洗濯のあとは御用品として世に回るのだ。

 本来は城の雑収入だが、現状は実家が貧しい使用人たちのお小遣い稼ぎと化している。

 

 俺に関しては、何回か使うようにお願いしている。

 単にもったいないと思ってしまうのと、お気に入りの下着とかあったりするのもある。

 とある侍女によれば、着古した方が喜ぶ顧客もいるそうだ。

 それはもはや御用品じゃねーだろというのは置いておこう。


 その後、粗相した下着が戻ってくることはなかったが、恥ずかしくて行方を()きだせなかった。

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