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転生魔術師の異世界生活~幾千と破滅フラグを回避していくうちにチートに目覚めて最強になる~  作者: 哀上寝之
第二章

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第四十四話「浴室の誤解」

 ティンバラスール城旧本殿。

 カーシャと雑談しながら階を上り、アイザール王サグラの居住スペースに到着。

 

 サグラのおわす浴場まで案内されていつもの拝礼(どげざ)をしていると、


「浴室に来て衣服を(まと)っているとは何事か。こやつを脱がせ」

「はっ!」

「……寝込んでて何日かお風呂入ってないんです。おやめください」

「ならば入ればよいではないか」


 その場で数人の侍女に群がられ身包みを剥された。

 カーシャは執務室、エレシュとイナンナは更衣室で待たされている。

 ここにはサグラ配下の侍女しかいなかった。

 侍女に体中隅々まで洗ってもらい、円形の大きな浴槽へ。

 中心に(かめ)を担いだ女性像があり、甕から湯が滔々(とうとう)と流れ落ちていた。


「裸の付き合いというのはいいな」

「ご命令でなければ殿下と風呂をご一緒なんてしませんけど」

「余と同じ湯に浸かるのを嫌と申すか」

「そうでなくてですね、皇族の礼法にも書かれているでしょう。本来僕なんかが殿下と一緒の湯につかろうものなら、それだけでも打ち首ものなんですよ。今や形骸化しているのでお咎めなしですが、仮にもスヴァルガの王子がですね――――」

「ふぅー、カーシャかそなたは……」

「それに僕が男の体じゃなかったらどうするんですか。もう男女の区別はついていらっしゃるでしょう?」

「今日は男子ゆえ問題はあるまい。余は女子でも構わんしむしろ嬉しいぞ」


 距離を縮めてくるので、縮まった分だけ横に移動。


「女だったら絶対入ってませんでしたけど」

「しかしそなた、どちらでもそう変わらんだろう? おっと、悪い意味ではないからな」

「いまのところはそうですけど、『男女七歳にして席を同じうせず』というでしょう」

「意味は何となく分かるが、どこの国の格言だそれは」

「あっ! えーっとですね……」

「どうせショウ国あたりの言葉だろう」

「そんなところです」


 儒家経典・礼記の一節。

 要するに男女の区別はしっかりしましょうねという意味の格言。

 今回に限っては、


『疑われるような行動は慎みましょう』


 という意味合いで口を滑らせてしまったのだが、文面そのままに取ってくれてそうだ。

 物理的に区別のしっかりしてない俺には耳の痛い言葉でもある。


「あの時、そなたに兄上などと呼ばれるのも悪くなかったな。普段からそう呼んでもよいのだぞ。そも、ランは余を名で呼んでくれるのに、なにゆえ(かたく)なに殿下などと敬称で呼ぶ?」

「今更呼び方を変えたら皆が邪推するでしょう」

「させておけばよいではないか」


 お互いの精神年齢はともかく、客観的にみて俺がサグラに仕えて兄事しているように見えるのは事実だろう。

 兄上だとかサグラ様と呼んでみてもいいが、こっぱずかしさが邪魔していた。

 これが三〇ほど年下の子供と思えば気楽に接せられるかもしれない。

 さりとて幼き我が肉体が影響しているのか、どうも割り切れなかった。


「また今度、機会があればということで……」

「そうやって何時までも呼んでくれぬのであろうなぁ」


 残念そうに手元の湯を遊ばせるので、無理やり話題を変えてみる。


「他に何か気になったことなどございませんか?」

「そうだ。あの日使った魔法で気になったものがあった。(しるし)だとか言って手元で白黒の魔法を使っていただろう」

「これですか」


 左掌に白く眩く光る球体を、右掌にどす黒い球体を発現させる。

 大きさはゴム鞠ほど。

 嬉しそうに、


「それだ!」

「白い方を光弾(カエラスティス)、黒い方を小魔の闇(ディアティネブラ)といいます。Lv(レベル)3の破壊魔法で、魔力の塊みたいなものです」

「余に撃ってみせよ」

「撃ちませんよ。しっかり内力を(まと)えば軽傷で済むかもしれませんけど駄目です」

「面白くない」

「はあ……」


 二つの魔法を食指(ひとさしゆび)の先で小さくしていく。

 直径五ミリ程度になったところで、目の前の湯船にゆっくりと放った。

 ふよふよと頼りなさそうに、白と黒の球体が湯船に触れた瞬間。


 ドン!


 二つ、天井まで届くほどの湯柱が上がった。


 湯が掛からないように魔法障壁(パヴィーナス)を発生させる。


「威力を抑えてこれか、素晴らしいな。そなたの魔法障壁(パヴィーナス)は変幻自在だが、耐性はどうなのだ?」

「魔力を特殊に変化させてるので、よほどの威力でない限り燃えませんし凍りません」

「空気の膜のように見えるが、燃えもせず凍りもしないのか」

「僕のパヴィーナスは空気の膜のようで空気ではないんです。攻撃は内力や魔力で保護(レジスト)しますよね? より応用性の高いもの、と言えばいいんでしょうか」


 魔法障壁(パヴィーナス)を形状変化させ正面に持ってくる。

 右の食指(ひとさしゆび)から威力を抑えた歪な炎(ヴォルテフラミス)の火炎を放射。

 炎は魔法障壁(パヴィーナス)に当たると散っている。


 ほとんどの魔術師の使う魔法障壁(パヴィーナス)は、契約や行使の方法などを理由にベタにカッコいい魔法陣が出てきたり、耐性的に得意不得意な属性が出てきたりする。

 ゆえに、目的と相性に応じた別の魔法の方が好ましいことも多い。

 魔法障壁(パヴィーナス)は本来、使用者によって、性質、強度、自由度が変わる魔法。

 おおかた使用者が使いこなせてないだけなのだ。


 俺はヴァトファーシオと同じく修練に修練を重ねて、感覚で使っている。


「ふうむ……苦も無く二つ同時に魔法を使っておるし、そなたをみておると、カーシャと同じ上級者(セニオル)なのが信じられなくなってくるな」


 感嘆しながら距離を縮めてくる。

 背筋がピンとなり、思わず魔法の発現を止めた。


「どうした?」


 悪気があるのかないのか。

 その後も湯を愉しみつつ先の騒動について雑談していると、更衣室に控えている侍女たちが(にわ)かに騒ぎ始めた。


「何事だ」

「その、ランコ様がお越しです。ネイ様と部屋の外で話されてます」

「部屋に入れて待たせておけ」

「はっ」

「あまり待たすのは悪い。流して上がるか」

「ですね」

「肩まで浸かってから上がりましょうか。……いーち、にーい」

「なんだそれは」

(ちまた)では、僕ら位の年頃の子は、湯船から上がる時、唄を歌ったり数字を数えるそうですよ」


 ティンバラ出身の侍女から聞いたので、でまかせではない。

 そういった風俗はこの世界にもそこそこあるらしい。

 もっともらしい理由もある。

 子供の就学率の低さと死亡率の高さだ。

 子供だけで入らせるときは、声を出して数えさせたり歌わせることで、数への理解と安全対策をしているのだ。


(なら)おうか」

「二〇まで数えましょう」

 

 声を合わせ数を数える。

 広い浴槽でやるのはいささかシュール。

 取り敢えず付き合ってくれるサグラは嫌いじゃない。


「にーじゅう!」


 同時にざぱぁと立ち上がり、浴槽から出た。


「おっと」

 

 頭に血が行っていない。

 立っているのがつらく息が苦しい。

 つまり、のぼせた。

 いつもなら内息(ないそく)と血流を整えてから上がるのに、完全に失念していた。


「おい――――」


 サグラに腕を掴まれだが時既に遅し。

 のぼせの所偽(せい)で魔法を使う余裕もない。

 侍女たちの悲鳴があがる。


「痛っ……くない?」

「大事ないか」

「……殿下の方こそお怪我は」


 サグラが咄嗟(とっさ)に下敷きになってくれていた。


 天然石を重ねて加工してある浴槽。

 床は研磨された全面アラベスク模様の白大理石で構成されている。

 あたりどころが悪ければ破滅的結末(バッドエンド)になりかねない。

 ()()()()()()ということはそうはならんのだろうが……。


 簡易的に結っていた髪が解けた。

 サグラは仰向けに寝そべったまま、濡れてボサッとした俺の髪を指で丁寧によけて、無邪気に抱きしめてくる。


「傷を負えばそなたが治せばよかろう」

「戯れが過ぎます。カーシャさんや侍従に見られたらどうするんですか!」

「カーシャと他の侍従は執務室に押し込んであるし、ネイはこのようなことで小言はいわぬから心配せずともよい」

「だぁぁッ! やめてくだッ……やめろォ!!」

 

 それにしても一〇歳の少年とは思えない体つきである。

 まだ筋量は少ないが体格的に十三、四歳相当。

 

「胸が高鳴っておるぞ」

「はっ、ただの動悸、今内息を整えてる所ですよ」


 嘘偽りなく血行が良くなりすぎての動悸だ。

 浴槽から出た瞬間は頭に血が行ってなかったのに、今はドキドキして(せわ)しく全身に回っている。

 別に深い意味はない。

 普通にお願いしてもサグラは言うことを聞いてくれない。


 精神感応(テレパス)で、いや、物理的に心へ訴えかければあるいは……。


「ならば落ち着くまでこのまま――――」

「お兄ちゃん……」

「なっ!?」


 声色も見た目年齢より少し幼く、胸元からじっと見上げる。

 できうる最高の演技。

 夕泉(ユーゼン)龍鯉(リョーリ)のガワなら問題ないのかもしれないが、自分から悪い(カルマ)を積んでいくような罪悪感に(さいな)まれる。

 あざとい位が丁度いいのか、効果は覿面(てきめん)、力は弱まった。

 しめたとばかりに腕を引き剥がし、上半身を起こす。


「お二人のお許しもないのになりません!」


 (いさ)めるエレシュとイナンナの声と、反抗した態度を取る聞きなれた声。

 冷たい風が当たる。

 正面を見ると、更衣室と浴場を隔てる戸が開いていて、そこには鸞子(ランコ)が居た。

 エレシュとイナンナは手で顔を(おお)い、他の侍女たちはそっぽを向いて(うつむ)いている。

 

 こ、これはもしかしてカーシャとの一件の報いか。

 

「あ、あのですね、話を――――」

「サグラ様がカッコいいからって襲うのはいけないと思うの」

「え、あの」

「リョウって殿方が好きだったのね、ずっと一緒に居るのに知らなかったわ」


 下に敷いているサグラは、この状況を愉しんでいるのか何も言わない。

 

「誤解なんです!」


 結論から言うと、誤解を解くのに時間は掛からなかった。

 というより(はな)から誤解してはいなかった。

 弁明している間の返事が、


「お姉様たちが聞けばきっとお茶が進むわ」


 だの、


「今日の夜は覚悟しておきなさい」


 だの何やら不穏ではあるものの、(ほが)らかに話していたからだ。

 (はら)違いの姉妹たちは定期的に茶会を催している。

 重臣の子女たちも交えたいわゆる女子会。

 茶会のネタにはいつも飢えてるだろうし、このネタで大分時間が潰せることだろう。


 更衣室で着替えながら、今から()くべき先日の騒動を頭の中で整理。

 サグラの私室に移動した。

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