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転生魔術師の異世界生活~幾千と破滅フラグを回避していくうちにチートに目覚めて最強になる~  作者: 哀上寝之
第一章

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第二十七話「お兄様たち」

※残酷表現注意

 ヴェーア暦811年。

 ユーゼン家に長男レイスが生まれた。

 当主トライスがまだアンガー侯爵ではなく、アバーフォース島という巨大島の総督をやっていた時のことだ。

 生国のレッドソード王国から縁あってユーゼン家に嫁いだマーグラにとっては、待望の子である。


 その翌年、トライスが総督職を辞しティンバラに封じられたことに伴い、ティンバラのハールマ城へ移り住んだ。


 レイスは父親の血をよく引いて体も大きく力は強かったが、知恵が足らず思慮浅はかで世の中の決まりを守らなかった。

 側室の子とはいえ長男。

 かなり甘やかされて育ったのだ。

 生母のマーグラは夕泉家の継嗣たるべく熱心に教育するも、身につくことはなかった。


 レイスは一〇歳のとき、乳母を絞め殺した。

 内容が内容なだけに大問題になるであろう事案だが、大ごとにはならなかった。

 マーグラが揉み消したのだ。

 彼をユーゼン家の跡継ぎにしたかったからである。


 レッドソード王国はスヴァルガの領邦ではなく一介の朝貢国。

 レッドソード人は非ヴェーア系の民族で、魔族ほどではないが(さげす)まれていた。

 現実的にみて厳しいであろう実家の野望をマーグラは(たく)されていた。


 レイスの凶行はこれだけに留まらず、月に一人の頻度で侍女選び、思うがまま(はずかし)めてから殺した。

 口に出すのもおぞましい手段によってである。

 その度マーグラは証拠隠滅に奔走した。

 バレてしまえばレイスの継嗣としての道は閉ざされ、しかるべき処置を取られかねない。


 正室のヒミカに優秀な嫡男が生まれたことも焦りに拍車を掛けていた。

 毎日マーグラは人を襲わないよう言い聞かせたが、聞く耳を持たなかった。


 マーグラは精神的に参っていた。

 お願いしても大人しく聞いてくれる子でないことは重々承知である。

 それでも、いつか変わってくれることを願って言い聞かせ続けた。

 

 乳母から数えて十八人目の犠牲者がでた時、マーグラはこれ以上犠牲者を出さないために最悪の選択をした。

 本来否定して諭し、罪を償わせるべきなのに、実家と敵味方双方の派閥からの圧力と、レイスの異常性に彼女は負けた。

 レイスの言葉に抗えなかった。

 誰かに助けてほしい。

 そんな切実な思いは誰も気付くわけもなく、立場上言い出せなかった。

 

 唯一の救いは、先例の使用人たちのように破壊的に扱われなかったことであろう。

 




***





 レイスより二歳下の次男タカイスは、(おの)が住む城で行われる悪夢を自室に引きこもって静観していた。

 血腥(ちなまぐさ)かった城内が形だけでも平和になったのに加えて、興味を示さなかった。

 ある種の自己防衛。

 ()()()()()()()()()()、部屋にこもって絵を描いたり、陶冶(とうや)に勤しむのに夢中になっていたのだ。


 ユーゼン家はスヴァルガ南部のアンガー地方一帯の領邦を併呑(へいどん)して巨大な軍閥を形成している。

 たとえ次男でも修学し、軍人や僧侶を()て地方領主に封じられる道もあるだろう。

 だがタカイスは成り上がる道にはとんと興味がなく、自分の身の程を知っていた。


 貴族の子弟としての教育を家庭教師からひと通り受けて、興味の湧いたものと言えば陶器や絵画などの芸術分野と武術。

 タカイスはこれらにおいて非凡な才能をみせたが、母親へ創った作品や武術を披露しても、決して褒められることはなかった。

 マーグラはその道には(うと)く、つねに長男レイスに心を砕いていたからである。

 (はな)からお家の継嗣として扱われてもなければ、本人も継ぐ気はないので、放任されていたのだ。


 タカイスは引きこもりがちになり、幼馴染の侍女プシュケしか信用しなくなった。

 自室にはマーグラや妹のラヴァナですら徹底して入室を許さなかった。


 マーグラがレイスのモノになってから一年ほど経った、ある日の夜。

 タカイスは久しぶりに外出し、帰城の報告を済ませようと母の寝室の前に来ていた。

 普段は空気を読んで(きびす)を返すところ、ふと、マーグラとは違う声が聞こえた。


 聴いたことのある声。

 いつもは決して開けないのに、気になって寝室の扉に手をかけてしまった。

 

 そこにはラヴァナがいた。

 今までどうでもよかったはずなのに、ふつふつと心に何かが(たぎ)る。

 マーグラの顔はたちまち青ざめ、ラヴァナはタカイスの様子に(おのの)きながら、部屋から足早にでていった。


 レイスの下卑(げひ)た顔を見ているうちにタカイスは自然に体が動いていた。

 ベッドに飛び乗って挨拶代わりに兄の顔面を殴った。

 そばにいるマーグラを傷つけないよう気をつけながら。

 最初は抵抗していたレイスだが、武術の腕では到底敵わず、なおかつ怒り狂うタカイスにはなすすべもない。

 反応しなくなるまで殴り続けた。


「これ以上は駄目っ……! あなたもレイスもラヴァナも、妾身の子。誰も死んで欲しくないわ。好きでやってるんじゃないのよ……」


 涙ながらに訴えるマーグラ。

 タカイスは居た(たま)れない気持ちで満たされた。


「ごめんな。今までのことは親父に報告する」

「それは……!」

「ラヴのことだけは伏せてな。これだけは何もなかったことにしたほうがいいだろ」


 タカイスはレイスを縛り上げ、アンガーから遠く帝都にいる父親(トライス)のところまで出向いた。


「レイスの処分は任せるが(アレ)を絶対に責めないで、この件には触れないでくれんか。ワシからの生涯のお願いだ」

「わかった」


 きっちり(ラヴァナ)のことだけは除いて全容を話した。

 トライスは既に事情を把握していて、ずっと謝り続けていた。

 不祥事を一切怒らず受け入れたのは、領地に帰らぬ責任を感じているからであるとタカイスは理解した。

 きっとそこら辺の貴族の当主なら怒り狂って、レイスとマーグラに手を下すことだろう。

 母を亡くすのはつらく、タカイスだって避けたいこと。

 それに、国の英雄、家長としての不甲斐なさに板挟みになる父親を責める気にはなれなかった。

 

 レイスは厳しいと評判の士官学校に入れられたが、一年で卒業(たいがく)した。

 あのあと、トライスにひどく折檻(せっかん)され言い含められたので、行き過ぎてはいない。

 が、全く反省はしていなかった。


 貴族の少年少女をつまみ食いする毎日である。

 ある日、士官学校伝統の『かわいがり』で生徒の一人が亡くなった。

 旧態依然(きゅうたいいぜん)とした組織ではよくある、ただのイジメである。

 レイスは下級生のリーダー格の一人として、軍法会議にかけられた。

 手を下したわけではないが、弁解せず黙秘を続けたので、詰め腹を切らされてしまった。

 トライスの名声から名目上は飛び級による卒業、本来最低七年通わないとならないカリキュラムであり、事実上の放校である。

 卒業後はユーゼン家の私兵に編入され、トライスの監視下へ。


 対するタカイスも帝都の芸術大学に入学したが、同じく一年で卒業(たいがく)した。

 卒業後はレイスと同様にユーゼン家の私兵に所属し、一年ほどして除隊した。

 敵将の首を獲ったこともあれば周りの信頼も得ていたので、トライスと家臣たちは惜しんだ。

 城に帰り陶冶(とうや)に励みたかったのだ。


 タカイスはティンバラに戻り、再びハールマ城の書斎で趣味に勤しんだ。

 ここまでは前と同じだが、状況は変わった。

 第一にレイスは通年出征して城にいないし、第二にマーグラがタカイスを少しばかり気に掛けるようになった。

 そして第三にかわいい双子が現れた。


 双子は噂以上に美しく、賢かった。

 五女ランコは明朗で実直。

 気難しいタカイスにも極自然に話しかけてくる。


 三男リョーリも聡明で、大人しいのかと思えば、刃向かってくる根性がある。

 そして鸞子にはない色気を兼ね備えていた。

 時折みせる子供とは思えない仕草や憂いの表情。

 性別どうこう関係なくふと抱きしめたくなる程の雰囲気(オーラ)を持っているのだ。

 

 リョーリの知識は深く、魔法や武術に長けているのに決して(おご)ることはない。

 将来きっと大人物になるだろう。

 どう転ぶかはわからないが、どんな道を選んだとしても補佐して助けてやろう。


 タカイスはそう心に秘めていた。

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