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モノクロの蝶  作者: Riviy
エピローグ
152/153

第百四十ノ世界:その平和、誰の理想か



「さてっと、()()()()だな?」


匡華達が出掛けて行き、静かになったリビングでこの家の主である青年はドカッとソファーに腰を降ろした。彼の目の前のソファーには先程、一緒にやって来た二人の少年がいる。


「はは、そうだな。まさか、貴様から手紙が届くとは思わなかった」

「ボクも。よくボクの事知ってたね?」


少年達の言い分に青年はクスリと笑う。前のめりになって二人の顔を観察するように眺める。


「嗚呼。よくよく考えれば、()()()()()()()()()する可能性が高いのは、どう考えたってこの三人だけだからな。そうだろう?神、アーギスト」


そう呼ばれた二人の少年達の反応はそれぞれ違った。神と呼ばれた少年は一瞬、わずらわしそうに顔を歪め、もう一人の少年はクスクスと愉快そうに笑った。


「今の名前は日南ひな。それで呼ばないでくれね?夕顔ゆうがお

「嗚呼、そうか。悪いな」


少年、日南と名乗った彼がそう青年の名を呼ぶ。


「アーギストは日南が狐影に処刑させようとしてる時に気づいたしな。まぁあん時は名前も知らずにあとになって分かったが」


少年、アーギストの顔が一瞬曇り、まさか、と眉にシワを寄せる。それに夕顔はそうだと言わんばかりに頷いた。


「気づいてたんだろ?日南の企みと匡華の正体に」

「……は?嘘だろ?ボロだしてなかったのに?!」

「だから自惚れんなって言ってんだろ」


日南が驚いたように隣の彼を振り返ると夕顔がそうたしなめた。アーギストは一瞬、目を伏せた後、真剣な表情で真実を告げた。


「うん。『キューブ』の存在に気づいて、それで神様が本当は全てを消すつもりだって知った。それと同時に加護夜 匡華が神様を止める鍵となる事もね」

「どうやってそこまで……」

「ふふ、ボクこれでも博士の最高傑作だよ?少し考えればわかったし、物的証拠もあったしね……だから、彼女が全ての鍵となるならば、そのためには神様を揺すったり、こっちへ一旦引き摺り出した方が良いと思った。だから、自らを犠牲にしてボクは、道筋を作った」


アーギストの説明に日南は驚いたように目を見開いた。そして、夕顔に視線を向ける。と彼はアーギストの考えが分かってましたと言わんばかりの表情をしている。そういえば、アーギストが云う博士と云うのは夕顔にそっくりだった。他人のそら似だと思っていたが、その博士がもし、夕顔と繋がった誰かだった場合、全て繋がる。日南は恐る恐ると云った感じに夕顔に問う。


「…アーギストの云う博士ってのは、貴様の…」

「嗚呼、遠い親戚。俺と思考回路がよく似てるからアーギスト(こいつ)の考えはすぐにわかった」

「あの時、夢中で見えてなかったけれど、アナタがいなかったら成功してなかったかも。予想外だったけど助かった」


嬉しそうに笑うアーギストに夕顔が「どういたしまして」と笑い返す。それを見ながら、日南は脱力した。こいつら、マジ可笑しい。そう思いながら、力が抜けた体をソファーに沈める。最初から、計画されていたのかと思うと以前は腹立たしいと怒ったのに、今は呆れてものも言えない。


「…………なんだよ。本当の敵はこいつらってか」

「そうかもなぁ日南。半分手のひらで踊らされていた気分は?」

「でも、そこまで考えてたわけじゃねぇだろ?」

「「…………」」

「おい嘘だろやめろ」


日南の問いにそっくりな悪戯っ子の笑みを二人が作るので末恐ろしくなった。ソファーに脱力する彼を放っておいて、夕顔がアーギストに優しい眼差しを向ける。


「お前の頭脳はすげぇな」

「いえ、それほどでも」


そう、アーギストの頭脳に感服した。普通、此処まで、いや、輪廻転生することまで予想できるはずもないし、そのために自らを犠牲に道筋を作る事もしない。彼にはそれを可能とする頭脳があった。そして、手放しで信じてしまうほどの度胸があった。本当の立役者は、彼かもしれない、そう夕顔は思いながら、煙管を取り出した。そして、煙管に刻まれた彫刻を見て、嗚呼、()()()()と大昔の思い出に思いを馳せるのだった。


簡潔に云えば、前創造神、匡華の『滅亡』と『創造』により新たな世界が創られ、そこに命が芽吹いた。前、とある通り、匡華は既に創造神ではない。匡華が死する際に所有権も権利も諸々全て、今現在の創造神に譲ったからだ。彼女が創ったこの世界は、以前のように一つとなった。そして、三つの国に分かれている。戦闘の神と忠誠の神が守護する和風国・大和國。慈愛の女神と慈悲の神が守護する帝国・ガーヴァテンペス帝国。そして、自然の女神と天地の神が守護する国・永光えいこう郷國さとぐに。この三つを守護する神達が忠義を尽くし、従っているのが星々を加護に持つ創造神である。創造神がこの世界を作り、部下である神々を作り、三つの国を作った時代をこの世界の始まりとして「星ノ宮歴」が設けられた……というのがこの世界では常識である。


普通であれば、前世の記憶を持たずに輪廻転生をしているので全員が全員、創造神が一人であると思っている。だが実際は違い、匡華が願い、新たに産み出した『キューブ』そのものが今現在の創造神である。これを知るのは此処にいる夕顔、日南、アーギストの三人のみである。そして、この三人は前世の記憶をそのまま持って生まれた記憶保持者でもあった。


最初にこの世に生を受けたのは双子である『夕顔』と、その少し後に生まれた元神・『日南』だった。お互いその時は存在も知らなかった。いつ、何処で生まれるかは既に神ではなくなった自分達が決める事ではないからだ。とりあえず、いるであろう日南探しを後回しにした夕顔は双子の妹に探りを入れた。ちなみにまさかの前世と同名であり驚いたりもした。しかし妹は記憶保持者ではなかった。だが運命なのだろうか、前世でも愛し合った夫を探し当て、引き寄せ合い、結婚したのである。まさかと思った夕顔だったが、そのまさか、誕生したのは女の子。しかも名前は妹からとって『匡華』。これは近しい者、絆が強い者同士が引かれ合っていると確信した夕顔はある行動に打って出た。独り身でちょうど良かったと云うのもあるが養子縁組をしようとしたのだ。そして見つけたのは同い年として誕生した三人兄弟。前世を『村正』『祢々切丸』『蜘蛛切丸』と云った、夕顔が息子同然として可愛がっていた、匡華の友人達だった。彼らは本来の両親が事故死したため施設に入っており、夕顔はすぐさま彼らと養子縁組を結んだ。生まれたばかりの匡華と違い、既に幾分か成長を遂げていた事もあって、夕顔の事をすぐに理解した。しかも、記憶保持者だった。いや、少し語弊がある。所々記憶が抜けていたのだ。それでも夕顔のことも認識していたし、生まれたばかりの匡華も認識していた。新たな人生と云う事で彼らには匡華と同じように花の名前を入れることにし、『菖蒲』『睡蓮』『春蘭』と名付け、息子とした。当初は夕顔を父親と呼ぶことに戸惑っていたが生活するにつれて慣れたらしい。今や普通に研究室に突然やって来ては「また籠ってるの父さん?」と言うほどだ。家族が一気に増えた兄を心配してか妹夫婦が「一緒に住もう」と提案してくれた。妹夫婦の提案で、隣に家を建て住み始めた頃には匡華も幾分か成長し、前世の記憶保持者であることがわかった。しかし、創造神としての代償か、やはり所々抜け落ちている。しかし、息子となった菖蒲達(元村正達)のことは初めて見た時からすぐにわかっていたらしい。


そこからは面白いほどに連続で釣れた。まず最初。ちょうど恋人同士となった菖蒲と匡華に新たな友人が出来た。たまたまこちらの国に遊びに来ていたガーヴァテンペス帝国民で、それが前世二人の大切な友人であった『千早』と『鳳嶺』だった。今世でも同名であり、なおかつ記憶保持者であった。こちらは死ぬまでの記憶保持だった。がそれでも前世での約束を果たせたと嬉しそうだった。さらに鳳嶺は千早の幼馴染として、また盲目だった千早の目は治っていた。さらにさらに前世敵であった『茉亞羅』と『ヘレーナ』とは姉妹であることが判明した。前世でも姉妹だったら仲が良いだろうなと思っていたので、匡華と千早の女性陣にとっては喜ばしい事であった。思った通り、とても仲が良い姉妹だと云う。だが千早の妹となった二人は「会ったことがある?」と云う不思議な感覚を持っていた。記憶保持者ではないが、明らかに記憶の片鱗が存在している。また、前世、ヘレーナの能力であった『ヘンゼルとグレーテル』はヘレーナの友達と云う形で輪廻転生を果たし、彼女のお菓子屋の手伝いをしていると云う。


次に。春蘭となった元蜘蛛切丸に新たな友人が出来た。たまたま買い物をしていた際にかつあげされていた男性を助けたのだが、それがまさかの前世、『伽爛』と云う名のー彼曰くーおっさんだった彼だった。伽爛が春蘭を見てすぐに気づいたらしく、春蘭もすぐにわかったので再会を喜んでいた。そのまま家に呼ぶとやはり記憶保持者だったらしく、全員を覚えていた。だがやはり、所々抜け落ちている模様。しかも現在はおっさんではなくある国からの留学生らしく、そこで彼の名前が前世と同じであることが判明。ある国、というのが大和國でそちらにももしかしたらいるかもしれないと思い、夕顔は伽爛に頼んで一度そちらへ行こうとした。


その時。元祢々切丸であった睡蓮がある青年を連れて来た。それが元・神様が自ら造った子供、『狐影』だった。睡蓮曰く、街を歩いていたら後ろから絶対に他の人は知らないであろう名前で呼ばれ、まさかと思って振り返ったら彼だったと云う驚き。狐影も前世と同名であり、記憶保持者。だがやはり、所々抜け落ちている。何故だと夕顔が考えていた頃、狐影の両親をなんとなく問ったところ、父親が元・神様であることが判明。狐影は彼の実の息子として輪廻転生していたのだ。すぐさま手紙でー会うのはまだ良いかと思ったー連絡を取り、「近しい者、絆が強い者同士で引かれ合っている」と云う説を説いた。すると彼、今世では『日南』と云う名前の彼は夕顔と同じく全ての記憶を持つ記憶保持者だった。その一件でなんとなく察した夕顔は彼に「前世で殺し合い参加者の知り合いはいないか」と尋ねた。恐らく、辛うじて記憶を保持しているのはあの殺し合い参加者と、匡華と絆で繋がっていた者達だ。ならば、()も……!そう考えた夕顔の説は当たっていた。三つの国の国境が交わる場所に位置するある研究施設の研究員数名が知り合いで、前世での殺し合い参加者だと云う。


『カイン』と『アベル』の兄弟、『ヴァレン』と『堺巧』、そして『アーギスト』。アーギストに至っては完全な記憶保持者であると確定されており、残りはヘレーナ達と同じように不思議な感覚を持つだけであった。やはり、と夕顔の謎が仮説に変わった。大和國に関しては伽爛に頼むしかないと思ったが、狐影が偶然にもその国に住む『沙雪』と知り合いだった。彼女も不思議な感覚を持つだけであったが、前世は死んでしまっていた弟妹達と楽しく過ごしているそうだ。そしてたまたま、本当にたまたまなのだが、伽爛が『桜丸』と知り合いだった。知り合いと云うか同じ学校を卒業した元同級生で、伽爛とは前世、全くもって面識がない。だが、兄である『樹丸』と共に拾ってくれ、育ててくれた恩人の『朱雀』と云うある隊の隊長には兄弟揃って、そして朱雀も一緒で何か不思議な感覚がある、と云う事が分かった。


そこで夕顔の仮説は確信になった。記憶を完全に持つ記憶保持者は、前世でのあの出来事、『滅亡』と『創造』が起こる事を初めから予測していた人物だ、と。元・神様である日南は最初からやろうとしていたので確定であり、全てを歴史として知っており、なおかつ初代であった夕顔も同様。所々抜け落ちている匡華達は、ほぼ匡華を通じて出来た絆だ。絆関係であることは間違いないし、『滅亡』と『創造』を途中から知ったので完全に持っている訳ではないことは考えるに容易い。では、アーギストは?と考えたところで、夕顔の脳裏に前世の記憶がちらついた。一度、警告で〈闘技場〉に行った際、見かけた彼。彼がアーギストだとしたら?あの時は恐ろしい頭脳だと、さすが遠い親戚であるあいつが手掛けた人造人間だと思ったが、彼がアーギストで、あの時読み取ったように自分達と同じく知っていたならば、記憶保持者であるのは頷ける。全ての証拠が揃った。そう言わんばかりに夕顔は今日この日を持って完全な記憶保持者である彼らを手紙で呼びつけたのである。


日南が外で楽しげに話す狐影と匡華、菖蒲を窓越しに見やる。そろそろ出発するらしい。この世界は匡華が望んだような平和もある。それは全創造神の願いであった。しかし、その平和の代償というように匡華達数名の腰には武器が下がっている。この世界には神の失敗作と云う化け物が存在する。神、と云うのが前創造神なのか、現創造神なのか、はたまた六人の神なのかは不明だ。だがその失敗作を産んだのは現創造神だと記憶保持者である三人は考えている。平和の影にはなにかが存在し、いずれそれが爆発する。それを防ぐかのように発生した化け物。その化け物は三国の絆をこれまで以上に固くし、戦力を持つ大和國が総出で対処に当たっている。アーギスト達が所属する研究施設はその敵である化け物を研究し、力になろうと頑張っている。もちろん、他の国に敵が現れないわけではなく、たまに出現するため、特定のライセンスを持つ者は武器の所持を許され、また敵が現れた時は討伐する事が義務付けられている。その間に、ライセンスを持たない人々が避難すると云う仕組みが全世界で取り入れられ、その仕組みが功を成したのか今のところ、化け物による死傷者数は一桁である。化け物との争いによって避難せざるを得なくなった大和國民もいるが、彼らを他の二国は温かく迎え入れ、良好な関係性を築いている。二国も闘いに参加しないわけではなく、要請があればすぐに「呼んだ?!」と云う感じに疾風しっぷうの如く駆けつけるほどの信頼っぷりだ。


ちなみに狐影と伽爛を除く匡華、菖蒲、睡蓮、春蘭はライセンス所持者であり、兄弟三人に至っては前世でも世話になったあの武器達を今世でも使っている。


楽しそうにしている彼らを見て、日南が呟くように言った。


「平和にならなかったら、その時は」


それにアーギストは驚いたようだったが、夕顔は笑っていた。神様の笑みも柔らかい。今や元・神様であった彼らは普通の人間だ。自分達でどうこう出来やしない。それに、前世ではあった能力はこの世界には存在していないのだから。大丈夫だと思ったのか、アーギストが安心したように小さく笑った。夕顔は柔らかい笑みをするようになった日南から視線を外し、小さく笑う。

あの時、匡華が『キューブ』を手にした時、『キューブ』は彼女を表すかのようなモノクロになった。最初からモノクロだったわけではない。モノクロ、白と黒。白蝶と黒蝶……匡華と菖蒲。まさかな、と夕顔は考えていたその説を心の奥深くに隠した。


三兄弟の名前は前々から決めてたし、養子も考えていたのです!(ドヤァ)そしてそこまで考えていたアーギストすごい(自分で創っておきながら)夕顔もだけど

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