第百三十九ノ世界:彼らの想い
同時刻、星ノ宮歴1076年、永光ノ郷國、ある森の中にて。
暖かな太陽の日差しが差し込む森の中。住宅が密集する都から少し離れたその森にはある一家が住んでいる。ある一家が住む家は二軒連なって建っており、見た目は少々古びているものの、暖かみがあり、優しい雰囲気に包まれた家だ。その二軒を繋ぐのは、間にある小屋である。その小屋は両者の家と繋がっており、簡単に行き来できるようになっている。不思議なのは、なぜか両者の家に玄関があると云う事。よく一ヶ所にすれば良いのに、と言われる。そんな家の片割れに住んでいる中性的な、まだ女性とは言えずどちらかと云うと少女でもない、その間で成長しつつあると言った感じの人物は自室の鏡で自分を見て、クルクルと回る。大丈夫かな、と。満足が行ったのか、よし、と鏡の中の自分に向かって頷いて、傍らに置いていた武器を取ると腰に着け、部屋を出た。自分でも足取りが軽いのが分かり、浮かれているなと苦笑する。これから友人達と会うのだ。しかもその友人達はこの間会った際に婚約したとも言っていた。大切な友人達が結婚、嬉しい訳がない。それが自分の事のようにとても嬉しくて、友人の手を取って柄にもなくはしゃいでしまったのは良い思い出である。
人物はトントン、と軽やかな足取りで階段を降りると隣と繋がっている扉に向かう。と、その扉を開ける前に振り返り、叫んだ。
「母さん!父さん!行ってくる!」
「はーい、気をつけてねー!」
リビングの方から母親の声が聞こえて来る。父親もそこにいるのか部屋を走り回る音が此処にまで聞こえて来る。それともう一つ、小さな楽しそうな声も漏れて来ている。その声に人物はほんわかとしながら、扉を引いた。少し長いと感じる廊下を突っ切り、再び扉を開ける。開ける際に小さく「お邪魔するよ」と言って入る。そこは連なった隣の家ですぐさま広々としたリビングとなっている。人物がキョロキョロと辺りを見回しながら中に入って行く。
「匡華!」
その声に人物、匡華は上を見上げた。そして、嬉しそうに頬を綻ばせた。二階の手すりから身を乗り出すようにして三人の青年達がいた。三人のうち一人は確実に少年と云う容姿だが。匡華、と彼女の名前を呼んだのは長髪をポニーテールにしている青年だった。まさか匡華が早くに来るとは思ってもみなかった、とで云うように驚愕した表情だ。その片手にはこれからさすつもりだったのだろう簪が握られている。
「…早いですね」
「ふふ、そうかい?」
「兄さんが遅いだけじゃねぇの?」
「お黙り春蘭」
少年がそうクスリと笑って言うと彼を軽く睨み付けるようにして青年が言う。少年はそれを受け流して、軽く笑う。本気で睨んでいるわけではないことを知っているのだ。そんな少年は匡華と二階から話し始める。その間、青年は他の支度を済ませて行く。支度が終わったのか簪片手に青年が部屋から出てきた。その隣、少年と同じように身を乗り出し、手すりに両腕を置いているもう一人の青年が青年の持つ簪を取り上げると青年の髪にさした。
「菖蒲、匡華を待たせるんじゃないよ?」
「わかってます」
さしてもらった簪を片手で確認して階段の方へ駆ける。そして階段の手すりに座ってそのまま滑り降りる。一階に華麗に着地するとカツン、とヒールの高い靴が音を鳴らした。そして匡華が彼の元にやって来る。その腰には匡華と同じように武器が下がっている。
「お待たせしました匡華」
「いや?そんなに待ってないよ?春蘭と話してたしねぇ」
「いつ兄さんと結婚するのか聞いてた」
「は?!」
「ぼくは匡華の晴れ着、洋服が良いと思うけどな」
「えー?オレは和服が良いと思うぜ?白銀にはえる服がある。オレこの間見た」
「それなら洋服にだってあるよ。マーメイドドレスとか良いんじゃない?」
「睡蓮も春蘭もいい加減にしてくれません?!」
クスクスと恥ずかしそうにしながらも楽しそうに笑っていた匡華と裏腹に青年、菖蒲は大きな声で二人に怒鳴った。彼の顔は相当恥ずかしかったのかと思いきや、なんであんた達が先に彼女の事を僕を押し退けて考えてる?と云う表情だった。と云うかその考えが手に取るように分かっている青年、睡蓮と少年、春蘭はキョトン、とするとほぼ同時に叫んだ。嫉妬か、嫉妬なのか。
「「早よ結婚せい」」
その言葉に二人の顔が真っ赤に染まる。あの二人は付き合いが長いのに、まだ結婚にまでは行かないほどにゆっくりなペースだ。睡蓮と春蘭も知っている二人の友人達は来年にでも結婚すると云うのに。まぁ、菖蒲が部屋に匡華へ贈る指輪を隠し持っていることは内緒にしておこう。大切な兄弟の大切な人であり、友人であるからこそ早く幸せになって欲しいのだ。これ以上つつくと匡華からの「二人は良い人いないのかい?」と質問され、今度はこっちが赤面してしまうはめになるのでそろそろ黙った。ようやっと尋常ではない頬の熱が引いたのを確認して、匡華は菖蒲の腕に自身の腕を絡め、そしてそのままさも当たり前のように手を繋ぐ。それを見て睡蓮が呆れたように言う。
「ラブラブだね」
「当たり前だろう?」
「うわ、ノロケ」
思わずそう告げれば、匡華はクスクスと楽しそうに笑うだけである。と思い出したかのように春蘭が突然、声をあげる。
「あ!兄貴!オレらも出かけるじゃん!」
「何処に行くんです?」
「狐影と伽爛さんと会う約束してて!」
「あーそうだったね」
「なんですか?僕を急がせたくせに出かけるんですか」
「良いじゃないか」
「今、思い出したんだからしょうがねぇじゃん?兄さん。時間まだあるけど」
慌てたように階段を駆け降りる春蘭とそれを追う睡蓮。菖蒲が呆れたようにため息をつきつつ言う。目の前にやって来た春蘭の頭をこれでもかと片手で撫でくり回すと彼は気持ち良さそうに身を委ねた。以前ならば、顔半分を覆っていた傷があったが今はない。それに時代と云うか時間の流れを感じる。匡華が「私達も急がなくてはね?」と菖蒲を見上げる。自分を優しく見下ろすその瞳がなんとも心地よい。ゆっくりと階段を降りて来た睡蓮も合流して来る。その手には大太刀が握られており、一方春蘭の腰には少し短い武器が下がっている。全員揃ったので出掛けようとする。と扉を叩く音がした。全員が扉を振り返った。誰かが何かを云う前に扉がバッターン!と大きな音を立てて開いた。
「くーくん!ねーくん!お迎えに来たよー!」
「狐影?!」
扉を開けて、「やっほー」と云うように笑顔で春蘭に向かって手を振る青年。その後ろには青年よりも年上の男性がおり、扉を開けた彼の行動に苦笑している。春蘭が驚いた様子で二人に駆け寄る。この間会ったばかりなのだが、懐かしい感覚が広がる。
「伽爛さんも…待ってて良かったのに」
「いや、ね?狐影くんのお父さんが此処に用事あるからって……なら一緒に行くって狐影くんが聞かなくて」
「だってさー!」
「え?狐影のお父さん?」
春蘭がその言葉に二人の後ろを覗き込むと狐影の父親である少年ともう一人、別の少年がいた。父親である少年は狐影を優しい眼差しで見つめている。何処かで見たことがあるような。そういえば、玄関でつまっている。そう思った匡華が「とりあえず中に入ってもらいな」と声をかけ、中に入れる。中に入った狐影と伽爛がラブラブな匡華と菖蒲を見てニヤニヤと笑う。
「きょーちゃんとむーくん、今日もラブラブだねー!」
「そうだね」
既に言われたと言わんばかりに二人は軽く笑って受け流すだけである。家の中に入ってきた二人の来客に頭を軽く下げる。二人とも知り合いではないが、見たことがある気がする。気のせいだろうか?
「此処に用事ってことは、父さんだよね。菖蒲、父さんって」
「いつもの研究室です。僕の思い違いでなければ、朝から籠ってます」
「……父さーーーん!お客さん!」
父親に客だと思った睡蓮が一階にある彼の研究室に向かって歩きながら大声を叫ぶ。家の中でも大声をあげて彼を呼ばないと絶対に聞こえない。だって資料の山に埋まっているから。これでも聞こえなかったら匡華の母親を呼んでくるしかない。匡華は賑やかになって来た空間を見て、なんだか嬉しく感じた。何故かは分からないが、こうなる事を何処かで望んでいたように思うのだ。何処かで、なんて曖昧なのだけれども。その望んでいたように思う光景を目にし、匡華の口元からは我知らず、笑みがこぼれる。
「…………ふふふ」
「?匡華?どうしたんですか?」
「ふふ、いいや?……なんだか嬉しくて」
「……そうですね」
匡華の笑みに菖蒲も納得したように、それでいて嬉しそうに微笑んだ。この空間には美しいほどの笑みが溢れていた。
…書く事がないのです…もう少しで終わります…何回言ってんだおい




