第百三十八ノ世界:彼らの仕事
同時刻、星ノ宮歴1076年、大和國、ガーヴァテンペス帝国、永光ノ郷國、三者の国境が交わるある場所、ある研究施設にて。
その青年は、そろそろ着なれても良い頃の白衣をはためかせながら廊下を進む。そして、ある部屋に辿り着くと押して開くタイプの扉を開け、中に入った。中にいたのは青年と同じく白衣を着て、眼鏡をかけた如何にも博士と言われそう…でありながらも結構言われない青年ー眼鏡をかけた青年とするーであった。その近くには顔がそっくりなこれまた青年と少年がいる。いや、顔がそっくりなだけで少年の雰囲気は青年とは似ても似つかないし、少年は少し中性的でもある。二人は白衣を着ていない。理由、邪魔。じゃあ着ている二人はなんだと云うのだ。たまに文句を言われる。少年といる青年ー彼とするーが青年を見つけて、ニヤァと意地の悪い笑みを浮かべた。
「おせぇぜ?」
「ハァ?時間通りでしょ?戦闘力が上がり過ぎて馬鹿になった?」
「んなわけねぇだろぉがぁ!」
「兄さん、落ち着いて」
青年が軽く彼をからかうとすぐに彼はノッてくる。それが少し青年にとっては楽しい。彼自身はすぐに怒鳴る癖をどうにかしたいらしいが、青年が思うに、毎日毎日こうもからかって怒ってしまうのだから無理だろう。少年に宥められ、彼が少しずつ落ち着いて行く。と、眼鏡をかけた青年の視線に気付き、そちらへ自らも視線を向ける。眼鏡の奥に秘められた瞳が青年を諫めるように光る。
「レン、止めろって…言っても聞かないか」
「だって、カインは直したいんだろ?だったら俺がやらなくてどうする?」
「キサマがやんなくても良いだろうがぁ!」
青年達の話を聞いていた彼がそう叫ぶと少年が再び困った表情で彼を落ち着かせる。青年は眼鏡をかけた青年に名を呼ばれると頭の中に靄がかかったような感覚になる。それは一度や二度ではなく、彼や少年でも同じだった。初めて出会った気がしない。以前、それを彼らに言ったら、全員が「同じだ」と答えた。けれど、以前に会った記憶なんてないし、ただ単に気がするなのだ。記憶違いなだけかもしれない。そういうことで片付いた。けれど、青年は納得がいっていなかった。それは此処にはいないもう一人の少年も同じだと信じている。まぁもう一人の少年の場合、なにか違ったようだったが。
青年は改めて部屋を見渡した。何か考えたい時はこの部屋の中を見渡すと、その考えが纏まる。部屋は少し薄暗く、奥にある大きなビーカーの淡い水色の光が仄かに彼らを照らしている。その近くにはこれまた巨大なパソコンとキーボード。ところかしこに様々な精密機器が置かれている。なんだが、いろんなものが機器の近くに置かれた多くのテーブルに乱雑に積まれており、軽くこの空間がカオスと化している。だから考えが纏まるんじゃないだろうかと常々思っている。
眼鏡をかけた青年が軽く肩を竦めて少年に言った。
「喧嘩してるやつらは置いておいて、アベル、始めるぞ」
「あ、はい。兄さん!そろそろ怒るのだめだよ」
「でもよぉ」
「でもじゃないよ!」
そう言ってクルンと可愛らしく少年がその場で一回転する。その仕草と自分が年下に怒られているのをようやっと実感してきたのか、顔が歪んで行く。そこにすかさず、青年が言う。
「ほらーカインもやろーぜー」
「……おー」
「ん!兄さん偉い!」
少年が嬉しそうに笑う。それに先程まで怒っていた彼は少年の頭を優しく撫でた。少年の顔が嬉しそうに綻んでいく。と、眼鏡をかけた青年が疑問を思い出したらしく、青年に問った。
「レン、アーギストはどうした?」
「アイツなら、今日は知り合いに会いに行くって休み」
「なーんだ、アーギストは休みかよぉ」
「はは、カインはあいつと仲が良いからな」
「堺巧のコーヒーも上手いけど」
「そりゃどうも…………ん?」
突然、彼に話を逸らされたかのように誉められ、なんか居心地が悪い。そんな心情が顔に出ていたのか、青年がクスリと笑う。それに少年が釣られて笑い、彼も頭の後ろで両腕を組みながら笑う。眼鏡をかけた青年は、一瞬不機嫌そうだったが、自分も可笑しくなったのか、次第にその顔は笑って行き、暫く笑い合っていた。暫く笑って、眼鏡をかけた青年が「よし」と自分に気合いを入れながら全員を見渡す。その鋭い視線に全員が真剣な表情になる。さあ、此処からは自分達の闘いだ。
「カインとヴァレンは敵の行動パターンと発生パターンの調査。調査と計算が終わったらアベルに回せ。その間は属性調査の続きから始めろ」
「タクは?サボるわけじゃねぇだろ?」
青年、ヴァレンが眼鏡をかけた青年、堺巧をからかうように云うと堺巧は眼鏡を上へ上げた。
「俺はアーギストがやってたのを進める。あれは最優先事項だからな」
「さーってと、早く闘ってくれてる大和國の人達のために、弱点とか見つけなきゃいけないね」
少年、アベルがそう言い、真剣な瞳を向ける。その瞳に感化されたように彼、カインが手首を回す。どちらとも気合い十分ということが見て取れる。
「オレ様の力を見てろってぇ」
「ミスるなよ」
「わかってる!」
最後にまたヴァレンがからかったが、もう効かない。彼らは頷き合い、自らの仕事へと歩き出した。
もう四月ですねぇ…もう少しで終了ですが、こんなに長くなったのは初めてで驚いてます。どんだけ書きたかったんだ自分。一章の中身を決めていたせいかもしれませんねぇ。決めてなくても行きそうなやつあるけど。




