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モノクロの蝶  作者: Riviy
エピローグ
148/153

第百三十六ノ世界:彼らの誇り


星ノ宮歴1076年、大和國やまとこく源烙城げんらくじょう


その女性は愛しい弟妹達に手を引かれて、本日配属された部隊の本拠地を歩いていた。廊下を通る仲間達からは微笑ましそうな表情を向けられ、少し恥ずかしい。


「お姉ちゃん!早く早く!」

「姉さん、早く来て」


両手を掴み、早く早くと引っ張る双子の弟妹。女性の後ろをついて歩いていたもう一人の弟が幼い弟妹達をたしなめる。


「急ぎすぎです。姉様が転んでしまいます」

「ふふ、私は大丈夫よ」

「ほらー!大丈夫だって!」

「安心安心」


兄の言葉など気にも止めずに幼い弟妹達は姉と云う女性の手を引っ張って行く。その後を呆れながらももう一人の弟が追う。当の本人、女性は楽しそうに笑っていた。彼らがやって来たのはある一室だった。その一室の前で双子は女性から手を離すともう一人の弟、青年の方へ飛んで行く。女性は名残惜しそうにしているが、キリッと表情を引き締めた。それを見て青年は嬉しそうに言う。


「まだなんとも言えませんが、姉様と同じ部隊に配属となって、とても嬉しいです」

「ボクもー」

「僕もー」


青年の言葉に同意するように双子が片腕を挙げて言う。青年が怪訝そうな表情で双子を見た。


「まだですよ二人は」

「むぅー!ちゃんとできるもん!ねぇー!」

「ねぇー」


兄にそう言われ、不貞腐れたように双子が顔を見合わせる。その表情がなんとも可愛らしくて女性は口元を押さえた。せっかく、顔を作ったのに君達のおかげで緩んじゃうじゃない!そんな文句を含めた視線を弟妹達に向けると、女性とは対になる力を持つ青年が気づいたらしく、自分よりも小さな双子の手を掴んだ。


「それでは失礼します」

「じゃあねーお姉ちゃん!」

「またね」


そして、軽く頭を下げて幼い双子を連れ立って去っていく。自分に向かって笑顔で手を振る双子に軽く手を振り返して、女性は再び顔を作る。ばくばくとうるさい心臓を深呼吸でなんとか静めると、襖の前に両膝をついて正座する。と、女性がなにか云う前に中から少し低い「入れ」と云う女性の声が響いた。強者が放つ、威圧感に女性の身がすくみ、ゾクゾクと体が震える。恐怖からではない。自分に宿る強者を求める狂気が、女性を奮い起たせているのだ。緊張感が女性を暫し、支配した。女性は短く「失礼します」と告げて襖を開け、中に入った。中は案外普通だった。奥が一段高くなっている事もなく、平らだった。畳が敷かれた部屋の中、女性から見て真っ正面にある美しい絵が描かれた屏風の前に座る者がいた。彼女の隣には二人の青年達がおり、一人はキチッとしており、もう一人は服を着崩しており、二人それぞれの個性が見え隠れしている。恐らく最も信頼する部下なのだろう。屏風の前に座る者、女性ー彼女とするーは入り口にいる女性にも感じられるほどの威圧を放っている。彼女は女性が何か云う前にちょいちょい、と手を動かし、こちらに来るよう促した。女性は少々面食らいながらも、彼らの前へとやってくる。そして、片膝をついてこうべを垂れる。


「お主が今回、妾の部隊に配属になった者か」


彼女が女性を値定めするように問いかける。彼女の両脇には二振りの大太刀が置かれている。女性は彼女と青年二人になんだが、変な違和感を感じながら軽く深呼吸をし、言う。()()()()()、と云っても雰囲気が変とかそういうのではなく、なんだが知っているような気がするのだ。()()()もだったな、と女性は内心首を傾げる。


「はい。白雪しらゆき家長女、沙雪さゆきと申します」

「……?沙雪?」


と彼女が女性の名前に首を傾げた。なんか、聞いたことある気がする。女性が何かヤバい事を言っただろうかと上目遣いで様子を窺うと、なんと青年達も首を傾げていた。女性もその行動に首を傾げる。初めて会った気はしない、なんだが不思議な感覚にこの空間が支配される。その支配を破ったのは意外にもうんうんと少し頭を捻っていた彼女だった。


「お主、妾と何処かで会った事があるか?お主とは、初対面ではない気がする」

「い、いいえ。私と将軍様は初対面です……お言葉ですが、私も初対面ではない気がします……」

「へぇ、汝もか」


その声に女性が顔を向けると軍服を着崩した青年が興味深そうに自分を見ていた。もう一人の青年が視線で何してるんだと云う抗議の視線を送るが彼は気にも止めていない。


樹丸いつきまる桜丸さくらまる、お主らもか?」


彼女がどうだ?と二人を振り返る。その彼女の仕草がまるで母親のように見えて、女性は些か目を見開いた。青年達はそれが日常なのか、驚く事もなく、彼女の問いに答える。もう一人の青年は目の前に女性がいるのにこっちに話を振るのかと少し困惑気味であったが。


「嗚呼。桜丸くーもそうだろ?」

「そう、ですけど…朱雀すざく様、彼女の方……」

「ん?嗚呼、そうじゃな。うむ…何処かでたまたま会った事があるのかもしれんのぉ。そういうことにしておこう」


パンッと少しの疑問を残したまま、彼女はもう一人の青年に促されるように女性の方を向いた。何処かで会った事があるような。それも赤の他人とかの関係ではないように感じる。敵のようで、味方のような複雑な関係だったような気がするのだ。そんな感覚なだけだ。確たる証拠などない。と、彼女が女性を見て、ニッコリと微笑んだ。先程のような、威圧的ではない笑み。


「お主の実力はお主の弟から聞いておる。あやつに劣らぬほどの攻撃力を持つそうじゃないか。それに、此処におる全員が会った事があるような感覚を持つと云う不思議な縁じゃ。これから宜しくのぉ。妾は知っての通り、みなもと部隊隊長、武蔵野むさしの 朱雀すざくじゃ。こっちにおるのは妾の懐刀である兄弟じゃ」


「ほれ」と彼女が挨拶しろと促すと青年はめんどくさそうにしつつも、愉快そうに笑う。隣の青年はもう二人の言動には振り回されるのには諦めたのか、軽くため息をついている。


「オレは樹丸いつきまる。朱雀のぬしには弟の桜丸こいつと一緒に拾われてなー」

「そこまで言わなくても良いでしょう樹丸いー。はじめまして、桜丸さくらまると申します」


青年達がそう挨拶をする。彼女や女性のように名字がないと云う事は親がいないのだろう。つまりは孤児か。だが、そうだとしても彼女に信頼されているから此処にいるのだろう。恐らく、先程の表情から育てたのは彼女だろう。女性は挨拶されて少し困惑していた。なので素直に言った。


「良いんですか?配属してきたばかりの私に懐刀である方々の名を…」

「嗚呼、良い良い。妾は此処の者を信頼しておるからの。その誠意を見せているつもりなのじゃよ。まぁ、裏切り者がおったら…」


ニィと口角をあげて微笑む彼女の笑みに女性は初めて恐怖を感じた。女性に付き従う青年達も同様に恐ろしいほどの殺気が放たれる。今までそんな人はいなかったのだろうが、もしいた場合その人の末路を軽く想像して…女性は身震いした。あ、考えちゃダメなやつだこれ。女性は早々に考えるのを止めた。それを感じ取ったのか彼女は満足そうに微笑んだ。そして、言う。


「ようこそ、我らが部隊へ。歓迎しよう」


そう言って、彼女、朱雀は女性、沙雪に向かって手を差し伸べた。その手に戸惑っていると懐刀だと云う樹丸と桜丸兄弟の挑戦的な視線が目に入った。嗚呼、試されてる。そう思うと共に沙雪は、身震いした。そして、その手を取った。その手を取った瞬間から、彼ら部隊の闘いは幕を開けたのだ。


これは…予定日に間に合う…か?!(フラグ)

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