第百三十二ノ世界:最終決戦=神様の罪と罰
地面に向かって落ちて行く二人。二人は空中で態勢を立て直すと上手い具合に地面に着地する。狐影は地面に軽く手を付き、空中で後転して着地する。何も手にしていない神様が慌てた様子で辺りに視線を配る。『キューブ』で作ったブロード・ソードもナイフも、破片もない以上、今の神様は丸腰だった。足を踏み出しかけたその時、少し凹んでいた地面が仄かに光を放った。その光が指し示すように地面には筋が伸びている。その筋を目で追うとそこにいたのは、地面に槍を突き刺している伽爛だった。怪我が酷いのか否や、槍にもたれ掛かるようになっている。伽爛は神様の視線に気づくと、彼に向かって親しみ深く笑いかけた。途端、彼の持つ槍を粒子の片鱗が螺旋を描いて包んだ。それは、いや、その槍は夕顔の私物である。それを伽爛は理解していた。だから、武器に宿る力を『鑑定』し、その引き出し方を見よう見まねでやった。『鑑定』は普段、人に対してしか伽爛は使わないが、今は使うしかない!
槍を包んでいた片鱗が光の筋を勢い良く通って神様に向かう。突然の事に神様の動きは遅れ、片腕が粒子となって消滅していった。
「う、わっ」
さすがに伽爛もその威力に驚いたようだ。夕顔の物となれば、少しでも『滅亡』が与えられているのは予想がつく。しかし、伽爛の能力では基準値ーがあるのかは知らないがーよりも格段に下だった。下であるにも関わらず、これだけの威力に伽爛は苦笑した。そして力なく、槍を杖代わりにして片膝をついた。伽爛は痛みで軽く息を吐く。年寄りには、キツかったかな?でも、時間稼ぎにはなったよね?さあ、神様を救おう。伽爛は痛む腹から声を張り上げた。
「祢々くん!蜘蛛くん!」
神様が次が来る、と警戒し、視線を周りに配る。だが、足ではないが片腕が軽く粒子となって消えているためか、体に力が入らない。『キューブ』で補っていた部分が全て体から抜けて行き、立っているのがやっとのような感覚。二代目も死ぬ時はこんな感じを味わったのか?場違いながらもそんな事を考えていた。神様の視界にこちらへ向かって駆ける二人が入った。伽爛の背後から現れたようで、傷だらけであるにも関わらず風のように早い。そしてその瞳には強い意志が宿っている。神様とは、きっと違う、力強い意志。祢々切丸と蜘蛛切丸がそれぞれの武器の切っ先を神様に向けながら駆ける。二人の武器には水色の光と蜂蜜色の光がまとわっている。それがなんとも美しく妖艶な姿だろうか。
"どういう形であれ、世界を救ってくれ"。この願いが、前世からどういう形であれ続いている。狐影は神と世界を、匡華達は神と世界、そして未来を。それをこの力が、叶えさせてくれるなら、
「祢々切丸」
「蜘蛛切丸!」
「「力を貸してくれ!」」
二人が、自らを象徴する武器の名を叫ぶ。その声に武器が答えるかのように光を強くする。ブワッと祢々切丸の大太刀の柄から草の模様が刻まれた、清くも柔らかい風が放たれ、水色の光と共に大太刀を包む。その風は祢々切丸の頬を優しく撫でる。蜘蛛切丸の脇差の柄からも土のように力強い、温かくも優しい霧が放たれ、蜂蜜色の光と共に脇差を包む。蜘蛛切丸の痛々しい顔の左半分を霧が優しく撫でる。その撫でた風、霧がよく知っているような気がして、嗚呼、これが前世の記憶かと思わず納得した。祢々切丸と蜘蛛切丸がニヤリと笑い、刃物を振り上げかける。そして、逃げるように体を半回転しようとしている神様に向かって刃物を振った。そのまま、向こう側に滑り込む。二人がスピードを緩めると刃物同士が交差する。チラリと横目に見た。神様の残った片腕と片足に二人の刃物を包んでいた霧と風が纏い、突然重くなり、神様の自由を奪う。動くのは、半身と首から上だけだ。神様でも分かる。完全に動けなくして、確実にトドメを刺す気でいるのだ。神様は悔しそうに顔を歪ませた。
「……主様」
「狐影」
そして、思った通り、現れたのは狐影だった。その瞳にも表情にも、先程はあった震えも戸惑いもなかった。狐影は心臓辺りに手を置き、そして真剣な、覚悟を決めた表情で神様を見据えた。錫杖を自分の頭上よりも高く掲げる。錫杖の先を粒子のような、キラキラが美しく包み込む。狐影は一度、声を出さずに神様の名を呼んだ。「主様」と。その声が神様には聞こえた気がした。我にできる事は、きっと……
そして狐影はその錫杖を神様に向かって振り下ろした。途端、その粒子は彼から離れ、神様へ一直線に突き進んでいく。粒子は神様の周囲を包み、大きな透明な球体のようなものに神様を閉じ込める。最後の仕上げとして逃げないように補強したのだ。シャァン!と清らかな音を響かせながら、錫杖に寄りかかるように体重を預ける狐影。真っ赤に染まった顔半分が、神様を睨み付ける。血が、狐影の腰につけられた仮面に落ちた。神様は抵抗をやめず、暴れまわる。しかし、創造神としての力を失った以上、その体も力も人間に等しいものとなっていた。
「クソッ!人間風情が、いい気になってんじゃねぇぞ!どうぜ、貴様らが俺を殺したところでこの世界も消滅。結果的に、俺の望みが叶ったに過ぎない!無様!」
背中を逸らせて大声で笑う神様。そう、この世界は『キューブ』を放った瞬間から消滅を受け入れていた。何が「手掛けた本人かその血縁者にしか消滅できない」だ。何が「唯一手掛けた」だ。そんんなもの、無意味なのに、信じ込む愚かさと言ったら!
笑いが止まらない。神様の高笑いが大きく、響き渡る。その声と共に世界が悲鳴をあげるかの如く、揺れ動く。空が曇っていく。地響きが遠くから響き渡る。命の枯れる音が聞こえる。その時、神様の言葉を包み込むように、声がした。
…終盤ですのぉ…(云うことがなくなったようです)




