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リボン隠れ鬼  作者: 作空うむき
18/20

9-前

 小助は夢の発言に驚きギクリとして固まった。そしてなんとも言えない表情で夢を見る。しかし夢は名案だと言わんばかりの興奮した面持ちで続けた。

「別に一歩も近付くなって事じゃないの。学校に居る間とか人目につく道とか図書館とか。そういう所で会うのを一切止めれば、その内流れてる噂もなくなると思う」

「それは、そうだけど」

「でしょ? 今の所勝君が避けられてるのは、はっきり言って小松君が側に居るから。ならその二人が見た感じでも前と同じ只のクラスメイトに戻れば、皆『勝君が元に戻った』って思う筈」

「確かにそうだろうなって俺も思うよ。でも……」

 小助は渋る。もしこれが正しい意見なのであれば小助も二つ返事で採用した。勿論寂しくはあるが、それは勝の為だから仕方がないと割り切れる。

 だが、これは正解ではない。その事は私情を抜きにしてもはっきりと分かった。

「そしたら勝、一人になっちゃうから……」

「確かに噂されてる間は誰も近寄らないし、無視だってこのまま続くね」

「うん。だからその案は止めた方が良いと……」

「そこでね!」

 夢がぴょこんと飛んで小助に近付く。

「それならあたしがその間勝君の側に居るよ。一人になった勝君にあたしが話しかけても誰も何も言わないだろうし、何よりキョウちゃんもトモちゃんも一緒だから、これで勝君も寂しくなくなるでしょ?」

「でも……」

「小松君の気持ちは分かるよ。あたしだってキョウちゃん達から離れろって言われたら凄く辛い。でもね、一生近付くなって言ってるわけじゃない。だから小松君がちょっとだけ我慢すれば良いの」

「俺の問題は良いんだ。だからそこは勝が……」

「あたしは勝君の問題の話しをしてるんじゃなくて、小松君の問題の話しをしてるの。ねぇ、本当に勝君の事なんとかしたいって思ってる? 思ってるならここは男らしく……」

「思ってるよ。でも、今の佐々木さんじゃ、駄目なんだ」

 はっきりと言いたい事を言えば夢の目くじらが一気に上がる。今にも殴り掛かってきそうな勢いで小助に詰め寄った。

「何、それ。つまりあたしじゃ役不足って事?」

「違うよ」

「ならどういう意味」

「佐々木さんは勝の言ってる事、少しも信じていないんでしょ」

「信じるって何を」

「『俺の後の席って誰か居なかったか?』この三日、勝が皆に聞いて回ってる事」

 夢の勢いが衰える。そして明らかに身を離した。

「そりゃまぁ……ね」

 やっぱり、と小助は勝の代わりに悲しんだ。

 今の勝には小助が必要なのではない。自分の事を信じてくれる人が必要なのだ。今の所それは小助しかいないし、協力する相手も小助だけ。それを夢や他の誰かがしてくれるのならば小助は少しだけほっとしてから離れる。そして独りでも調べ続ける。

 だが夢は勝を信じていない。だからもし今小助が勝の元から離れれば、今よりももっと荒れるのは目に見えていた。

「佐々木さん、お願いがあるんだけど」

「……何」

「俺の家に来てくれないかな。本当に直ぐそこだし、時間も取らない」

「だから行かないって」

「もし八重樫さんの事を考えてるのなら今は気にしないで。それにその案を実行するなら佐々木さんだけじゃなくて八重樫さん達も勝の側に居てくれるんでしょ? なら俺が今から話す事は佐々木さんから八重樫さん達に伝えて欲しい」

「……」

「大丈夫、変な宗教に入れたりしないから」

 そう言うと夢はバツが悪そうな顔をした。噂好きの夢の事。違うとは分かっていても無意識に警戒してしまうのだろう。

 小助は「行こう」と言うと先を歩いた。一度も振り返らずに歩いて玄関の鍵を開けると後で立ち止まる靴音がする。それにほっとしてドアを開けた。

「小助……誰だ、その貴婦人は……」

 またこれか、と小助は出鼻をくじかれた気分になった。

 徹夜明けの楽太郎が目の下に大きな隈を作った状態で玄関に現れた。

 ちなみに今回のコレはプロット作成によるものではない。夏の地獄に向けての充電期間中。詳しく言うとこれまで買い溜めていた、もしくは撮り溜めていたモノを好きなだけ見るオカルト祭りの真っ最中というわけ。

 にしても見た目が酷い。夢があからさまに数歩引いた。

「ただいま。同じクラスの子なんだ。ちょっと相談事があって」

「…………お邪魔します」

 恐々と頭を下げる夢を見ながら少し悲しくなる。今日の放課後、夢は学校に居なかった。だがあの騒ぎがあった後小助に会いにきたのだ。勝をなんとかしてとも言った。夢は最近の小学生らしく携帯電話を持っている。きっとそれで学校に居た友人から色々と聞いたのだろう。その中に楽太郎の事が入っていても可笑しくない。

 周りからどう思われているかも、そもそも今日あった騒ぎの事も何にも知らない楽太郎が、酷い愛想笑いを浮かべてへこへこと頭を下げた。

「いらっしゃい。その……ゆっくりしていってね」

 とだけ言い残すとぴゅんと風を切ってリビングの方にいなくなる。

 小助は頬を掻いてから家に上がると、来客用のスリッパを出した。

「先に二階に上がって直ぐ左の部屋に行ってて。飲み物持ってくから。あっ、階段上がったら本当に直ぐ左にドアがあるから、開ける時は気をつけてね。エアコンも好きに付けていいし、窓を開けても良いよ」

「分かった。お邪魔します」

 夢がスリッパを履くまで待ってから一緒に途中まで進む。小助はリビングに入ると直ぐに台所に向かった。飲み物の用意をしていると、その境のガラス戸を僅かに引いて楽太郎が不気味に目だけを覗かせた。

「彼女?」

「クラスメイト」

「友達?」

「隣りの席の子」

「可愛いね」

「そうだね」

「お人形さんみたいだね」

「そうだね」

「あのさ」

「何」

「寿司取ろうか」

「余計な事しないで」

 小助はバタンと冷蔵庫の扉を閉めた。



「お待たせ。オレンジジュースと麦茶あるよ。どっちが良い?」

「麦茶」

「オレンジジュースかと思った」

「ジュースは太るの」

 もう少し太っても誰も文句は言わないと思う。

 出したままの簡易テーブルに氷の入ったグラスを置くと、硝子の容器に入った麦茶を注ぐ。自分のにも同じのを注ぐと他はお盆ごと下に置いた。

「部屋綺麗だね。自分でお掃除してるの?」

「うん」

「えらいね」

 夢はそう言うと小助の向かい側に座って早速コップに口をつけた。夢の事だ。小助に母が居ない事はもう知っているし、他の子の様に忘れてはいないのだろう。

 小助は立ち上がると机の棚から一冊のノートを取り出した。夢に説明するのはコレだけで良い。無理に信じ込ませようとして妖怪やその他諸々の話しをするのは逆効果だと、先程のオノシンの態度を見て学んだ。

「見飽きてると思うけど」

 と、ノートに貼った座席表を見せた。

 そして十個も空いた席の中で、やはり一番注目するべき勝の後の席を指した。

「これが勝の言ってる席」

「分かるよそれぐらい」

「で、これがその机の中の写真」

「写真? あっ本当に机のだ。これどうやって撮ったの? 小松君が無断で学校にカメラ持って来るとは思えないんだけど」

「勝が裏技を使ったんだ」

 二日前、小助達はとにかく不思議だと思った点を写真に収めてみる事にした。喜糸の家、勝の家、それと学校。小助は馬鹿正直に「命がけでカメラを……」と緊張したのだが、勝がオノシンに「夏休みの工作に学校の絵を描きたい」と言った事で見事に解決した。こういう誤摩化し方があるのかと学んだ小助だが、実行出来るかどうかはまた別の話し。

「これ見て何か思う事ってある?」

「んー……特に気になる事はないけど……」

「どうして誰も居ない席に教科書が入ってるんだろうって思ったりしない?」

 夢は唸りながら写真を持ち上げる。

「言われてみればそうだけど、でもそれって気にする事? あるんだから、あるんじゃないの?」

「成る程」

 小助は頷く。先ず誰彼構わず聞き回るのではなく、こうして話しを冷静に聞いてくれる人に聞けば良かった。であれば勝が無視させれる事は防げただろうし、変な噂が流れる事はなかった。

 それにしても夢の返答。これには凄く引っ掛かる。

 疑問を持てば解決せずにはいられない夢がどうして「あるんだから仕様がない」と一言で片付けられるのだろう。

 小助は焦らない様に新たな写真を一枚だけ選んで置いた。

「写真はこれで最後にするよ」

「これがどうしたの」

「ここ、何で空いてるんだと思う?」

 ここ、と指したのは勝を含めた五人の男子達が笑顔で肩を組む写真。林間学校の時の写真だろうが、勝とクラスメイトの男子の間がぽっかりと空いている。腕はきちんと肩に回しているのに。

 夢はその写真を睨む様に見た。しかし時間を掛けたのが嘘の様に、あっさりと諦めてテーブルに置いた。

「駄目、想像もつかない」

「そっか」

「空いてるから空いてる。それじゃ駄目なの?」

「うん、駄目なんだ」

「もー本当に訳分かんない。小松君は、あと勝君は一体何を知りたいの?」

 夢の疲れた様な声を聞いて、今度こそノートのページを捲る。

 それは小助達が一番最初に記した記録。小助と勝が仲良くなる前後を書いた時系列だった。

「色々質問するから、佐々木さんは思った事だけを言ってね」

「時間かかる?」

「直ぐ終わるよ」

 小助は早速始めた。

「俺と勝が仲良くなるきっかけをくれたのは佐々木さん」

「まー、そうだね」

「それがこの日。リボン隠れ鬼をする為に土曜日皆で集まって買い物に行った。凄く大変だったのを今でも頻繁に思い出すよ」

「なにそれ。折角盛り上げたんだから楽しかったって言ってよ」

 頬を膨らます夢に思わず苦笑いが溢れる。

 あれは場を盛り上げていたのか。夢の、というより女子の性なのだと思っていた。

「で、なんで急に思い出話するの」

「大丈夫、ここからが本題」

「早くしてね。帰るの遅くなるとママが怒るの」

「分かった」

 小助はご希望通り遠回しな言い方をせずにはっきりと聞いた。

「その日ってさ、実は佐々木さんが企画した合コンだった?」

「げっ」

 ぎょっとした夢だが、直ぐにシラを切る為笑顔を作った。

 その完璧な笑顔に、いっそ感服する。

「女の子三人に対して小松君一人だと可哀相だと思って。だから三対三になれば気が楽かなって」

「そっか。でも佐々木さんが俺に対してはあんまり気を使わないよね」

「うっ」

「それに佐々木さんなら分かると思うけど、俺は例え二十対一でも平然と出来る呑気でつまらない男なんだ」

 知り合いだろうが、そうじゃなかろうが、小助は絶対に怯まない。だからといって輪に入ろうとはしないが、緊張も何もしないただそこに居るだろう。

 その証拠に放課後の座談会に誘われた時や、それこそ土曜日の買い物は結局一度も断らなかった。

 夢がぐぬぬと唸る。しかしそれも長くはない。やがて観念した溜息を吐いた。

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