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リボン隠れ鬼  作者: 作空うむき
14/20

7-前

 翌日から勝は登校を始めた。体重が激減した事で夢やその他大勢の生徒達を瞬時に卒倒させたが、誰もが皆一様に勝の帰還を祝い、心から労ってくれた。こういう時にこそ改めて勝の人気の高さを目の当たりにする事が出来る。のだが、

「当分学校行きたくねー……」

「折角来たのに」

「だって皆気ぃ使ってくるんだもん」

 なんだか昨日よりもげっそりとした様子の勝が言う。今日一日皆から親切にされ過ぎて、逆に疲れてしまったのだ。

 そんな勝を引きずって連れてきたのは小助の家。今日はそこで第一回目の作戦会議を執り行う。

「小助……誰だ、そいつ……」

 帰宅して直ぐ、締め切りを無事終えた楽太郎が、先程まで寝ていましたという様な恰好で玄関に現れた。満身創痍に少しだけHPが補充された様な姿を見て勝が僅かに身を隠す。小助は見慣れているが、パッと見は妖怪か何かに見えるかもしれない。

 “妖怪締め切り終わり”という漫画を描けばかなりの読者に共感を得そうだ。

「ただいま。騒がないからとっ友達入れても良い?」

 “友達”という単語に思わず動揺する。「大丈夫? 俺達友達で合ってるよね?」と不安になるも、勝は「お邪魔します」と言っただけで否定はしない。そのことに酷く安心した。

 だがその反面凄い勢いで動揺し始めた楽太郎は、まるで取引先の偉い人に挨拶するかの勢いで頭を下げ始めた。

「いらっしゃいませ! 小助の父の楽太郎です! 職業はまん……」

「先に一番奥の部屋に行ってて。飲み物とお菓子持ってくから。あっ父さんは寝てて良いよ。おやすみ」

 さっさと靴を脱いで家に上がると楽太郎を六畳二間の和室に押し込んだ。片方は作業部屋、もう片方は楽太郎の寝室であるそこは先程まで寝ていた形跡はあるものの敷き布団が敷かれていない。恐らく力尽きて直に毛布だけで寝てしまったのだろう。よくある事だ。

 布団を敷いてやっていると楽太郎がくいくいと小助の裾を引く。

「名前何? 年は? クラスは? どこに住んでるの? 身長は? 体重は? スリーサイ……」

「千田勝君。同じクラスで学校の直ぐ近くのマンションに住んでるよ。他は知らない」

「友達? 友達で良いんだよな?」

 小助はそれに返事をしない代わりに頷いた。頬が少し熱い。すると楽太郎がもう一度口の中で「友達」と呟いて、廊下がある方を見た。そしてもう一度小助を見つめてーーーーー

「寿司取ろう」

「余計な事しないで。寝て」

 犬に命令するかのように布団を指すも、楽太郎の興奮は収まらない。しまいには小助が止める間もなく風呂場に直行してしまった。



「この部屋幽霊出そう」

「“楽太郎”っていう名前の妖怪は出るけどね」

「えっマジで? そんなん居るの?」

「うん」

 嘘ではない。一階の一番奥の部屋は資料室という名のオカルト部屋。漫画から雑誌、他にも映画や取り溜めたDVD等多彩な媒体がここには存在する。日焼け避けの関係で日中でも日当りが良くないここは、恐がりな面が少しでもあるとその晩は悪夢にうなされトイレに行けなくなるだろう。

「勝って恐いの平気だよね」

「まーな。びっくり要素はびっくりするけど、それで泣いたりトイレに行けないことはない」

「なら良かった」

 年齢指定はつかずともおどろおどろしい絵が書かれた漫画が多い。もしトラウマにでもなられたりしたら申し訳ない。

 ちなみに楽太郎の漫画やその他の年齢指定モノ、フィギュア、作者のサイン入り本等は作業部屋で管理しているのでここにはない。故に安心して調べモノが出来る。

 だがその前に、と小助は買ったは良いが六年間碌に使わなかった自由帳を取り出した。

「先ずはどうしようか。平日の日中、放課後、休日。それぞれで出来る事を考えよう」

 今日学校に行ってみて大変だったのは「こんな事をしていて良いんだろうか」という焦りを我慢する事。もしかしたらこれは一刻を争う事かもしれないのに、と授業中に何度も時計を見上げてはそわそわしてしまい、見かねたオノシンに注意されてしまった。

 学生の本業はどう足掻いても学業。人探しのみに専念出来ない今、それぞれの時間にやる事を決めた方が気持ち的に楽だ。

 勝もそう思ってはいたようで今後の簡単な方針と計画を経てて行く事に賛成してくれた。

 そうして割と直ぐに出来上がってしまった計画表は、なんだか身の丈に合っているような、言ってしまうと子供らしい発想ばかりのモノになってしまった。

「なんか案外やる事ないな。聞き込み調査っつっても、聞く事なんて一つしかねぇし」

「『勝の後の席って誰か居た?』だもんね。それに俺じゃあ佐々木さん達にしか聞けないよ」

「いじめられっ子だもんな」

「はっきり言うね」

「嘘ついても仕様がないんだろ」

 という勝にひょいと肩を竦めてみせる。勝はそれを見て少しだけ笑って、そしてまたしょんぼりと手の中のグラスを弄り始めた。

「こんなんで見つけられんのかな」

 それに対して小助は直ぐに返事が出来なかった。何故ならばその不安は小助も同様に抱えていたモノだったから。

 学校では聞き取り調査、放課後は似た様な事案が過去になかったかを調べ、その延長で休日も調べモノ。他にも喜糸の家を更に詳しく見てみるというだけのなんとも簡単な計画。いや、もう計画とも言えないかもしれない。

 ーーいつ、助けられるんだろう……ーー

 立てた計画のどこにも消えた彼を助ける期日が明記されていない。つまり何月から何月まで掛かるといった具体的な期間が今の現段階では一切分からないという事で。

 ならばもし十年後、二十年後まで掛かってしまったら、その時の小助達は今の闘志を消さずにいられているのだろうか。他の人達同様記憶から彼を消してしまわないだろうか。

「でもさ、居たのは確かだよね」

「………おう」

 今朝二人で喜糸の家に行った。すると玄関には子供の、それも喜糸の物ではない靴が綺麗に揃えて置かれていた。それを皮切りに小助達はどんどんと他の証拠を見つけだす。喜糸の部屋の二段ベッド、二つある勉強机、衣服、食器。

 学校に着くと今度は下駄箱に無記名の靴、机の中の教書、空のランドセル。注意して見ればこんなにもおかしな点があった。今まで何故それらに気付けなかったのか。

 特に家族やクラスの人達と撮った写真はその違和感の比ではない。風呂だけ、もしくは散乱した玩具だけを写した不自然な写真、複数人で撮られた時にぽっかりと一人分だけ空いた奇妙な写真。

 それらは全てそこに誰かが居た確たる証拠だった。小助達の記憶よりも鮮明にそれらを訴える。

 勝が苛立たしげにバリバリと頭を掻いた。元から短気な所がある上に、消えた相手が勝にとっては大事な人だった様なので小助以上に焦るのだろう。

「例えばだけど……」

 小助は近くの棚から本を数冊取り出す。難しい言葉ばかりで小学生の自分にはまだ早い本だが、今欲しいのはその言葉だけなので表紙のみを勝に見せる。

「相手が人間だと過程するならこれしかないと思う」

「それは……まぁ、俺も一回くらいは思ったけど……」

 勝は不服そうに“催眠術”と書かれた本を手にとって適当にページを捲った。

 人為的な何かだとすると催眠術、暗示、洗脳、マインドコントロール、といった人の思考、感覚、行動を術者の思いのままに誘導する心理作用。これしかない。

「でもそれにしたって大規模過ぎだろ。学校全体、おまけに家族だって忘れてんだぞ」

「でも学校関係者にだけなら可能かも。これも例えだけど犯人がオノシンの場合」

「犯人に見えない」

「見えないのが恐いんじゃないか」

 生徒からも親からも受けが良いオノシンが人をさらう悪さをしていたとしたら、その衝撃は相当だろう。

「で、なんでオノシン」

「洗脳っていうのは同じ事を何度も何度も言い聞かせると相手がそれを本当だって信じちゃうんだ。通販番組なんかそうだよね。『これは素晴らしい商品です』って番組の中で何度も何度も聞いてると、コレ買わなきゃ換気扇の油汚れは取れないって思っちゃう。買わなくてもこれは良い商品だって他の人にも勧めたくなる」

「あー確かに。まだ髭生えねぇのに電気カミソリ欲しくなった事あるわ」

「ちなみに『今だけお得にご提供』って言われて慌てて買っちゃうのがマインドコントロール」

 一時期楽太郎が通販番組を見るのに嵌まり、こっそり電話をかけようとしたのを目敏く見つけ、何度も止めた事がある。その時の言い分全てがまさにそれだった。「これは凄く良い商品で!」や「今だともう一個付いて来るんだ!」と必死に商品のアピールを始めていた。

「だから授業中とかPTAの会議で話しの節々に『A君は居ません』って言い続ける」

「あからさま過ぎね?」

「だから例えばだよ。そして六年後。勝の感覚では先週の月曜日に皆の記憶から消えた」

 勿論、

「それって可能?」

「勝が言った様に規模が大き過ぎる。だから不可能。あるとすればここがどこかの小さな集落で、俺達以外の全員が共犯者なら出来ない事はないだろうけど……」

 寧ろ可能性があるとすればそれしかない。

 掲示板の座席表を改ざんする事はおろか、これまでの写真全てを合成して入れ替える事等雑作もないだろうし。だが、そんな労力を惜しまない人達が本人の物だと思わしき私物を残したままにしておくだろうか。

「でもどの道あり得ないよ。オノシン犯人説だと一瞬で記憶を消したって事になるし、全員が犯人説だとなんで俺達だけがのけ者にされたのか分からない。子供なんて一番洗脳しやすいでしょ。だってまだ親の庇護で生活してるんだから」

 子供は親を見て育つ。だから親が「そうだ」と教えれば「そうか」と信じる。そもそも子育ては洗脳、暗示、マインドコントロールのオンパレードだ。

 悪い事をしたら閻魔様に舌を抜かれる、大人の言う事をよく聞かないと事故に遭う、テストで百点取ったら好きな物を買ってもらえる。

 勝は唸った。

 小助も首を捻った。

 もしこれらではないとするのであれば、残すは最早アレらしかない。だがそれを口にする事はどうしても憚られた。

 二人とも、出来るだけ冷静な思考で現実的に考えたかった。でないと警察に助けを求められないし、先ず小助達がそれらを相手に行動しようと思えない。

 “アレ”、“それら”。日本で昔から伝わる神隠し、世界的に有名な宇宙人、人さらいの逸話が残る神様。そんな非科学的な現象や空想上のモノに焦点を当てれば直ぐに捜索が暗礁に乗り上げるのは明白。

 だが他に何をどう調べれば良いのかーーーーーそう気持ちが後退し始めた時、バシンっと勢い良くドアが開いた。体をびくつかせて振り返れば髭を剃り伸びた髪を束ねまともな恰好をした楽太郎が鼻息荒くそこに立っている。

 その時キラリと光った銀色のヘラに目をぱちくりとさせていると、まるで悪党を前に自己紹介のポーズをとる戦隊モノのヒーロー様に、いや、それよりも大分変な恰好を楽太郎は決める。

「へい小助の友達の千田勝君」

「………はい」

「晩ご飯は、如何かな?」

 小助は棚の上にある置き時計を引き寄せた。

「まだ五時前だよ」

「早寝早起き早風呂早飯。小松家の家訓を忘れたか」

「今知った」

「良いからこっち来なさいよ。おじさんがお好み焼き作っちゃる」

 シャキンと構えたヘラが更に光る。

 これは拒否権がないやつだな、と小助は楽太郎にたっぷりジト目を送ってから勝を見た。勝も困った様に小助を見ていて、仕方がないので肩を竦めてみせた。

「勝、今日の晩ご飯の予定は?」

「家にある飯だけど……」

「なら家で食べていってよ。父さんのお好み焼き美味しいよ」

 家でご飯ならまた弁当だろう。なら楽太郎のキャベツ入れ過ぎ焼きを、いや、お好み焼きを食べて行ってもらいたい。

 勝は少し迷った風にすると、軽く頷いてから楽太郎に頭を下げた。

「頂きます」

「おっしゃ、なら早くこっちゃこーい(※こっちにおいで)」

 小助達は本だけ片付けてスッキプする楽太郎の後を追いかけた。

※参考【Wikipedia】

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