第二十五話(最終話) いつか同じ物語(ソラ)の下で
こんにちは。作者の「野生の書生」です。
本作は無断転載をテーマとしていますが、無断転載を擁護・許可するものではありません。
作者も異世界を含めて無断転載を行ったことはありません。
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・地名等は一切関係ありませんので、ご容赦ください。
異世界から帰った数日後、俺はノートパソコンを前にしていた。
異世界から帰還した俺が最初に書いたのは小説ではなく、無断欠勤に対する始末書だった。
こちらの世界でも二週間以上の時間が経過しており、おかげで俺は有休休暇をほとんど使いはたしたうえ、今年度の人事評価は推して知るべし、という状況になってしまった。
さて、帰還直後のドタバタが片付き、ようやく落ち着いて執筆活動に戻れるようになったわけだが、その前にもう一つ片づけなければならないことがあった。
俺がヴィトから託されたくしゃくしゃの紙。
そこにはヴィトがこちらの世界で使っていた「小説を書こう」のアカウントIDとパスワードが書かれていたのだ。
『お前が責任もって完結させろ。』
紙の最後にはそう付け加えられていた。
俺は苦笑し、自分のノートパソコンでヴィトのアカウントにログインした。
そこには俺のアカウントでは決してお目にかかれないPV数とブックマーク数が映し出されていた。
俺は少々緊張気味に”野ざらしの猫車”先生のゴーストライターとして、物語を打ち込んでいった。
◇
数週間後、『~転移魔法を研究している俺、気づけば濡れ衣着せられピンチな件~』は最終話を無事迎えることができた。
ヴィトは自分の経験をベースに執筆していたようだが、俺は俺が経験してきた物語とは方向性を変えたエンディングを書くことにした。
最終話投稿から一時間もしないうちに、感想コメントが続々と寄せられてきた。
『最後までこの物語を読むことができて幸せでした!』
『明日から何を読めばいいんだろう.........。(泣)』
『途中から文体が変わった気もしたけれど、後半も味があってよかったです!』
——一瞬ヒヤリとさせられるコメントもあったが、俺は無事に責任を果たすことができたというわけだ。
◇
さて、ここからは俺の物語の執筆だ。
ふと、ある考えがよぎった。
<このまま”野ざらしの猫車”先生を襲名してしまえば、もっと多くのファンを得られるんじゃないか?>
このアカウントを使う人間はこの世界には存在しない。
——だったら、いっそのこと。
少しの間をおいて、俺はマウスを動かした。
『ログアウト』のボタンをクリックする。
俺は自分のアカウントIDとパスワードをノートパソコンに打ち込むと、さえないPV数が映し出されたいつもの画面に向き直った。
「俺は、俺の物語を書くんだもんな。」
そうつぶやくと、俺は新しい作品の作成画面を呼び出した。
久々の新作。
異世界の冒険を経て、最初に書く”俺の”物語。
俺は少し考えてから、タイトルを打ち込んだ。
『異世界転載物語~ネット小説家(自称)の俺、”どうせバレないだろう”と異世界で現世の人気作を無断転載したらお尋ね者になった件~』
◇
~一年後~
あれから早くも一年がたった。
俺の作品は相変わらずネットの山に埋もれている。
それでも、俺はもう後ろ向きな気分になることはなかった。
それに、ヴィトのアドバイスの効果なのか、俺の作品にブックマークをしてくれる読者が少しずつだけど現れ始めたのだ。
最初に一件ブックマークがついたときには、心の中で踊りまくった。
俺の作品がついに誰かの心に届いたのだ。
その日は、めったに飲まないくせに、酒屋でワインを買ってきて祝杯を挙げた。
でも、そのことを最初に報告したい相手は、この世界には存在しない。
その事実を前に、俺はほろ酔い気分の中、無性に寂しさを感じていた。
◇
そして、またしばらくたった頃、俺のページに一件の通知があった。
フォローしているユーザの更新通知だ。
俺はその通知を見て、心臓が跳ね上がった。
『”野ざらしの猫車”さんが活動報告をアップロードしました。』
あのアカウントは完結して以降、放置している。
今、活動報告を書ける人間がいるのだとしたら——
俺はベランダに駆け寄った。
体を乗り出して、一階を見下ろす。
そういえば、住人はもういないはずなのに、いまだに大家さんや業者が一階の部屋へ片づけに入るのを見ていなかった。
胸ポケットからスマートフォンが滑り落ちた。
一階の庭に落ちて、鈍い音を立てる。
「おいおい。マジかよ............。」
俺ははやる心を抑えて、ノートパソコンをひったくるように取ると一階へ走った。
◇
とにかく非常事態だ。
俺は、一階の部屋の呼び鈴を鳴らす。
しばらくするとドアが開き、見覚えのある男が顔を出した。
俺は一年ぶりに会う”戦友”にノートパソコンを差し出すと、深々と頭を下げた。
「新しい物語を書いたんです!読んでいただけませんか!?」
ドアの向こうから現れた”戦友”は、やれやれという顔で、俺の差し出したノートパソコンをゆっくりと受け取ってくれた。
最終話までお付き合いいただき、ありがとうございました。
第一話の後書きでも書いた通り、この物語を執筆したきっかけは作者が前作を執筆していた時に感じた想いをぶつける作品を書きたいと思ったことです。
無断転載はともかく、自分を含めてネット小説を執筆するすべての小説家である皆様に、エールとなる作品を目指して書いたので楽しんでいただけたら幸いです。
この作品が面白いと思っていただけた方は是非、無断転載ではなく高評価・感想・ブックマーク等で応援していただけたらと思います。




