73:サヨナラ悪役令嬢
「なら、是非勘当してくださいまし」
エミリア様の言葉に場が凍る。
勘当になれば、公爵令嬢が平民になるから。
リンガー公爵はあまりの事だったのだろう、さっきまでの勢いを無くしてしまった。
そして取り巻き令嬢達。
こんな事に付き合っていたら、自らの評判が堕ちるだろうに。それでもエミリア様に付き合っていたのは、彼女等もその覚悟があったんだろう。
エミリア様は凛とした態度でリンガー公爵に詰め寄る。
「ワタクシを勘当してくださいまし。
以後けっしてリンガー公爵家には迷惑を掛けませんわ。
何度もお父様にはお願いしておりますでしょう?
ワタクシに今まで影をつけておられたようですが、
今のワタクシにその価値はございません。
もう一度お願い申し上げます。
ワタクシを勘当してくださいまし!」
私は3人に相談する。
『シマ社長、モモ先生、マキシ、エミリア様には何か事情がありそうよ。どうしたらいいのかしら?』
『そうですね、私も事情が知りたいのですが上手く行かず……』
『むぅ~、確かに深刻な事情がありそうなのぅ~』
『一か八か猫神様に聞いてみたら?
婚約のお祝いにちょっと出て来てくれたんだ、
ご祝儀に何かしてくれるんじゃないか?』
『お忙しいだろうに、大丈夫かしら?』
『ニャ。かわいいシャーロットの為なら良いのニャ!
エミリアは……ふむふむ……ニャ!
リカルド?……ふむふむ……ニャ!
えっ、仕事が……後でいいにゃろが!
外野は黙ってろニャ!
へぇっ、ダメ?めちゃくちゃ仕事溜まった?
嫌ニャー!ふぇぇぇん。行かなくちゃ駄目ニャ?
はぁ、すまない、リカルドを送るニャ!
後はよろしくニャ!』
『『『『へっ?!』』』』
何かリカルド?って方を送ってくるの?猫神様?!
余程忙しくなってしまったのか、もう猫神様の念は聞こえない……。
ポワワワワァン
その時20歳前後の男性が、座っている豪華な椅子と共に私達の目の前に現れた。
男性は深い紺色の髪に切れ長の瞳。端正な顔立ちの方。銀縁の眼鏡が彼のクールな魅力を引き立てている。
だけど長いこと囚われていたのか両の手は鎖で繋がれていた。髪は伸びっぱなしのようだ。
瞳には光が無く、生気の無い顔。
衰弱しているのが分かる。
おまけに暴力を日常的に受けているのだろう、服はボロボロ、見える範囲の至るところに怪我があるではないか!
「リカルド様ぁ!!」
エミリア様は周りの人々をかき分けながら、声を上げ男性に近づく。
瞳から涙が溢れている。
男性はエミリア様の方に顔を向けるが固まっている。
「リカルド様……」
エミリア様は涙を零しながら、男性の両の手の鎖を外そうとしているようだ。
だが、簡単に外れそうもないしっかりした作り。
と、マキシが近づき鍵を壊してしまった。身体強化をかけたのだろう、亜神の身体強化の前じゃ壊せない鍵なんて無い。
私は明らかに衰弱しているリカルド様へ、魔法を掛けた。
「エクストラヒール」
「クリーン」
よかった、顔色が良くなったわ。
綺麗になったし、怪我も消えた。
「リカルド王子、お久しぶりです、マクシミリアンです。今夜は神の奇跡の力が、貴方をアダルベルトへ運んで下さったようです。大変な目に遭われていたかとお見受けします。近衛に案内させましょう。先ずは身体を休めて下さい」
「アダルベルト……。マクシミリアン様、本当にココは、アダルベルトなのですか?」
「えぇ、そうです」
それを聞くとリカルド様は周りを見渡す。
「パーティーの最中だろうか?中断させてしまい申し訳無い」
リカルド様の側には言葉が発せず、涙を流し続けるエミリア様。リカルド様はエミリア様を見つめる。
「エミリア嬢……済まなかった、連絡が取れなかったんだ……」
エミリア様は涙で言葉が出ず、コクリコクリと頷いていた。
やがて近衛に案内され、リカルド様が会場を出て行く。続いて先程の事に関係した方々も。
マキシは呆然とした会場に語りかける。
「今宵は様々な奇跡が我等に降りた。
先程の出来事も猫神様が下さった奇跡だ。
皆、驚いたかと思うがこの先悪いモノは消え去るだろう。そうなるように我等は動く。
今はさらなる奇跡の来訪を待とうではないか!」
すると会場中を温かい拍手が包んだ。
——ザイル王国には何かあるんだろうね。
それはいつか私達も立ち向かわないといけないかもしれない。
だけど今はリカルド様とエミリア様の再会を喜びたい。




