70:ジョシュア王子の襲来
やがて猫神様は帰って行った。
会場は放心状態の方や、感激して泣いたままの方、祈りのポーズのままの方等、本来ならダンスの時間になる筈が変更して歓談の時間となった。
御婦人方なんか特に涙でお化粧が崩れてしまわれてね、どうでしょうか、戻って来られるかな?
私の両肩にはシマ社長とモモ先生が載っている。
珍しいコトに姿を現したままだ。
マキシもピッタリ私の横に付いている。
顔は笑顔が張り付いているんだけど、なんかこの3人はピリピリしているの。
お腹空きましたか?料理取りに行く?
そう思っていたら近づく気配あり……。
——ジョシュア王子だわ。
N字になっている髪が歩を進める度にビヨンビヨンと跳ねている。斬新だわ。
私の前にやってきた。
「何かご用ですか?」
マキシがずいっと前に出て、私を庇うようにしてくれた。
大きな背中に庇われてなんだが胸がキュンっていった……。
「シャーロットに用があります、話をさせてください」
「何故シャーロット嬢の名前を親しげに呼ばれるのです?
今や私の婚約者なんですが」
マキシはジョシュア王子に笑顔で詰め寄る。
「……し、失礼しました、シャーロット嬢に用があるのです。呪いを止めて頂きたく……」
「シャーロットは呪いなんてかけてないよ!
神罰が降ったのさ。シャーロットが何か出来ることは無いよ。君達にできるのは、何故神罰が降ったのか、自らを省みて、神に慈悲を縋るだけだ!!」
中々お怒りのご様子のシマ社長が羽をバタつかせる。
「そ、そんなぁ……」
崩れ落ちるジョシュア王子。あのN字になっている毛束が丁度王子の鼻の辺りにビヨンと垂れ下がった。
……ヒゲみたいだなぁ。
そこへ慌てた様子のフリーデル王国の現王妃ベアトリーチェ様がやってきた。
折に触れて、私を心配し私が困らないように根回しをしてくれたりした優しい方だった。
ジョシュア王子の奇抜な髪型とは対照的に美しいドレス姿である。
あら?よく見るとジョシュア王子の正装にはNの字がプリント?されている。
益々個性的に拍車をかけているわ……。
「聖女シャーロット、お久しぶりね。元気そうでよかったわ。それと、婚約おめでとう」
「ありがとうございます」
「貴方があの国を出ることが出来てよかったわ。
今の貴方は疲れた顔もしていないし、クマもない。
アダルベルトで幸せになったのね。
……私と実家の侯爵家は、この公務を最後に他国に移る予定なの。また何処かで会えたら嬉しいわ」
そう言いながら目を潤ませるベアトリーチェ様。
「義姉上!どういうことです?兄上が知ったら、」
「アナタのお兄様には話を通してあります。
それより祝いの席でその言動、オカシイとは思わなくって?」
流石多くの淑女に慕われてただけあるわ、ベアトリーチェ様。
ピシッとたしなめてる。だけど、残念ながらジョシュア王子にはピンとこない様子なんだ。
「国もあんなになったしぃぃ、僕達ハァァン、こんなにぃなっちゃったしぃぃ、どおしたらぁぁ、ファァァン、いいんですかぁ〜〜〜!」
「うわぁ……」
引きまくっているベアトリーチェ様。
「さっきシマがどうすればいいか、言ったのにぃ……」
モモ先生は呆れ顔。
マキシがいつの間にか手配をしていたようで、忽ち近衛の方々がジョシュア王子を取り囲み、何処かへ連れて行ってしまった。
「ジョシュア様がごめんなさいね。
もう、つける薬が無さそ……
ううんっ。……本当は私だけがコチラに伺う予定だったのに無理矢理着いてきたようなの……。会場に入ったらジョシュア様がいたものだから私内心パニックでしたわ……」
あぁ、さっきの申し訳無さそうな会釈はそういうことだったのね。
「ベアトリーチェ、僕達が加護するシャーロットに気に掛けてくれてありがとう。
僕達が、君等侯爵家の亡命が上手くいくように他の精霊達にお願いしておくよ」
シマ社長がキリッと宣言すると、お目目キラキラになったベアトリーチェ様。
「はぁぁっ、かわいい……変な王子見た後の目が浄化されましたわ」
ジョシュア王子遂に汚物扱いになって……しょうがないか。




