閑話:滅びの第1楽章
私はジョルジオ=フォン=フリーデル。
フリーデル王国の第2王子だ。
私には先王が決めた婚約者がいる。シャーロット=オブ=ウェストン。聖女の称号をもっており、口うるさくて、嫌いだった。顔を合わせる度にあれをしたほうがいいとか、これをするべきだとか言ってきた。
なんで先王はアイツを私の婚約者にしたのか。
婚約者を変えてくれと頼んでも、聞いてくれずに南の王家保養地で隠居を決め込んでしまった。
代わって王になった兄上に婚約破棄を願ったが、それは出来ないと断わられてしまう。嫁いだ姉上に執り成しを頼んだがそれも素気なく断わられてしまった。いつも私のお願いなら聞いてくれたのに……。
聖女の称号がネックなのだろうか?最近アイツは貴族の治療ばかりしているらしいし、そんなこと他の聖女でも出来るだろう?
そんな時、ビアンカ=デ=ドハーティ公爵令嬢からアプローチを受けた。
彼女の曾祖母はザイル王国の第3王女だった方で、曽祖父は私の大叔父で由緒正しい出だ。伯爵家ごときとは比べようもない。おまけに神聖魔法も使えるという。
ネックの聖女の称号の件も、大丈夫。彼女が聖女になれば良い。私好みの色気のある美女だし、何より私を立ててくれる。彼女こそ私の婚約者になるべきだったのだ。
彼女のような素晴らしい相手がいるなら、シャーロットとの婚約破棄は上手くいくだろう。
ドハーティ公爵からは私とビアンカ公爵令嬢を応援すると言われたし、来たる令嬢の誕生日パーティーで私と公爵令嬢の婚約発表と聖女就任を行えばよい。
兄上には事後報告にはなるが、問題無かろう。
次いでにシャーロットとの婚約破棄と聖女称号剥奪を言い渡してやろう。
そして、待ちに待ったビアンカ公爵令嬢の誕生日パーティーで、シャーロットはアッサリ婚約破棄と聖女称号剥奪を受け入れ帰っていった。
揉めなくてよかった。案外物分かりがよかったのだな。次は兄上に報告をして、ビアンカ公爵令嬢との結婚式の準備をしなければならない。
◇◇◇◇◇◇◇
……誕生日パーティーから1ヶ月経った。外遊から兄上が帰ってくる。早速兄上へ会いに行こうとしていた私の元に鬼の様な顔をした兄と宰相がやって来た。外遊先で何かあったのか?声を掛けようとした刹那、
「ジョルジオォ゙、お前は馬鹿なのかぁー!?」
強烈な痛みが私の頬を襲う。
兄に殴られすっ飛びながら、私は嫌な感覚が拭えない。
鼻血が垂れてる……痛みに耐えながら兄上を見る。
「シャーロット筆頭聖女と婚約破棄でも信じられないが、称号も剥奪なんて、お前は教皇でもなったつもりかぁ!?」
「それがどうしたっていうんです?殴るなんて…酷い、兄上!父様と母様に言って叱ってもらいますから!」
「ワシがそんな話を聞いて叱るとでも?」
父上がぬうっと出てくる。冷たい目。
どうみても怒っている様子に一瞬怯んだが、私は言わなければならない。
「はい、どうか兄上を叱って下さい!私をいきなり殴ったのです」
「何をバカな事を言っておるか!クリスティアンが折角整えた外遊の成果も不意にしおってからに!」
父上にも殴られた。星がチカチカする。私は気を失った―。
◇◇◇◇◇◇◇
「ジョシュがあんなバカな子だったなんて……」
母上も滞在先から戻ってこられたのか。声が聞こえる。
母上、父上、兄上3人と宰相のゲイル卿はソファに腰掛け何やら話をしている。
私は父上に殴られ床に倒れ込んだまま気を失い、そのまま放置されていたようだ。ゆっくり身体を起こす。
「アイツは王命で決めた婚約を王族の自分なら破棄が出来ると考えていたのか!?王命だぞ!?
しかも神殿が与える聖女の称号を只の王族のアイツが剥奪出来る訳ないだろうが!?
それにも気が付かないで自分は悪くないというようなあの口ぶり。我が子ながら反吐が出る」
身体をワナワナさせて父上が言う。兄上は頭を抱えている。
「然し困りましたな。クリスティアン様が聖女の派遣を外遊の切り札にされて交渉をされておられていたのにこんなことになるなんて。
特に神殿は聖女絡みで稼いでいたようですので怒りは相当なようで。慰謝料と聖女探しの要望が来ておりますわい」
ゲイル卿が自身の真っ白い顎髭を触りながら父上を見た。
「ふん、自分らの懐に稼いだ金は行っているくせに……強欲な者共めが」
◇◇◇◇◇◇◇
重苦しい空気の中、
「にゃあぁぁぁぁん!!」
耳を劈くような猫の鳴き声が聞こえた。
皆が顔を見合わせた刹那、この場の全員の頭頂部の毛がN字のようにハッキリとしたクセが出た。
「滅びの第1楽章―」
何者かの囁きが聞こえた。




