閑話:シャーロットがお昼寝してる間に
シャーロットは今自室でお昼寝している。
存分にお昼寝を楽しめばいい……
今日は薬草をもっと植えるために畑を増やしたので疲れてたんだろう。
シマ社長とモモ先生はそっと教会を出た。
特に行く当ても無いので、邪神様の元へ向かう。
「ヤッホー、邪神様ぁ〜」
「御二人で珍しいですね。シャーロットさんはどうされたのですか?」
「お昼寝中。ボクらは暇で暇で、邪神様を訪ねることにしたんだ」
「それは光栄です」
「何かお話しよぅ~」
「何かってなんなのさ」
ぷくっと膨らむシマ社長。
「フフフ、では何の話をしましょうか?そうですね、シャーロットさんはいつから前世の記憶があったのですか?」
「えーと、時間をかけて緩やかに思いだしたようだよ。思い出し始めは5歳くらいだった筈。完全に記憶が戻ったのは10歳頃だった筈だ。それまでは子供らしい言動だったのが、10歳頃には前世の記憶と合わさってか今のような感じになったよ」
モモ先生は何か懐かしそうに小さなお手々を身体の前で組んだ。
「なんかねぇ、それまでは“鳥しゃん”“リスしゃん”とか呼んでたのよぅ。それが5歳頃、“シマ社長”“モモ先生”になったのぅ。
理由を聞いたら2人は凄い人だから、だって」
「意味分からないけどね。……でもその時はまだ5歳の子供の意識と前世が混ざり始めた頃だったからね。それで精一杯考えてくれたかと思うと嬉しいよね」
シマ社長も両翼を身体の前で合わせる。
ほっこりした空気に包まれる3人の前にどこからともなく何かが声を掛ける。
「ヤァ、こんにちにゃ」
やたら光る存在が手を上げる。
「えっ!導師トラ?!」
「「ご無沙汰しております」ぅ~」
「ヤァ久しぶり」
導師トラと呼ばれたのは茶トラ柄の猫で、
気さくな雰囲気のあるスマートな美猫であった。
「邪神様は始めてだよねぇ~。こちらの方は猫神様の眷属の導師トラさんだよ。トラさん、」
「大丈夫だにゃ。今は邪神君、よろしく!」
「よ、宜しくお願いします?」
「邪神君、にゃーは君が何に心を乱されているか分かるよ。心配しなくてもシャーロットの浄化で君は解放されるにゃぁよ。君が消えることはないにゃ。ただ、今とも前とも違う存在になるにゃ。楽しみに待つにゃ!」
「違う存在ですか?」
「今はナイショにゃ!」
邪神様はプルプルしている。すっごく気になってる気持ちを落ちつかせようとしているようだ。中途半端に言われても気になるよな、哀れ。
「その話は置いとくにゃ。今日は邪神君のことじゃなくて、シャーロットのことにゃ!フリーデル王国には愛想が尽きていたが、シャーロットが居たから我慢してきた!シャーロットが脱出した今もう、我々は我慢しないにゃ!」
「どうされるのです?」
「今のフリーデル支部神殿は信仰を無くした守銭奴しかいないにゃ。王族も信仰を蔑ろにしているにゃ。
……先ずは手始めに」
ゴクリ
皆が固唾を飲んで言葉を待つ。
「ヤツラの頭頂部の髪のクセがNになって取れなくしてやるのにゃ。これが滅びの第1楽章にゃ!」
胸をドンと叩く導師トラ。
シマ社長とモモ先生、邪神様は戸惑っている。
「第2楽章は、いつの間にかサイドが刈り上げられて、そこにN字の剃り込みが入るにゃ!両サイドにゃん!」
それは非常にダサい。でも、ちょっと見たい……。
「そして最終楽章はハゲ散らかした末にN字型に頭頂部の毛だけが残るのにゃん!」
それは……大半の毛が滅びるというヤツですね?
(毛根が滅んじゃうのね)
「そうなったら、カツラ被ると思うのぅ~」
「心配無いにゃん。滅びの調べはカツラを超えるにゃー。被っても被ってもN字から逃げられ無いにゃん!」
なるほど、それは容赦ない。
「(毛の)滅びの調べが終わった後は?」
「Nの紋章編が始まるにゃん!着る服着る服全てにNの字が沢山浮かび上がるにゃん!」
上位者で、流行を作る事がある人々がそんなN字攻撃に耐えられるのか?たぶん、頭オカシイくなりそうだろうな。
「その後、持ち物全てにNの字が浮かび上がるにゃん。最後は住んでいる場所にも大きめサイズのNの字が浮かび上がるにゃぁん!」
導師トラの瞳がランランとしてイカ耳。
余っ程腹に据えかねていたのね。
近いうちにフリーデル王国の王族と神殿ではNの神罰に襲われる―。 その時、王族と神殿の者達は何が原因でこうなったのか気が付くかな?
「滅びの調べとNの紋章編の後をどうするか今は検討中にゃ。素晴らしい神罰が浮かんだら連絡くれにゃ!」
導師トラはシャーロットを魂の時から(!)見てきたからとても可愛がってる。シャーロット強火担といっても過言ではない。
シマ社長もモモ先生も腹に据えかねていたから導師トラのこれからすることも共感している。
「と、いうことの情報共有に今日は来たのにゃん。
ハァー、そろそろ帰る。名残りおしいにゃあん!」
「えっ?シャーロットに会って帰られないのですか?」
「いや、今会うと他の眷属に抜け駆けしたって詰められるからやめとく……にゃぁは4導師の中で最弱だから……」
悲しそうな導師トラにはシャーロット強火担の眷属仲間がいるのだ。抜け駆けは許されない鉄の掟がある。抜け駆けしようものなら震えて眠らないといけないらしい……
「邪神君、この先シャーロットが理不尽な目に遭わない様に君も協力してくれにゃ!シマ、モモ、フリーデルの不届き者が神罰に遭うのは致し方ないことにゃ。もし、シャーロットがフリーデルのNの裁きのことを知ってもキニシナイ様に声を掛けてやって欲しいにゃ!じゃ、今日のところは帰るにゃーから、後宜しくにゃ!」
*****
シャーロットは前世で過労死直後に魂がこの世界へ異世界召喚されてしまった。前世で頑張り過ぎた心の優しい魂はボロボロになっており、不憫に思った創造神様が猫神様の元で魂の修復を受けさせた。その後は素晴らしい家族の赤子として産まれる手筈だったのだが―。
いざ転生させる段に、邪神の眷属の生き残りに邪魔され、フリーデル王国のあのウェストン家に産まれることとなったのだ。
猫神様は神だが出来ることと出来ないことがある。その頃は創造神様は眠りについていたし。
既に生を受けた者をどうしてやることも出来ず、猫神様はせめてもの見守りとしてこの光の精霊2人をシャーロットの護衛に送った。2人が神聖魔法も使えるようになったのはこの時からだ。でも、チカラのあるシャーロットには神聖魔法は及ばない。光のチカラで敵を退け、神聖魔法でシャーロットをサポートすることになった。
——シャーロットは転生チートで力があった為に、あれこれと仕事を背負わされ苦労を重ねていた。辛いなら家のことも考えず、聖女も辞めて逃げ出せばいいのに、2人が力を貸すと言っても首を頑として振らなかった。
ある時は瘴気に怯える人々がいるから、ある時は病人がいるから、またある時は王命の婚約だから勝手にいなくなると家が大変だからと。あんな家族でも可哀想だからと……
シャーロットはちょっと変わっているが、とても優しい、頑張り屋さんだ。
シマ社長とモモ先生はシャーロットがいつかあの国を捨てても罪悪感を持たぬよう、心を砕いてきた。
だから、悪い奴等の悪事はまるっと全てシャーロットにチクったよ。一片も罪悪感持ってもらいたくないからね。
フリーデルを脱出したのは王命?が出るまでかかったけど、今シャーロットが笑えているから良しとする。
自分が保てなくなるほど頑張らなくていいのだ。そうなる前に共に逃げ出せたことは良かった。これから先も、シャーロットがこの世を去る日が来るまでずっと一緒だ。




