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6−9. 先代夫人の帰還 (3)

 ダイアナ・クラレンスが話を引き継いだ。

「そういう訳で、昨日中にメイドのジルと護衛のキースは解雇したわ。以後の情報漏れは減ると思います」

他の目、耳が入り込んでいる可能性はある。それでも明確にブリジット・ゴードンの蜘蛛の糸の一片である者は追放した。


「さて、もう一方、クラレンス家の問題も説明する必用があるわね。そもそも、一人目の被害者が出た段階でノーマンを厳しく叱責しておけばこんな事にはならなかった…と言い切れない程、ノーマンは無責任で身勝手に育ちましたが。それでも『次は勘当する』、そう一言言えば話は変わったでしょう」

(そりゃそうだ。あそこまで増長しない為の教育は必用だった)

屑が正真正銘の屑である事を直に見せられたマリエルとしては、クラレンス家の教育を疑うしかない。


「これは当家の子供が二人しかいない事にも関係するの。私の夫のハーマンは、私のお腹にマーティンがいる間に、未亡人と浮気をしたのね。お互い楽しく過ごしたらしいのだけど、マーティンの出産直後に相手の妊娠が発覚して、慰謝料と養育費を請求されたの。それはまだ当主を継いでいなかったハーマンのポケットマネーで出せる額ではなかったから、両親に申し出て処理して貰うしかなかった」


「義母は床に臥せる様になり、そのまま亡くなったわ。それで義父も執事のエドガーをハーマンに付けて引退した。出産直後だった事もあり、私も我慢出来なくてね、『もうあなたの子供は生まない』と宣言したわ」

さすがにダイアナを直視出来ず、マリエルは視線を落とした。横を見るとマーティンも初めて聞くらしく、俯いていた。


「そう言う訳で、私達は当主役と女主人役を演じる男女になったの。もちろん、ハーマンはまだ男として現役でしょうから、外で女を調達するしかなかった。娼館にでも行けば良いのに、懲りずに未亡人に声をかけられてつきあったの。それで、また相手の妊娠後に慰謝料と養育費を請求された」


「今、マーティンが経費以外の出費を行う場合はエドガーの確認が必要な様に、ハーマンもエドガーの確認が無いと余計な出費は出来なかったから、これも発覚したのね」

(下半身親子…)

マリエルは淑女にあるまじき呼称を脳内で発した。


「まあ、一応これでハーマンも懲りたらしく、その後にそう言う話は無かったのね。そういう訳で、ノーマンが学院で同級生を妊娠させた時、ハーマンは息子に厳しく言えなかった。そしてハーマンにとっては『結婚もせずに身体を許す女は金目当て』、と言う価値観が固定されたのね。だから慰謝料と養育費だけ与えて王都を去る様に指示した」


「毎回それで済ましたのだけれど、さすがのハーマンも四件目にはノーマンに激怒してね。ノーマンは外国まで逃げ出した。一方、ノーマンを怒るべきで被害女性は救うべきなのに、頭に血が上ったハーマンは全部投げ捨てて引退したの」

(いや、怒りのあまりマーティンを暗殺しようとした私が言えた義理では無いが、いくら何でも無責任じゃないか)

背景はともかく、侯爵閣下のする事では無い。


 俯いた私を横から見て、マーティンが堪らず話し出した。

「あの、メアリ、僕はそんな事はしないからね!生涯、君一人を妻として愛する事を誓うから!」

顔を上げたマリエルは思わず口を開いた。

「旦那様、この問題は愛情の問題ではないでしょう。肉欲が男を走らせる、そう言う事だと思いますけど」

「いや、多分大丈夫…」

ダイアナも口を開いた。

「こう言っては何だけれど、余程の覚悟が無いと、言い寄って来る未亡人に落とされてしまうわよ?そういう女はもうそれで金を稼いでいるのだから、あらゆる手練手管を使ってくるからね」


 しかし、マリエルとしてはまだ心配があった。マーティンの事では無く。

「その、お母様。領地を離れて大丈夫なのでしょうか?」

「ええ、それは処理をして来ました。今の領地の代官はハーマンの弟なのだけれど、次の代官は今の代官の子供で決まりと誓約書を作りました。同時に、当主のマーティンの跡継ぎは第一にマーティンの子供、第二に代官の子供の一人と誓約書も作りました。だから、あなた達に子供が出来れば、もうハーマンがどこかから口を出す事は出来ません」

(いや、まだ婚約も調っていないのにもう子供の話?)

マリエルとしてはこちらの結婚が確定なのはプレッシャーだった。そして、気になる事はそれだけじゃない。


「その、先代様についてはその他の事も心配なのではないでしょうか」

「ええ、未婚の女性にこういう話をしたくないのだけれど…私の実家絡みで年下の未亡人がいるので、その人をハーマンの妾としてあてがいました。妊娠した際のお手当も決めてあります」

そうも明確に決めてあると、さすがにマーティンもマリエルも聞いていて恥ずかしくなった。


「分かりました。後はN・Bに今後どう対処するかですが?」

「ニナはもうブリジットと連携する事はないでしょう。今回、あっさり領地に引き籠ってしまったでしょう?これは自分の姪まで命懸けで踊らせようとしたブリジットに怒っているのよ。ブリジットについては、本日別件で王宮を訪れているゴードン夫妻と国王夫妻が個人的に会っているわ。あまり社交界を騒がせない様にと釘を刺すらしいわ」

(魔法学院在学中から、陰の活動で社会を自分の思う様に振り回してきた女が、そう簡単に引っ込むだろうか)

マリエルには、増長した中年女がそう簡単に反省などしないだろうと思えた。人は二十代を過ぎるともう性根を入れ替える事など出来ないとよく言われる。中年にもなれば猶更だ。むしろ自分の価値観と合わない者や、自分の価値観を否定する者を悪者とみなすのではないか。

 という話の続きが次回になります。後、本作と一部掠る内容の短編を投稿しました。お暇な時にお読みいただければ、本作の理解の助けとなるかも。全然別の話ですがシチュエーションが一部掠ってます。

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