6−6. 親子の対話
マリエルはクラレンス家の応接室で両親と会った。
オスカー・リズリー子爵、つまりマリエルの父がまず説明をした。
「ハミルトン公爵家でお前が話した事を聞いた。我々はソフィアを責めた事はないし、領地で子供を産む様に指示したし、子供も面倒を見ると伝えていた。なのにソフィアは身を投げた。我々としては出来る事はしたし、その事でお前が母さんを責めるとしたらお門違いだ」
マリエルとしては頷くしかなかった。姉は一方的な被害者では無かった。子供を作って男に責任を取らせ、侯爵夫人の座を掴もうとした女だった。屑の言葉を鵜呑みには出来ないが、途中では肉欲に溺れた可能性まである。最後は兄の言う通り、『その責任の取り方すら無責任』な責任の取り方であった。マリエルがフォーブス家を責めた言葉が、そのままリズリー家の人間に向けられる事すらあるのだから。自分はものを知らない子供だった…それに気付いて、マリエルの頬に涙が流れた。
スーザン・リズリー子爵夫人、つまりマリエルの母がマリエルに近づき抱きしめた。
「もう外で泣いては駄目よ。私達は家族を自殺させた人間なの。何か出来る事があったのではないかと自責の念に囚われながら生きていくしかないの。そして思っている事を口にする事は出来ないの。『家族を死に追いやっておいて、何を被害者ぶっている』そう言われるだけだから。自殺した人が勝手にした事だとしても、家族はそうして責任を取るしかないの」
母は姉の事を言っている様で、マリエルの事を言っている様でもあった。マリエルも家族への迷惑など考えもせずに復讐をしようとした。未遂だとは言え、身元を偽って貴族家に潜入するだけでも悪意と取られる。その責任を家族に取らせたくなければ、自分で責任を取るしかなかった。
オスカーがクラレンス家との合意内容を話した。
「本件でクラレンス家はリズリー家に何らかを要求する事は無いとの事だ。実際には何も起きていないのだから。あくまでその事とは独立した事として、クラレンス家としてはマリエルに婚約を申し入れるとの事だ。せめて何らかの教育を受けて、その結果を見てから決めて欲しい、とは要求した。だから、お前は今日からクラレンス家に入り、婚約者教育が間もなく始まるとの事だ。魔法学院にはこの家から通う様にと言われている。馬車はクラレンス家で出すと言ってくれている」
「つまり、当面は婚約者扱いでなく、婚約者候補として教育を受ける立場だと言う事?」
「そう言う事だ。お前がどうしても嫌なら教育の途中で断っても良いとの事だ」
マリエルとしては首を振るしか無かった。
だからスーザンも口を開いた。
「教育内容を見てあなたから断っても良いとの話だから、無理だと思ったら家に帰って来て頂戴。いつでも温かく迎えてあげるからね?」
マリエルとしては首を振るしか無かった。家族の事など考えずに復讐をしようとした。その段階で自分は家族との関係を切っているんだ。自己都合で元に戻そうとするのは身勝手だった。
両親が帰った後、マリエルは応接室に連れて行かれた。記憶ではマーティンと同年代の侍女が今後を説明してくれた。
「明朝までは応接室でお過ごしください。明日には先代の奥様が戻られます。そうしたら奥様の隣の部屋がマリエル様のお部屋になります。ですから結婚前の何らかのトラブルは防げる筈です」
つまりマーティンが夜に忍び込んで来ても、騒げば助けが来ると言う事である。
「奥様がお戻り次第、状況説明をしていただけます。疑問がありましたらその席でお願いします。また本日の夕食及び明日の朝食はこちらにお持ちします。その他、必用な事がありましたらベルでお呼びください」
先程まではメイドであった自分を、今は貴族扱いで対応する侍女にマリエルは気が引けた。だから貴族としては言うべきではない言葉を発してしまった。
「あの、貧乏くじを引かせてしまってごめんなさい」
侍女はにっこり笑った。それは愛想笑いではなく、温もりが籠っていた。
「貧乏くじなど、とんでもありません。家中一同、当主様がお兄様の様にならない様、お二人の仲が上手く行く事を心から願っております。ですからお嬢様のお手伝いを出来る事を、心から喜んでおります」
…侍女は圧力をかけて来た。それも仲間意識があればこそ、とは言えた。だからマリエルはこれからは、しっかり貴族と使用人の区別はつけよう、そう思った。つまり、これは仲間同士の役割分担の問題だから。マリエルにはマーティンを直接補佐する事が求められているんだ。
ね。




