6−3. 男の言い分 (2)
ノーマンは被害者家族に屑らしい応答をした。
フォーブス子爵夫妻は顔を青くしながらノーマンの前に歩いて行った。夫人はハンカチを握りしめて顎の近くに持って行きながら、口を開いた。
「ベティ・フォーブスの親です。娘との事は、あなたから声をかけたの?それとも娘から?」
「知らねぇな、そんな名前」
ノーマンは相変わらず責任逃れの為、知らぬ存ぜぬを繰り返すつもりの様だった。
「私達もちゃんと調べたのよ?あなたとベティが密会用の部屋に向かうところを見た人がいるの」
「他人の空似じゃね?ベティとやらはそういう場所によく足を運ぶ売女だってのは分かったが、俺みたいな上位貴族に濡れ衣を着せるなよ」
夫人は悔しさのあまり、瞼に涙を浮かべ、手に持ったハンカチで押さえた。
ここでフォーブス子爵が口を開いた。
「その時は上位貴族だったのだから、それらしく責任を取るつもりは無いのか?」
「お前も貴族なんだから、証拠も無しに貴族に責任を問うのは止めてもらおうか。貴族議会の小法廷で敗訴したんだろ?つまり証拠が無いって事だろうが」
「証言ならあった。ただ、先代クラレンス侯爵が引退宣言をした為に、家同士の訴訟としては退けられただけだ。その証拠に事実認定の効力が無いと決まった訳ではない」
「それでも俺・本人が認めない以上、事実とは言い切れないだろ?だったら娘・本人を出してくれ。本人がこの場でそう言うなら、それなりに真面目に答えてやるよ」
「死人に口なしとでも言いたいのか?娘は生前、お前に弄ばれ、捨てられたと言っているんだ。その証言に真面目に答える気は無いのか?」
「本人が俺の顔を見て、俺の目を見て俺を責めるってんなら少しは真面目に否定してやったさ。だが、本人がいないところで下位貴族如きが上位貴族を誹謗中傷してるんだ、何で一々真面目に答える必要があるんだよ?」
上位貴族の傲慢を押し付けられて、子爵も口を結んだ。貴族議会小法廷でも先代クラレンス侯爵に同じ事を言われたのを思い出したんだ。
それでも、夫人は問い質さずにはいられなかった。
「女性を妊娠させた挙句に捨てて、悲嘆の余りの自殺に追い込んだのよ!何か言う事は無いの!?」
「ご愁傷様。としか言い様が無いな。俺が孕ませたって証拠が無いんだから、俺に罪を問うのは間違ってるだろ?違うか?」
全く罪の意識の無い男の言葉に、夫人は顔を両手で覆って泣き出した。
子爵が再度口を開いた。
「在学中の3人については子供の父である事を認めたのに、卒業後の被害者の事は認めないのは何故なんだ?」
「親父が決めたから認めただけさ。俺はそいつらとそういう仲になった事はあったが、腹の中身の父親かどうかは未だに疑ってる。簡単に男に身体を許す様な股の緩い女が、一番醜聞を嫌がりそうな上位貴族に責任を押し付けに来たんじゃねぇか、ってな。お前等の娘もそういう売女にしか見えねぇよ」
死者に罪を押し付けて惚け続けるこの無責任男の言い草に、子爵も一旦黙ってしまった。
そこまで言われては夫人も言い返さざるを得なかった。
「自分と相手がそういう仲になった事は確かなのでしょ!?どうして自分だけ被害者みたいな言い方が出来るのよ!?無責任じゃない!」
「だぁ~って、俺が孕ました証拠がないだろ?それで俺が加害者と断定した上で、自分達が被害者なんて言い張る連中に一々付き合ってられるかよ。世の中、他人を騙そうとする奴で溢れているんだぜ?お前等みたいな連中がここにも合計6組いるんだからな」
泣き崩れてしまった夫人と、怒りのあまり震えて立っている子爵に、クラレンス家の侍女と侍従が歩み寄って声をかけた。
「このまま続けても貴家が傷付けられるだけだと思います。最後の質問となさるのが良いのでは?」
夫人はそう簡単には立ち直れない状態だったが、子爵はノーマンに向かって言った。
「屑が!」
それに対してノーマンも答えた。
「クラレンス家を騙そうとしたお前達も、お前の娘も屑だろうが」
この男は最後までベティ・フォーブスを傷付けた事を認めようとしなかった。
泣きながら席に戻るフォーブス子爵夫妻を横目に見ながら、マーティンはマリエルに話しかけた。
「君が傷付くだけだと思うけど…ノーマンと話をするかい?」
(身元を偽って近づいた暗殺者に、そんなに気を使ってたら身が持たないでしょうに…)
「ありがとうございます。仰る通り、彼と話す事が私の望みに他なりません」
マーティンが腕を緩めたから、マリエルは腕を抜いてノーマンに近づいて行った。
(要するにこの男は責任を認める気が無い。確証が無い以上、惚け続ければ責任を回避出来ると思っているし、現実とはそういうものだ。ただし、この男の特異点は、責任追及に対して相手を貶し嘲るという屑な特性を持っている事だ。そうする事で相手に有利に立てる、そう思っているから誹謗中傷を続けるんだ。なら、そういう屑な価値観が相手の弱点でもある)
マリエルとしては、ただ泣いて帰る気は無かった。
明日もこれ。ざまぁものに慣れてない人には辛いかも。慣れてる人にはぬるま湯かもしれませんが。




