6−2. 男の言い分 (1)
護衛二人に両腕を掴まれ、腰に回した紐を後ろから付いて来る護衛に握られた状態で、平民の服を着た細面の男が連れて来られた。客達の前で護衛達は男を跪かせた。その顔はマーティン・クラレンスに似ていたが、性格の悪さが顔に出ていた。ある意味、危険な雰囲気が漂っているとは言えた。
「ボイル子爵、申し訳ありませんが、前にお出でいただけませんか」
執事の言葉に、若い男が立ち上がった。
(ボイル子爵は引退すると言っていた…すると、この男が新しいボイル子爵)
マリエルの目には、自分の兄アイザックやマーティンより年上に見えた。すると、暗殺者として現れたドーラの兄と言う事になる。
執事は告げた。
「ご覧になって分かる様に、ノーマンは既にクラレンス家から籍を抜いており、平民です。何らお気遣いなく詰問してください」
新ボイル子爵の質疑が始まった。
「私はお前が弄んだステファニー・ボイルの兄、ライナスだ。ステファニーの事は覚えているか?」
元クラレンス家の男、ノーマンは斜め横を向いたまま、擦れた口をきいた。
「知らねぇな、そんな名前。クラレンス家を騙そうとした悪い女だ、当然嘘を言ったんだろうよ」
ライナス・ボイルは厳しい顔をしたが、ふと思い付いた事があった。
「お前は外国に行っていたんじゃないのか?何で事の顛末を知っている?」
「こうして俺が引っ立てられて来たんだ、そんな話だと分かるだろうよ、誰だって」
責任を逃れようとする者は、知らぬ存ぜぬを貫くものである。だからボイル家、スタッドレ―家そしてリズリー家も、貴族議会に訴える前に調べている。ノーマンが各家の令嬢と何度も会っていたのは分かっているんだ。
「目撃証言は集めてある。惚けても無駄だ」
「じゃあ、記憶にねぇな、そんな女。男を騙し、侯爵家を騙す様な女だ。詐欺に遭う前に逃げようと思ってたのかもしれねぇな」
ライナスは厳しい顔をした。
「証言は拒否すると言うのか」
「覚えてねぇ事は喋れねえよ。俺がお前の妹を抱いた証拠でもあるのかよ?あるんなら見せてみろよ?」
ライナスは青筋を立てたが、辛うじて踏み止まった。
「貴族議会での訴訟に備えて妹の行動は洗ったんだ。お前以外と複数回、長い時間に会っていた事は無かった。貴族の密会用の部屋に二人で向かったと言う証言もある。そんな相手が亡くなった事について、言う事は無いのか」
「記憶に無いんだから言い様が無いだろう?いくら追求されたって、こちらはそんな女の記憶が無いんだから、知らないか覚えてないかしか答え様が無いね」
「女を弄ぶのも4人目になれば、罪の意識も無ければ情も残らないと言う訳か?」
「最初から遊びと割り切って付き合うなら、別れた後に情なんて残る訳ないだろ?俺の評判なんて同年代の女なら分かり切ってる筈だぜ?そんな男と付き合う女がまともな訳ないんだから、罪やら情やらは最初から感じないだろ?お互いに」
「責任逃れの為に、無実の妹を悪者にするのか?」
「無実じゃないだろ?遊び人と遊んで身体を許す遊び人だぜ?俺が悪いんじゃなくて相手をする女が悪いのさ」
ライナスは厳しい顔をした。ノーマンを睨みながら、両拳を握りしめた。それを見た護衛が横から割り込んで言った。
「閣下、お気分を害する様でしたら、最小限必要なご質問で済ませる事をお勧めします」
「ありがとう、言わねばならぬ言葉で終わらせよう」
そしてライナスはノーマンに向き合って言った。
「4人目の女を弄んで、自分の名も家の名も最低に落として、どうするつもりだったんだ?」
「どうもしねぇよ。なる様になると思ってたさ。俺が跡を継ぐなら俺の好きにさせてもらうだけだからな」
「なら、ステファニーがクラレンス家に訴えた時に何故逃げたんだ?」
「だから、家を騙しに来た奴がいたから、面倒くさくなって逃げたんだよ。ヤッたヤラねぇで押し問答になるのが流石に恥ずかしかったのさ。俺は常識人だから、そんな恥ずかしい事で言い争うのは嫌だったんだよ。お前の妹みたいに詐欺師で品のねぇ人間じゃねぇからよ」
ライナスは拳を握って震えていたが、最後の質問をした。
「…お前は妹、ステファニー・ボイルが自殺した事について、何も言う事が無いという訳だな?」
「あばずれが勝手に死んだ事について、上位貴族が一々何か言わなきゃいけないのか?口を慎めよ下郎」
ライナスは黙ったままマーティンの方を向いて一礼した後、席に戻った。
その時、マリエルは気付いた。空いていた席にリズリー子爵夫妻、つまり自分の両親が座っている事に。そして気付いた。クラレンス家がここでメアリがマリエル・リズリーである事を明らかにしたのは、マリエルがノーマン元クラレンス家子息と話をする為に必要な事だったのだ。
メイドのメアリはあくまで平民で、ノーマンの被害者であるソフィア・リズリーの妹としてノーマンに対峙する事は出来ないから。猿芝居の上、婚約者等と言う戯言がおまけに付いていたが、クラレンス家からは好意的な扱いをされているのだった。
(暗殺者に何を情けをかけているんだよ)
無責任に生きてきた人は、責任転嫁と相手を貶す事だけ上手ですね…困ると黙るタイプの自分には上手く書けてない気がしております。
ちょっとだけあらすじを追加。




