熊本-前乗り-
熊本は、さすがに日帰りは無理である。土曜日に前乗りし、日曜日の昼から演奏会を始め、夕方終了後そのまま帰京するパターンが一般的だ。今回、咲奈恵達も一泊することになっていた。
「先生と木之内さん、同じ部屋で宿泊するのかな……」
スーツケースに荷物を詰めながら、咲奈恵は呟いていた。もしそうなら、スタイリストさんと同じ部屋かもしれないと考え、あれこれ荷物を選別する。
「あんまり、お邪魔しないようにしないと」
ただでさえ新幹線も隣だし、先生は私の楽屋に入り浸ってるし、何となく木之内さんに後ろめたい気になる。いやいや、何も悪いことはしてないんだから、そう思う事こそが、逆に後ろめたい……。いやいや、そう思うのは自分が勝手に意識しているからで、やっぱり後ろめたくなるのは変で……。でも、逆の立場だったら……。いやいや、そもそも……。
エンドレスである……。
「先生がいけないのよね。きっと私を1人にさせないように、気を使ってくれてるんだと思うけど、子供扱いして、頭ポンポンするし、たこ焼き食べさせるし……」
へへっ……。咲奈恵は1人で赤くなる。独り言は、止まらない。
「守もいけないのよね。変なこと言うから、ちょっと意識しちゃったじゃない」
名古屋駅で東京の皆さんを見送ってから、守は実家まで車で送ってくれた。
「咲奈恵、神崎さんと付き合ってるの?」
「はぁ〜、何言っちゃってるの! そんなわけないじゃん。先生と木之内さんは、恋人同士なんだよ」
「そうなんだ。てっきりそうかと思った。あの曲聞いたら、そう思うぞ」
「むっ、どの曲?」
「モルゲン。発音、合ってる?」
「合ってる。……まぁ、あれは、愛の歌曲だからね。音楽表現です」
「咲奈恵がドイツ歌曲とは、驚いた。俺の時には、全然歌ったことなかっただろ」
「守に、繊細な歌曲は無理!」
「ひでぇな。まぁ、当たってるけど」
「それにね、神崎先生だからね……。一度伴奏をしてもらったら、自分が上手くなったような錯覚に陥る。あぁ、恐ろしい〜」
「よしよし、そこが分かってればよろしい。木之内祥子とデュエットなんて、この先2度とないと思え」
「分かってるわよ。もう、宝くじ買わないもん」
「宝くじ?」
「そうよ。私の運は、もう今回のツアーで、ぜ〜んぶ使い果たしましたー」
「おぅ! 確かにな。一生分だ」
「でもお陰で、お父さんもお母さんも喜んでくれたし。あぁ、おばあちゃん達、駅まで運んでくれて、ありがとね」
咲奈恵の祖父母は、咲奈恵の実家とは別の街で暮らしている。咲奈恵は外孫なのだが、小さい時からとても可愛がってもらった。
「うん。おじいちゃんもおばあちゃんも、喜んでたぞ。あんな大きな会場で、お客さんも一杯だったって。そりゃ、俺達の時みたいに、必死でお客さん集めて100人とは訳が違う」
「懐かしいねぇ、アネックス。楽しかったぁ」
メニコンANNEXホールでのコンサートだ。守の名古屋での就職が決まり、咲奈恵がソロ活動を終えることを決めた区切りに、最後に守と名古屋で開いたコンサートである。高校の時の同級生が、観客の多くを占めた。
「ほとんど、クラス会に近かったもんな」
「そうそう。皆んな、元気かな〜」
「そう言えばこの間、営業で行ったところで石井に会った。ビックリした」
「石井君? クラの?」
クラリネットを吹いていた音大付属高校の同級生だ。そのままストレートに、名古屋の音大に進んだはずだ。
「そう。あいつ髪ヤバい。今度会ったら、誰だか分かんなくなってるかも」
「ひゃー、そうなんだ。今、何の仕事? まだクラ吹いてるの?」
「地元の素人オケで吹いてるって。あいつコーヒー豆の卸の会社に入ってさ、コーヒーの勉強してるって。将来、喫茶店開きたいって言ってた。そこで、小さなコンサートもできるような」
「へぇ、夢あるねぇ。じゃ、守もそこで弾けるかもね」
「お前も一緒に歌うか?」
「いいねぇ。おばあちゃん魔女の声でも、いいかねぇ」
咲奈恵は、喉が潰れた様な声を出す。
「ヘングレか。いいんじゃね。あれなら、繊細じゃない俺でも弾けるぞ」
オペラ「ヘンゼルとグレーテル」の魔女役である。メゾの代表的な役所である。
「叶えて欲しいなー」
家に着くまで、話は尽きなかった。皆それぞれ頑張ってる。私も後悔のない様に、頑張ろうとエネルギーを貰った。
羽田空港に集合した皆が、チェックインをする。そこで何やら今川と神崎が揉めていた。
「いいんですか、神崎さん」
「ええ、変更して下さい」
「あんまり、無理しない方が……」
「大丈夫です」
咲奈恵は何だろうと思いながらも、荷物を預けることに忙しい。ドレスが2着、木之内に至っては4着もあるので、それだけでも大変だ。帰りは宅配で送ってしまったりするのだが、さすがに届かない等の輸送リスクを考えると、行きを宅配にする勇気はない。国内といえども、現地でドレスがすぐ手配できるとは限らない。普段着で舞台に出る訳にはいかないのだ。
事務所のスタッフも、木之内のCDなどの荷物を預け、手荷物検査も終え、無事搭乗口に移動した。
「咲奈ちゃん、熊本初めてなんだって?」
「はい! 九州が初めてです」
「そう。じゃ、今日少し観光しようか」
「えっ! ゲネとかはしないんですか?」
「会場、明日しか借りてないからね。今日は、向こうに到着することが目的」
「へぇ、そういうもんなんですね」
「今日の夜は、もつ鍋だけど大丈夫? あっ、もちろん馬刺しもあるよ。いつも皆んなで行く店なんだけど」
「大丈夫です。大好きです。ラッキーです!」
神崎と咲奈恵の会話に、神崎の隣に座っていた木之内が加わった。
「ふふん。咲奈ちゃん、明日はお肌つるつるよ〜。今夜はパック要らず〜」
「そうなんですねぇ。やっぱり、ラッキーです!」
「ははっ」
じきに搭乗案内のアナウンスが入り、飛行機に乗り込んだ。
「先生、私、窓側でした。変わりましょうか?」
「いや、僕はこっちで大丈夫。咲奈ちゃん初めてなんだから、熊本までの景色、楽しんで」
咲奈恵は、飛行機は普通席しか乗ったことがなかったが、今日は1クラス上の「クラスJ」という席で、もうそれだけでワクワクする。座席も広く、窓側には座席が2列しかない。いつもの様に、木之内とヘアメイクさんが前に乗り、その後ろに咲奈恵と神崎が座った。事務所の皆さんは普通席とのことで、咲奈恵は特別扱いに恐縮しきりである。
「私も今川さん達と一緒でよかったのに……」
「咲奈ちゃんだって大事な歌い手なんだから、当たり前。代わりはいないんだから。祥子はファーストにしろってうるさいんだけど、この便には無いんだ」
「……そうなんだ。何だか、すみません」
乗ってしまえば、熊本までは1時間40分。あっという間である。その時間を惜しむように、咲奈恵は機内のあれこれを楽しみ、機窓も楽しんでいて、神崎の様子がおかしいことに気が付かなかった。
「神崎さん、大丈夫でしょうか? 直接声を掛けずに、様子を見て頂けますか?」
出発して30分程経った頃、そんなLINEが今川から咲奈恵に届いた。大丈夫って、何……? 訳は分からなかったが、取り敢えず神崎の様子をそっと確認する。
すると、確かにいつもと少し様子が違った。眉間にしわを寄せ、目を閉じている。寝ているわけではないらしく、その証拠に手を拳に握っていて、力が入っているように見える。
「なんだか、苦しそうなお顔をしてらっしゃいますが……」
「やっぱり……。実は神崎さん、飛行機苦手なんです」
「苦手?」
「『のだめ』知りません?」
「千秋先輩ですか?」
「そうです。あれ程酷くはないんですが、ダメらしいです」
「ぎゃぼ……ですね」
今川によれば、いつもは通路に挟まれた、中央の席を取るのだが、今日は咲奈恵の横でいいと言われ、急遽変えたらしい。そう言えばチェックインの時、何やら揉めてたなと思い出す。
「どうしたらいいですか?」
「さっきお渡ししたマスク。アロマが沁み込ませてあるので、嗅ぐと楽になるみたいです」
そういえば、搭乗直前に今川から渡されたものがあった。小さいジップロックに、マスクが入れてある。「ちょっと、降りるまで持ってて下さい」と言われ渡されたのだが、何だろうと思っていた。封を開けてそっと嗅げば、ミントと花の様な香りがしている。
「先生……」
そっと、呼びかける。1回では反応してくれない。もう1度呼び掛けた。
「先生」
やっと目を開いて、咲奈恵の方を見た。やはり、緊張した面持ちで、薄っすらと額に汗も滲んでいる。
「これ使ってください」
咲奈恵がマスクを渡すと、神崎は驚いたように手に取った。
「……これ、どうしたの?」
「説明は後です。さっ、早く」
言われた通りにマスクを着ければ、すぐさま息を深く吸っている。何度かそれを繰り返し、幾分顔の緊張が和らいだ様に見えた。咲奈恵は、次に今川に教えてもらった方法を試してみる。
「先生、失礼します」
おもむろに神崎の左手を手に取った。指先が随分冷たい。真冬でもあるまいに……と、咲奈恵は神崎に愛おしさを感じてしまう。木之内にもし咎められたら、言い訳のできない感情だ。でも……、ほんの少しの間だけ……。ごめんなさい。と、前席で熟睡している木之内に、心の中でそっと詫びた。
咲奈恵はゆっくりと、神崎の手をマッサージし始めた。
「咲奈ちゃん……」
神崎は思わず声を出した。何、どうした……!? さっきまでの、恐怖を抑え込むことに必死になっていた緊張から、一瞬にして別の緊張に変わる。
「先生、飛行機苦手だって。……今川さんが」
「……うん」
「無理せずに、真ん中の席にされればよかったのに……」
「どこに座っても、あんまり変わらない。それよりどうせなら、咲奈ちゃんの横の方がいいかなって思って」
「……」
咲奈恵は、返答に困った。それは、私の隣がいいのか、それとも単に、知り合いが隣にいると、楽ということなのか……。
「こうすると、リラックスできるって。……今川さんが」
「……うん」
そっと、ゆっくりと、マッサージされて、緊張がほぐれていく。
「手に集中して下さいね。他の事、考えないでください」
「……うん」
飛行機恐怖症は、つまるところ「逃げられない恐怖」が全ての元凶らしい。それはもう、どうすることもできないのだから、対処療法としては、「気を紛らす」他ないのだ。「のだめ」のように、咲奈恵は催眠術は掛けられない。
まるで歌うように、そのマッサージは緩急が付いている。手の平から始め、指も1本ずつ丁寧にほぐしていく。少しずつ指先も温かくなってきた。
「そっちの手も、下さい」
と言われ、神崎は右手も出した。……気持ちがいい。……咲奈ちゃん。
咲奈恵は下を向いて丁寧にマッサージをしているから、神崎は視線を少し移動するだけで咲奈恵の横顔を見つめることができた。神崎は空いた左手を伸ばし、そっと咲奈恵の髪に触れた。ほんの少し、咲奈恵が身構えたのが分かった。でも、神崎はその手を外そうとはしない。
「こうしてると、落ち着く。いい?」
「……はい」
その承諾を期に、神崎は咲奈恵の頭を何度も撫でた。髪を梳く様に指を絡ませ、ゆっくりと動かす。その度に、咲奈恵の鼓動は高まる。先生……。触れられている感覚に身を委ねそうになるのを、必死に我慢しながら、マッサージを続けた。
しばらくすると、神崎の手が止まった。少し躊躇している気配が、指先から伝わってくる……と思っていたら、その指が髪から頬を伝い、そのまま……、咲奈恵の唇にそっと触れた。
咲奈恵はマッサージしていた手が、止まってしまった。それでもかまわず、神崎の指は唇に触れ続ける。咲奈ちゃん、嫌なら……止めて。
人差し指で、中指で、順に触れ続ける。その指先で、背で、唇の柔らかさを確認する様に、そっと触れ続ける。
あぁ……、先生。これ以上はダメ……。咲奈恵は思わず声を出さずにはいられなかった。
「先……生……」
それまで顔を見られなかった咲奈恵は、思い切って神崎の顔を見上げた。神崎はまっすぐ咲奈恵を見つめていた。
咲奈ちゃん、僕は君と彼の間に入り込むことができるのか……。少し上気した咲奈恵の頬に掌を当てれば、咲奈恵が困った様な顔をした。
「先生、窓、閉めますね」
外の景色が見えなくなるようにしてくれる咲奈恵に、神崎は改めて腹を据える。どうしても君を、諦めることは無理そうだ……。マスクの下で笑顔が溢れたかと思うと、一旦離れた咲奈恵の右手を、神崎はもう一度手に取った。
「ありがとう、咲奈ちゃん。随分よくなった。マッサージはもういいから、その代わりに、降りるまでこうしててくれる?」
「先生……」
咲奈恵は顔が赤くなるのが自分でも分かり、思わず俯いてしまう。それでも1つ小さく頷けば、もう一度、神崎は握っている手に力を込めた。
それからは咲奈恵も、機窓どころではなくなった。ただ握られているだけかと思っていたら、神崎はその手を弄ぶ。
指の1本1本をゆっくりと確認し、そのまま手の平にもそっと触れ、離れるかと思うとまた戻ってくる。手の甲を鍵盤代わりにトントンとしたり、時には恋人つなぎの様にギュッと握られたりする。咲奈恵にとっては、拷問に等しかった。こんな風にされて、気持ちなんてコントロールできるわけがない。
木之内がすぐ前にいるのだから、声を出すことも憚られて、でもやっぱりやめてもらおうと神崎の顔を確認すれば、……こちらを見ているわけではなかった。目を閉じて真っ直ぐ前方を向いている。特段、手に意識が集中しているようには見えない。本当に、手慰みのおもちゃの様に、咲奈恵の手に触れているだけのように見えた。
しばらくすると、神崎の動きが止まった。少しホッとして、こっそり顔を覗くと、どうやら眠ってしまったらしい。小さく安堵の溜息を洩らし、咲奈恵はここぞとばかりに、手をそっと引っ込めようと動かした。するとピクリと神崎の体が反応して、無意識の様に、もう一度咲奈恵の手を探り当てる。
せっかく眠っていたのに起こしてしまったのかと心配したが、規則正しい呼吸に変わりはなく、それ以上手も動くことはなかった。咲奈恵は、眠れるならその方がきっと楽なはずだから、木之内が目覚めるまでこのままでいようと、今度こそ動くことを諦めた。
結局、熊本空港への着陸準備のアナウンスが入るまで、神崎は起きなかった。目覚めた時、「ありがとう。国内線で寝たのなんて、初めてだよ」と言いながら、やっとその手を解放してくれた。前の席で木之内も目を覚まし、ふぁ〜と小さくあくびをしている。咲奈恵は木之内に気付かれなかったことに、心底ホッとした。
「やっばり、飛行機だとあっという間ねぇ。さぁ、熊本でも皆さんに楽しんでもらおう!」
と意気込む木下を、恨めしい気持ちで眺めながら、咲奈恵も着陸準備に取り掛かる。この1時間で、演奏会以上の緊張と疲れを体験した咲奈恵は、すぐにでもホテルのベッドで横になりたい気分だった。
「次、スイーツ、行くぞー!」
事務所の若手スタッフが声を上げる。「おー!」と、咲奈恵も皆と一緒に拳を上げた。
予想通り「もつ鍋」は大変美味しく、到着してから少し熊本の街を観光した咲奈恵の空きっ腹には、大満足の夕食になった。けれど実は最初から、熊本の有名なスイーツ店に行くことを視野に入れ、少なめに注文していて、「お腹一杯になっちゃ、ダメですよー」と、終始スタッフに号令を掛けられていたので、咲奈恵もまだお腹には余裕があった。
そんな皆を尻目に、木之内が今川に指令を出す。
「私達はもう帰るから、タクシー呼んでくれる?」
「はい、分かりました」
げっ、そうなの! 咲奈恵は内心の驚きを顔に出さないように、神崎はどうするのかと様子を見る。すると、特にその意見に違和感を感じているわけではないらしく、帰る準備をし始めた。どうやら、アーティストはここで帰らなければならないらしい。マジか……。
「あの……、私も帰った方がいいですか?」
恐る恐る神崎に聞いてみた。そう言われて、神崎は気が付いたように辺りを見渡した。
「あぁ、スイーツ、咲奈ちゃんも行きたい?」
「はい。……できれば」
「じゃ、付き合おうか」
やった! と心の中でガッツポーズを取った途端、隣から木之内が割り込んできた。
「貴雄も飛行機で疲れたでしょ。もう、帰った方がいいよ」
あっ、そうだった。先生、きっとすごく疲れてる。昼の熊本城観光にも付き合ってくれたし、気が付かなかった。ダメだなぁ、私……。さすがだな、木之内さん。
「そうですよね。私も、皆さんと一緒に少しだけ食べたら、早めに帰りますので、先生はどうぞ先に戻ってください」
「……一緒に、行くよ」
何言ってる。事務所の若手スタッフ2人も、もちろん今川も、皆独身なんだ。特に今川は押しも強くて気が回るから、女性にモテる。そんな奴らに囲まれてるのを、黙って見てはいられない。こっちは、気が気じゃないんだ。一緒に、行く!
「神崎さん、大丈夫です。我々は商品には手を付けませんよ」
小さく耳打ちされ、神崎は身支度していた手を止めた。そのまま今川を見れば、訳知り顔で神崎の顔を眺めている。
「安心して休んでください。ちゃんと、彼女は早めに連れて帰りますから」
「今川さん……」
さすがにそこまで言われれば、咲奈恵のことを言っているのだと認めざるを得ない。僕は、そんなに分かりやすいのか……。自嘲気味に笑いが漏れてしまい、素直にその言葉に従うことにした。
「頼みます……」
「はい」
「たまにはお二人で、水入らずでゆっくりしてください」
タクシーに押し込まれながら、咲奈恵がそんなことを言った。誰と誰が水入らずなのか……、神崎は的外れな言葉を聞き流しながら、タクシーの座席に体を沈めた。やはり、祥子の言う通り、さすがに疲れている。
「若い子達は、元気ね〜」
そういう祥子も、神崎と同じ年齢であることを、自覚しているらしい。
「全くだな」
「そういえば明日、彼が来るから、私達こっちに泊まってくから」
「分かった。あんまり、ステージ張り切るなよ」
「あら、恋する乙女に歯止めは掛けられないわよー」
「誰が、乙女なんだか……」
「彼が『かわいい、かわいい』って言うんだから、れっきとした乙女よ。いいわよ、貴雄は独り寝で、寂しく朝を迎えなさい」
本当にな……。いつになったら、咲奈恵を腕の中に抱けるのだろうか……。神崎は大きく1つ息を吐いた。




