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078 ロンメル君の潜入

 どこだろうここ……。

 野営地って感じだけど、すごい人の数だ……。

 魔術師に魔装兵。それに冒険者っぽい人まで沢山いる。

 武器類も綺麗に整理されているせいで物凄い数が用意されてるのが分かる。

 うわ、奥の方にはあのゴーレムが……ビッシリと……。


 あれ?

 ここって重要な拠点か何かじゃないの?


 こんなの見ちゃったらタダで返しては貰えないよね!?

 やっぱり殺されちゃうんじゃ!?


「おー、起きたか坊主。気分はどうだ?」


「あ、はい。だ、大丈夫です……」


 だ、誰だろこの人……。

 ローブを着こんでるけど、ガタイの良さがハッキリ分かる。

 ついでに見事なハゲ。


「いやぁオーサスの奴は加減を知らなくてなぁ。坊主が気絶しても気づかないで締め上げてやがったから、もう少し気づくのが遅かったら死んでたかもしれねぇな。ハハハハ!」


 笑い事ではないです。

 おじさんの大胸筋と二の腕で圧死とか、嫌すぎるんですけど。


「おお、起きたのか少年! 無事でなによりだ!」


「ヒィッ!」


 これまたムキムキな魔術師が天幕の中に入って来る。

 うん、この人だ。

 本能が警戒しろって言ってる。

 あの大胸筋は危険だって言ってる。


「俺はダッチってんだ。こっちはさっき言ったオーサス。坊主はなんてぇんだ?」


「あ、僕はロンメルと言います。た、助けてくださってありがとうございました」


 一応は怪しまれないようにお礼を言っておこう。

 そ、そうさ。バレなきゃ大丈夫。きっと大丈夫。


「そうか、ロンメルよろしくな。だけどすまねぇ、坊主の連れの兄ちゃんは助けてやれなかった……許してくれ……」


 それってライアスさんの事!?

 という事は代わりに僕が潜入する形に……!

 荷が重い!


 なんて考えてる場合じゃなかった。


「い、いえ。こうして助かっただけでも……」


「そんでよ、目覚めてすぐで悪いんだがウチの大将が坊主を呼んでるんだ。何があったのか詳しく聞きたいってんでな。協力してくれるか?」


「は、はい……」


 ピャー……。

 尋問かなぁ。やっぱ尋問だよねぇ。

 この人たちの感じから疑われてる様子はほとんどないけど、ボロ出したら即首が飛びそうだなぁ。

 ハハ……。





 ◆





「小汚いところですまない。適当に掛けてくれるか」


 少し離れた位置にあった色違いの天幕の中、僕は促されるままに椅子に座った。


「私はヴォルドール第3師団団長のラピド・フォールデンだ。ロンメル君、でよかったかな?」


「は、はい……」


 丁寧な自己紹介をしてくれたラピドさんの風貌は、魔装兵というよりは魔術剣士と言った感じだ。

 束ねた赤い髪と灼眼の瞳が暗がりの天幕の中、僅かな光源で燃えるように揺らめいている。

 ついでに顔も美形で、なんとも絵になる人だ。 


「ではロンメル君。さっそくだが君が引き連れて来たという黒寂について聞きたい。そうなった経緯を教えてくれないか?」


 一介の冒険者に過ぎない僕に、ここまで丁寧に対応してくれるなんて……。

 その口調には嫌味ったらしさはなく、誠実な印象を受ける。 

 おかげで落ち着いて話せたと思う。




「えーと……つまり、だ……。簡単に言えば、少し前の大きな戦闘を目撃して、介入してきた奴をそのまま尾行していたら見つかったと。そういう事でいいかな?」


「はい……。すみません……」


 フ……。

 落ち着いて話せる事と説明が上手いかは別の問題だよ……。

 虚実を混ぜて話すとか難しすぎるよ。


 とりあえず、僕のクッタクタな説明を要約してもらった事で、なんとか上手く話がまとまった。


「しかし、なんでそんな危ない事をしたんだい?」


「そ、それは……情報がお金になると思いまして……」


「金か……」


 途端にラピドさんの表情は険しくなる。


「君たち冒険者はいつもそれだな。何かにつけて金、金、金。もっと誉れ高い志を持つべきではないか……?」


 急にそんな事を僕に言われても……。


「あ、いやすまない。我が軍にも冒険者はいてね、彼らに対する不満がつい口に出てしまった。君はお連れの冒険者と共に、我が軍に危機を知らせに来てくれたと聞いている。おかげで死者はひとりも出なかった。ゴーレムは失ったがね。先ほど金になると言っていたが、それも冒険者らしく振舞うための嘘なのだろう? 大丈夫だ。オーサスやダッチの奴らも言っていたよ。君たちは正義感から黒寂という脅威を見張ってくれていたのだと。そしてひとりは我らを庇って犠牲に……! 本当になんと感謝を述べたらいいか……!」


 な、なんという好意的解釈。

 なんでそうなったの……?

 助けを求めてる演技だったはずだけど……。


 涙を浮かべながら僕の手を取ってくるラピドさんの顔は真剣だった。

 これ、僕も泣いた方がいいんだろうか。

 いや泣けないけども。


「今は国からの指示待ちだ。仮にもし本当に黒寂なら、勝手に手を出すわけにもいかない。聞く限りの戦闘力から黒寂の一員と見て間違いないとは思うが、別人の可能性もある故、調査が必要だろう。なので参考人として君にはここにしばらくいて欲しい。待遇に関しても考慮するから、頼まれてくれないか?」


「わ、分かりました……!」


 この状況で断れるはずもなく、潜入任務の事を考えれば願ったり叶ったりな事もあり僕は了承した。

 僕の役目じゃないかもしれないけど、ここでなら潜入任務が出来そうな気がしてくる。

 だって皆基本優しいから!


「ああ、良かった。実は既に君の世話は外の彼らに頼んでいてね。ここでの事は彼らに聞くといい。何かあればこちらから出向くから、普通に生活していて大丈夫だよ」


「い、色々とありがとうございます!」


 深々とお辞儀をして、僕は天幕を出た。

 外に出てすぐ、危険な大胸筋が待ち構えている。

 

 そんな気はしたけど、やっぱりこの人たちか。

 

「おう! 大丈夫だったか少年! ケツ触られたりしてないか!」


「ラピド様がそんな事するかよ」


「いいや! この間俺はケツを叩かれたぞ! 魔術師なのに鍛え過ぎたぞオジサンって言われたぞ!」


 濃い。

 もうなんか絵面が濃くてしんどい。

 服の上からでも胸筋がピクついているのが見える。

 なんだあれ怖い。


 ちょっとやる気だったのにもう帰りたくなってきた。

 ライアスさんとローズさんって、ふたりとも見た目がいいからなぁ……。

 この落差はしんどいなぁ……。


 そんな贅沢な悩みを零しながら、僕はライアスさんに変わって情報を集める事にした。

 

 

 ◆

 


 2日ほど経過して、僕は集めた情報を頭の中で整理していた。

 兵の数は魔術師が大体5000、魔装兵が2万ないくらい。

 そこに、3メートル級ゴーレムが約400、5メートル級ゴーレムが約100。

 他にちょっと特殊なゴーレムが10ほどあるらしいけど、これは誰も見た事が無いという話だった。


 数だけで言えばローズさんから聞いたディオールの5万の方が多いけど、魔術師とゴーレムが脅威過ぎる。

 約500体のゴーレムを一斉に進軍させたら、抵抗できる国なんてあるんだろうか。


 うん、あるのか。

 無いならとっくに大陸はヴォルドールのものになってそうだしね。

 ゴーレム1体1体の詳しい性能も分からないし、数だけ揃えた急ごしらえならそれほど脅威じゃないのかも?

 そこらへんはまた別途調べよう。

 

 なんでこんな軍事機密っぽい情報が得られたかと言うと、それは兵の気質のせいだ。


 聞けば、魔術師も魔装兵もそのほとんどが農民出身らしい。

 この国では魔術の才があれば身分に関係なく優遇されるし、魔装兵に志願すれば孤児だって上等な訓練を受けられるんだという。

 で、農民出身なおかげでやたらフレンドリーだ。


 ご飯食べてると、あれも食えこれも食えってすんごいうるさい。

 田舎に帰った時の寄合みたい。


 でも基本的に良い人たちだ。

 なんでそんな良い人たちが戦争をしているのか、戦争に協力しているのか。

 気になって聞いてみた。


 するとそれは、ディオールが食料を求めて略奪しに来るから。という僕の認識とは全く異なるものだった。


 ローズさんの話だと、戦争の発端は採掘資源を強く求めたヴォルドール側にあるはず。

 どこかで話がすり替わったのか、長い年月でねじ曲がったのか……。

 まぁあくまでも兵たちが戦う理由だから、実際に戦争行為を継続させているそれこそトップに聞いてみないとダメだ。

 

 もしも兵たちと同じように勘違いしているのなら、簡単に戦争をやめさせられるかもしれない。


 ん?

 あ、あれちょっと待て。

 それって何百年も前の発端だよね。

 じゃあ2年前に戦争を開始した理由はなんなんだ……?

 端に周りが戦争を始めたからブームに乗ってみたとか? 

 そんな馬鹿な。

 そんなくだらない理由で国力を消耗する戦争行為なんかするはずがない。


 なんか、大事な事を見落としている気がしてきたぞ……。


「ああ、ロンメル君。こんなところにいたのかい。すまないがちょっと来てくれないかな。議会が君の話を聞きたいと言っていてね」


 ラピドさんだ。

 わざわざ自ら僕を探しに来たのか。

 というか議会って何?

 

「あ、はい……またラピドさんの天幕まで行けば宜しいですかね?」


「いや、今回はヴォルドールまで私と一緒だ。議会の方々は皆老人でね。ここまでは来れないんだよ」


 何故か、ラピドさんの笑顔からは薄ら寒いものを感じる。

 気のせいだと思いたいけど、笑顔から全く表情が変わらない。

 嫌な予感が胸の中を渦巻いていく。


「と、遠出するのでしたら、支度をしたいのですが……」


「大丈夫、君の荷物は後で部下に運ばせよう。それに、用が済めばすぐに戻って来られるから安心してくれ」


「そういう事でしたら……」


 有無を言わせないこの感じ。

 絶対何かやばい。

 でも断れない、逆らえない……。


 だって既に超怖い。


 




 ◆






「ライアスさん、これ味がしません」


「文句があるなら食うんじゃねぇ」


「……うう、ロンメル君……」


「あいつなら大丈夫だ。こういう場合もあるかもしれないとは言ってある。あいつはあいつで今情報を搔き集めてくれてるさ。やる時はやる奴だ、俺らはここであいつの帰りを待ってりゃいい」


「そうじゃない! そこは心配してない! 私は! 私のご飯の心配をしています! こんな味じゃ全然食べれないじゃん!」


「うるせぇ! 俺だってロンメルの飯がいいわ! というか食ってるだろうが! むしろ食いすぎなんだよお前は! もう4匹目だぞそのウサギ!」


「美味しく食べたいんですが!?」


「じゃあお前が作れや!」


「それはヤダ!」


 残されたふたりは、その日その日の食事の良し悪しで揉めていた。

 冒険者ロンメルの料理を食べられない事に不満と不安は感じていたが、彼の身を案じる様子はない。


 唯一ロンメルの安否を気にしていたのは、味のやり取りに辟易して飛び出したクラウンだけだった。

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■ 本小説の世界の中で、別の時代の冒険を短編小説にしました。
最果ての辺獄

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