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079 議会最高顧問

 揺れる馬車の中から見える外の景色は、ヴォルドールへ近づくにつれて緑がなくなっていく。

 自然の木々の代わりに目に映ってくるのは、人工的に手を加えられたと思われる石造りの家屋や柵。

 恐らくはゴーレムを作り出す魔術を、建築に応用しているのだろう。

 石造りの家々が多くなってきたけど、どれもヒビが入っていて隙間風の被害が大きそうだ。

 中には倒壊しているものもある。

 

 3年くらい前に大きな地震があったけど、その影響だろうか。

 なんにせよ、木造の建築物しか見た事のない僕には新鮮だった。

 勿論、神殿とかそういうのは別。

 全部石で出来た民家なんて、今まで見た事がない。


「そういえばロンメル君は、女神の揺り籠出身でしたか」


「はい、そうです」


 僕の生まれ故郷であるクレイドルは、女神の揺り籠と呼ばれる大国だ。

 英雄が基本的に滞在しているので、女神様の恩寵を最も授かっている国としてそう呼ばれている。

 当然のように魔物の被害なんかはすぐ英雄様がなんとかしてくれるし、他国から攻められる事もまずない。

 じゃあ平和かと言われれば、竜が常に襲撃してくるから平和とは言いずらい。

 大群が来ると英雄様でも対処し切れなくて街に被害が出るからね。

 

「なに!? じゃあ少年! あの英雄は見た事あるのか! アイギス・クロドビクを!」


「ち、小さい頃にですけど、何回かは……」


 馬車の中には僕の世話役だったオーサスさんも一緒に乗っている。

 おかげで緊張も怖さも少し緩和されていた。

 

 最初こそ嫌な予感がしてたけど、考え過ぎだったのかもしれない。

 悪い雰囲気は感じない。


「いいなぁ……。物凄い美人なんだってな……。おじさんはお近づきになりたい……。出来れば結婚したい……」


「はは、ははは……」


 こえぇえ!

 ムキマッチョのおじさんがションボリしながら恋慕を口にするとこんなに怖いのか!

 というかやっぱりこの人独身なんだね。

 基本良い人で変な人だからなぁ……。


「それは無理ですよオーサス。英雄は女神に愛され、女神を愛さなければならない存在ですから。彼女の生涯の伴侶は女神ロデュオンという事になっています。慰みものとしてなら、近づけるかもしれませんけどね」


「それは嫌ですラピド様。おじさんは心から愛しあう仲を所望しています」


「純真ですね相変わらず……」


 すごいピュア。

 というかオーサスさんは何で目上の人と話す時に一人称が「おじさん」になるんだ。

 気持ち悪いんだけど。


「ラピド様……。そろそろ」


「ああ、そうだね」


 もうひとり、ラピドさんの横に座っていた近衛の兵が耳打ちをした。

 外の景色もだいぶ様変わりして石だらけだ。

 いつのまにか城門を抜けていたみたい。


 そのまま数十分馬車に揺られ、勾配のある斜面を進んでいるようだった。

 そして着いた先はお城の真ん前。

 

「さぁ着いたよ。降りたら城に入る前に城下を眺めてみるといい。私はここからの景色が好きでね」


「は、はぁ……」


 言われるまま降りてすぐ、城下を見下ろしてみた。

 お城の位置は城下町よりも高い位置にあり、ここからは街が一望できる。


 ちょっと感動するくらいにすごい景色だった。


 広そうだなとは思っていたけど、これほどとは。

 全てが石が出来た建築物だが、屋根などは赤くなっている。

 使っている石が違うとかかな。ともかくそれのおかげで綺麗な街並みがより映えて見える。

 右手奥には何か大きな施設があるし、左手奥には円形の闘技場のようなものまである。

 それらが景観のアクセントになっていて遊び心のある風景にも見える。

 街の中心では多くの人が行きかっていて賑やかな喧騒がここまで聞こえてきそうだ。


 とても戦争中の国とは思えない、平和な光景だった。


「綺麗だろう。こうして綺麗な街並みを保っていられるのも、民たちが笑って暮らせているのも、全ては陛下の裁量によるもの。我が国の王は本当に名君だよ、あれさえ無かったならだが……。謁見は叶わないだろうが、中に王の像が置かれている。後で是非見てみてくれ」


「は、はい……」


 城下の光景に対する余韻も無く、王様の話に切り替わった。

 名君かぁ。

 なんか含みのある事を言っていたけど、何かやらかしたんだろうか。


 だが下手な事は言わないようにしよう。

 ラピドさんは随分と尊敬、いや心酔してるようだし。


「では行こうか、議会の面々がお待ちだろう」


 僕はラピドさんの後を付いて行く。

 議会というのは、この国の意思決定を行う組織で王を頂点とした9人の賢者で構成されているらしい。

 賢者というのは、何かしら大きな功績を残した者に与えらる称号だそうで、そう呼ばれる人たちは皆、住居状況の大規模改革をした人とか魔術研究で新たな理論を打ち立てた人とか。

 とにかくすごいらしい。



 城の前までくると、中には入らず横道へと進んでいく。

 植物が丸く手入れされ、それが囲むようにして道が出来ている。

 細いが歩きやすい道だった。


 しばらく歩くと、お城とは別の建物の前まで到着した。

 礼拝堂って感じの大き目の建物だ。


 中は少し暗く、なんだか不気味な感じがする。

 入ってすぐもうひとつ扉があり、ここから先は僕とラピドさんだけで進むらしい。

 近衛の人とオーサスさんはここでお留守番。


 扉を開けると、無駄に縦に長い机のような台座が左右に4つずつ並んでいて、中央奥にもひとつある。

 既にそれぞれの位置に人がいて、皆豪華な身なりをしている。

 この人たちがこの国の賢者か。

 見上げる形になるけど、これ首痛めないかな……。


「第3師団団長、ラピド・フォールデン。命に従い、件の少年を連れて参りました」


 ラピドさんが跪いて頭を垂れたので、慌てて僕も同じように跪いた。

 

「ご苦労、楽にしてよい。少年もそう畏まらんでよいぞ。ロンメルと言うたか。我らの紹介は省かせてもらうが、中央のこのお方だけは紹介させてもらおう。勘違いされても困るからのう」


 白いフードを被ったしわくちゃのお爺さんは、そう言いながら中央に向かって手の伸ばしている。

 中央奥の台座に座っているのは、屋内だと言うのに傘をさしている女性だった。

 非常に派手な黒い傘で、黄色いガラの主張がうるさいくらいだ。

 髪は真っ黒でストレートロングの前髪パッツン。

 控え目に言っても可愛い。


「この方が、現在病に伏せっている王に代わり我らをまとめ上げている議会最高顧問のオルタナ・ルビィアイズ様じゃ。ご尊顔の拝謁を賜れる事、光栄に思うがよい」


 台座から脚をプラプラさせている女性は、首を傾げながら


「よろしくね……?」


 と、ひと言だけ呟く。

 真ん中にいるから王様かと思った。

 勘違いされても困るっていうのは、王様と間違うなって事だろう。

 ラピドさんが言ってた謁見が叶わないというのも、理由が分かった。


「光栄至極に存じます」


 ラピドさんが再度頭を下げてそう言うので、僕も真似をしてまた頭を下げる。

 喋ると失礼がありそうなので喋る許可が出るまでは口を開かない。

 下手に喋って首が飛んではシャレにならない。 


「して、黒寂出現についてじゃが、既に受けている報告の確認とより詳細を聞きたい。ラピド、最初から全て述べあげよ」


「はい……」


 淡々と遭遇した時の状況と、遭遇した相手の容姿について話していくラピドさん。

 僕が話した内容はそのままだったけど、僕が話していない内容が出てきた。


「ダンダルシアの冒険者プレートを付けていたと……? ロンメルよ、それは本当か? 発言を許可する」


 逃げる際に兵が青く光るプレートを見たという情報。

 僕が伝えていない情報だ。

 齟齬がある時点でまずいが、珍しくフル回転させた僕の頭脳がこの時ばかりは輝いた。


「はい、それが冒険者プレートかは分かりませんが、確かに青い装飾品を胸に付けていたと思います」


「ふむ、お主はクレイドルの出身であったか。ならば知らぬのも無理はないか」


 ふふ、どうだ。見事な回答。

 ラピドさんからの不信を買う事もなく、じっくり見ていたのに報告しなかった理由も完璧なこの内容。

 ふふふ。


 あ、あぶなあああああ!

 これ、一歩間違えれば首が飛びかねないと思うよ!

 ラピドさんと議会の両面から疑われてるんじゃないのこれ!?


「ねぇ……。ダンダルシアって……なに?」


「これはこれはオルタナ様。ダンダルシアとは、南西に位置する国でございます。現在結界を張って引き籠っておる国ですな」


「ああ、あそこ……ね……」


 最高顧問が、ダンダルシアと聞いてすぐに出てこない?

 知識面ですごいわけではないのかな……。


「ねぇ……。君……。その女は……仮面を……していたの……?」


 こ、これ僕に言ってるんだよね?

 答えていいのかな……。


「発言してもよいぞ」


 キョロキョロと見回していたらあのお爺さんが発言許可をくれた。


「は、はい。していました」


「どんな……仮面……?」


「え、えと……顔全体が隠れる大きさの真っ黒い仮面でした……」


「ふーん……ミ……かな……?」


 ミ? なんだ? ちゃんと聞き取れなかった。人の名前か?


「大体……分かった。確かめるまで……その子は、地下牢」


 え?


「聞こえたじゃろう。ラピド、証言に不審な点は見られなかったが、真偽は確定していない。オルタナ様の命に従いその少年を拘束して下がりなさい」

 

「はッ……!」


 ええ!?

 なんでなんでなんで!?


「すまないねロンメル君。疑いが晴れればすぐに解放されるから今は大人しくしてほしい」


 いやいやいやいや!

 いやー!


 気づけば僕は小汚い牢の中。

 ああ、嫌な予感はしてたけど、まさかこうなるとは……。


 冤罪容疑は黒寂の名を騙った襲撃の可能性と、悪戯だった場合の行軍妨害の罪。

 ライアスさんが犠牲になったって話になってるんじゃなかったの?

 仲間が死んでるのに悪戯な訳ないじゃないか!

 実際は黒寂じゃないから死んでないだろうけども!

 ただ黒寂だー! って叫んで助けを求めただけで! 攻撃したのはローズさんだし!


 ん?

 あ、ああ!

 か、騙っている! 紛れもなく黒寂だと! そして襲撃している!


 冤罪じゃなかった!

 しかも僕密偵じゃん!

 罪が増えたじゃないか!


 ふふ、この国の議会とやらはどうやらとても優秀らしい。

 いや、優秀じゃなくてもこの結果には普通に考えたら行きつくのか。

 

 というかどうしよう。

 調査の末、黒寂が出てこなければ僕はその罪を問われてそのまま……。


 どうなるの!?

 死刑!? やっぱり死刑!?

 ああああああああ!

 どうしようどうしよう!

 

 荷物も取り上げられてしまったし、せっかく集めた情報も渡してない。

 これじゃ結局何の役にも立ってないじゃないか……。


 このまま、ただのお荷物として一生を終えるのかも……。


 うう、ごめんなさいライアスさん……。

 ごめんなさいローズさん……。


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■ 本小説の世界の中で、別の時代の冒険を短編小説にしました。
最果ての辺獄

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