16 予想外の繋がり
フロアから扉一つ隔てたバックヤードは外の光輝や喧騒が嘘みたいに暗闇に包まれていた。
天井に等間隔に並んでいる蛍光灯と合わさって、洞窟にいるような気分だ。
小綺麗な、崩壊しない洞窟。
人の気配を辿り、一つのドアの前に立つ。複数人は居そうな気配だ。
耳を当て、中の様子を伺ってからドアノブに手を掛ける。
鍵がかかっていた。
「……開けて欲しいって解釈かな」
まあ施錠なんて、深矢にとってみれば扉を差し出しているようなものだ。当たり前のように懐からピッキングセットを取り出し、慣れた手つきで鍵穴をいじること三秒。
解錠の音と共に、中の気配が引き締まった。
向こう側の警戒などものともせずに、堂々と扉を開け放つ。
倉庫のような部屋だ。一面に並ぶ段ボールの積まれた棚と、パソコンが二台。少し埃臭い。
そして寿命間近の蛍光灯の下、六人の男がこちらを睨んでいた。どの男も幅が深矢の二倍はありそうな躯体だ。
深矢は普通の来客のように微笑む。
「設楽店長はいますか……って、ここには居ないみたいですね」
「見ねぇ顔だな。要件はなんだ?」
巨体がズンと進み寄り、深矢の前方を囲んだ。それから凄みを効かせて見下ろしてくる。傷だらけの顔からして、相当な場数を踏んだ奴らなのだろう。そんな顔で睨まれたら普通なら縮み上がって逃げ出すに違いない。
「御宅の店長を探しているんだ」
動じることなく、深矢は次の一手を考える。
設楽はまだそう遠くへは行っていないはず。むしろこの建物の中だろう。今すぐ引き返すでもいいが、こいつらを振り払わないわけには設楽の元へは行けないだろう。
さて、どうしたものか。
「最近、妙に設楽サンの事を嗅ぎまわってる連中がいるって聞いてなァ、一体何のつもりで…………あ?」
殴り掛かりにきた男が一瞬、深矢の後ろを見て怪訝な顔ををした。同時に右肩が重くなる。
「踏ん張れ!」
その声と同時に、視界の右側を黒い影が横切る。次の瞬間には、目の前にいた男が後方にすっ飛んでいた。そのままの勢いで段ボールの棚に突っ込み、喧しい音を立てて棚がドミノ倒しになる。
「んだテメェ……ッ」
代わりに男のいた所にヒラリと着地した茜に、周りの男がいきり立つ。しかし襲撃者が女と認識して怯んでいるようだった。
「行きな。ここは私が相手してやる」
そんな奴らを相手にして、茜は嬉々とした様子で左掌に拳を打ちつける。ナイスフォローだ――茜にそのつもりはなさそうだが。
「ちょうどいい。高校生相手じゃ潰し甲斐がなかったんだ……付き合ってくれるね?」
茜の凶暴さを知らない巨体共は、余裕そうにヘラヘラ笑っている。
「お嬢ちゃん?盛り上がってるところ悪いけど、お嬢ちゃんみたいな華奢な子が、俺ら全員倒そうだなんて……」
茜が片眉を吊り上げ、瞳をギラリと煌めかす。
あぁ、馬鹿だコイツら。
深矢は思わず嘆いた。それは禁句だ。
「……女だからってナメてる奴は死にやがれ」
堪忍袋の尾がブチ切れると共に、茜が巨体の群れに飛び込み乱闘が始まる――いや、茜の一人劇と言った方が正しかった。
茜の三倍くらいはありそうな体重の奴らを、次々に投げ飛ばし、殴り、蹴り倒す茜。
「揃いも揃ってウドの大木か?その図体はタダのデブか!」
狭い檻に押し込められた猛獣が放たれたように。
暴れ馬と化した茜は、並大抵の男じゃ敵わないのだ。
「死人が出なきゃいいけど」
その騒ぎに蓋をするよう、深矢は静かにその部屋の扉を閉じた。




