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スナイプ・ハント  作者: 柚希 ハル
決別編
43/74

43 惜しい夜Ⅳ

 

 ――翌日――


 深矢のアパート前に停めた車の中に、ゴツンと痛そうな音が響いた。

 頭をドアにぶつけた監察官はその拍子に目を覚ました。

 うたた寝をしてしまったらしい。その音でもう一人の監察官もハッと目を覚ます。

 二人は目を合わせ――弾かれたように、同時に時間を確認した。


 23:01:14。


 ホッと、胸をなで下ろす。

 意識を失ったのは、どうやらほんの数分のようだ。

 秋本深矢の自宅を監視するカメラの映像を見ても、何も変わった様子はない。

 異常はない。

 SIGへの反逆の疑いをかけられ、謹慎を命ぜられた男がこのタイミングで脱走などしたら、それは反逆を認めることとなる。

 さすがに今脱走する馬鹿ではないだろう。


 二人はそのまま監視を続けた。

 そして一時間ほど経った頃――

 静かだった住宅街に、ブロロロ……とバイクの音が鳴り響いた。


 嫌な予感がした。


 窓を覆うカーテンを開けると、ちょうどバイクが通り過ぎるところだった。

 白いヘルメットを被り、後ろには紙束を積んでいる。

 ――新聞配達だ。

 もう一度時間を確認する。0:14:38。


 おかしい。まだ夜中だというのに……


「注意深く監視しなさい。秋本深矢は脱走の名人らしいですから」

 監察課の上司に渋い顔でそう忠告されたのを思い出した。


 まさか……寝ている数分の間に何かあったのか?

 だがカメラの様子は確認した。寝ていた数分間、動きは見られなかった。


 いや、そもそも寝ていたのは本当に数分だけだったのか?

 それに監視の任務を与えられた人間が、二人揃って同時に寝ることなど……睡眠薬でも嗅がされていたのではないか?


「……見てきます」

 もう一人の監察官に告げ、秋本深矢の自宅へと急いだ。


 ドンドン、と力強くドアを叩く。

 返答はない。


「……おい、おい!」

 焦りが募り、ドアノブをガチャガチャと回す。鍵がかかっていて、開けることはできない。


 ――まさか。


 ポケットから預かった合鍵を取り出し、鍵穴に差し込む。

 そして勢いよく扉を引き開ける――


 その前に、中から押し開かれた。

 反動で数歩、よろめく。


「……安眠妨害、嫌がらせですか?」

 不機嫌そうに、秋本深矢が睨んでいる。


「……いや」

 面食らったように、監察官は首を振る。逃げてはいなかった。

「異常がないかの確認だ」

 そう言って戻ろうとした監察官は、はたと振り向いた。

「ところで今は何時だ?」


 秋本深矢はさも不思議そうに――ともすれば芝居がかったように――首を傾げて答えた。


「……もうすぐ三時半、ですね」



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