43 惜しい夜Ⅳ
――翌日――
深矢のアパート前に停めた車の中に、ゴツンと痛そうな音が響いた。
頭をドアにぶつけた監察官はその拍子に目を覚ました。
うたた寝をしてしまったらしい。その音でもう一人の監察官もハッと目を覚ます。
二人は目を合わせ――弾かれたように、同時に時間を確認した。
23:01:14。
ホッと、胸をなで下ろす。
意識を失ったのは、どうやらほんの数分のようだ。
秋本深矢の自宅を監視するカメラの映像を見ても、何も変わった様子はない。
異常はない。
SIGへの反逆の疑いをかけられ、謹慎を命ぜられた男がこのタイミングで脱走などしたら、それは反逆を認めることとなる。
さすがに今脱走する馬鹿ではないだろう。
二人はそのまま監視を続けた。
そして一時間ほど経った頃――
静かだった住宅街に、ブロロロ……とバイクの音が鳴り響いた。
嫌な予感がした。
窓を覆うカーテンを開けると、ちょうどバイクが通り過ぎるところだった。
白いヘルメットを被り、後ろには紙束を積んでいる。
――新聞配達だ。
もう一度時間を確認する。0:14:38。
おかしい。まだ夜中だというのに……
「注意深く監視しなさい。秋本深矢は脱走の名人らしいですから」
監察課の上司に渋い顔でそう忠告されたのを思い出した。
まさか……寝ている数分の間に何かあったのか?
だがカメラの様子は確認した。寝ていた数分間、動きは見られなかった。
いや、そもそも寝ていたのは本当に数分だけだったのか?
それに監視の任務を与えられた人間が、二人揃って同時に寝ることなど……睡眠薬でも嗅がされていたのではないか?
「……見てきます」
もう一人の監察官に告げ、秋本深矢の自宅へと急いだ。
ドンドン、と力強くドアを叩く。
返答はない。
「……おい、おい!」
焦りが募り、ドアノブをガチャガチャと回す。鍵がかかっていて、開けることはできない。
――まさか。
ポケットから預かった合鍵を取り出し、鍵穴に差し込む。
そして勢いよく扉を引き開ける――
その前に、中から押し開かれた。
反動で数歩、よろめく。
「……安眠妨害、嫌がらせですか?」
不機嫌そうに、秋本深矢が睨んでいる。
「……いや」
面食らったように、監察官は首を振る。逃げてはいなかった。
「異常がないかの確認だ」
そう言って戻ろうとした監察官は、はたと振り向いた。
「ところで今は何時だ?」
秋本深矢はさも不思議そうに――ともすれば芝居がかったように――首を傾げて答えた。
「……もうすぐ三時半、ですね」




