44 胸を張って言えること
「ふむ……二人で、それも一晩でここまでやってのけるとはな」
大学長が感心したように呟いた。
その視線の先には、その日発売の週刊誌のとある一ページ。大きく見出しに『大麻に違法ソープ経営に武器取引……大手貿易会社の若手社員に一体何が』と打たれている。
武器取引は会社ぐるみの裏事業だったはずだが、問題のあった若手社員にしわ寄せがいったのだろう。
そう考える監察官の隣で、団長がニッコリと笑顔を浮かべた。
「お褒め頂き光栄です」
「あぁ、厳しい状況だったろうに素晴らしい。まるで分身でもいるかのような働きだ」
「本人達にも伝えておきましょう」
本当にこれを全て、新人二人でやってのけたというのか――そう疑問に思うのは監察官だけではなかったらしい。
しかし団長の笑顔が崩れることはない。
「もう一人の方も問題は無かったようだな」
諦めたように、大学長が監察官を見上げる。監察官はえぇ、と頷いた。団長は相変わらず人形のように笑顔を浮かべている。
大学長の片手には報告書が握られている。秋本深矢の謹慎処分中に監視をさせた者の報告書だ。
報告書には、特に目立った異常はなかったと書かれている。
「……文面上は、とでも付け加えておくとしよう」
大学長が試すような視線を団長に向ける。
監察官はまさか、と嘲笑した。
「秋本深矢も自分の置かれた立場は理解しているでしょう。今ここで何かするとは……」
監察官も大学長と同じように団長に視線を向け――その口を噤んだ。
「……お前、何か知っているのか?」
「はて、何も存じ上げませんよ?ただ……」
団長は芝居がかった動きで顎に手をやった。
「彼は探求者ですからねぇ……気になることがあれば追いかける。まるで獲物をめがけて走る犬の様に」
その含み笑いは何を意図するのか。
団長の表情の裏を見抜ける者はいない。
「その犬を、君には飼い慣らしてもらわないと困るのだが」
「どうでしょう。野良犬にリードは付けることはできません」
そう言って団長は笑う。
泣き顔のような目元に、口元だけは異様につり上がっている。
――気味が悪い。
「では君に、保健所の職員の役目を与えよう」
「……御意に。いざとなれば殺処分も厭わない心意気で、勤めさせていただきましょう……」
監察官はその笑顔を横目に、なぜか背筋に悪寒が走るのを感じた。




