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スナイプ・ハント  作者: 柚希 ハル
決別編
42/74

42 惜しい夜Ⅲ

 


 ――時刻、23:42:21――


「なぁ海斗」

 任務完了の連絡を入れた時、深矢がその続きを言うと海斗は渋った。

 海斗のその反応は当然のものだ。しかし――


「否定しないってことは、いける可能性はあるってことだろ?」

 無理ならそう言うのが海斗だ。

 それを指摘すると、電話の向こうで海斗は諦めたようにため息を吐いた。


『そう言い出すとは思ってたんだ……ただし、絶対に時間内に戻れよ』

「もちろん」

『あと、私情に飲み込まれるなよ。絶対だぞ』

 痛い所を突くなぁ、と深矢は苦笑した。

「……気をつけるよ」



  ***


 松永の事務所に忍び込むことなど造作もないことだ。

 監視カメラも赤外線センサーも、警報装置もない。

 泥棒と仕事をしているのだから、奴も施錠が無駄なことくらいは承知しているのだろう。

 奴の事務所で一番警備の厳しい所は、盗んだ金や金目のものを隠してある金庫。そこだけは忍び込むのに下準備が必要となる。

 次に厳しいのが松永の部屋。しかし厳しいといっても二重施錠となっているだけで大した問題はない。

 深矢は慣れた手つきで、その鍵に取り掛かっていた。


 松永に、圭が味わったような理不尽な苦痛を味わせてやるための下準備だ。

 そしてもう一つの目的は、沙保の痕跡を消し去ること。

 この部屋には、どこかに沙保の写真が数枚あるはずだった。それを持ち去るのだ。

 今後、松永が沙保を利用できないように。

 なんとしても沙保を巻き込ませてはならない。

 沙保を守ることが、圭への唯一の償いだ。


 二つ目の鍵が開く。

 目当てのものがある場所も把握済みだ。

 深矢はゆっくりと扉を押し開ける――


 カチ、と嫌な音がした。


 咄嗟に扉から手を離したが遅い。

 甲高い警報音が事務所中に鳴り響く。


 こんなところに警報装置なんて、今までなかったはずだ。なぜ今さら?

 しかし考える暇など無い。こうなったら逃げるが勝ちだ。

 深矢が飛び退き、窓へ向かおうと踏み出した瞬間。

 警報音が止んだ。

 同時に背後に気配を感じる。

 振り向くとそこに立っていたのは、黒いスーツの男。何かのスイッチを持ち、部屋の暗さに紛れるように立っている。

 名前は確か――拝島。


 深矢は相手を認知したと同時に飛びかかった。外部に連絡されては困るからだ。

 しかし拝島は深矢の動きを見切ったかのようにかわした。

 鮮やかな動きだ。

 まるで訓練されたかのような。


 拝島は表情一つ変えることなく口を開いた。

「君が来るんじゃないかと思って装置を付けたのは正解だったな」

「……嫌味か?けど俺を捕まえて言うこと聞かせようったって……」


「早くここから出るんだな」


 思わず、拝島の言葉に耳を疑った。

 動かない深矢に、拝島はもう一度ゆっくり繰り返す。

「早く、ここから、出るんだ」

 ……二度繰り返されても、その意味は飲み込めない。

「用があるのなら、さっさと済ませてここから出るんだ。一刻も早く」

 ますます意図が読めない。拝島は一体何を考えているんだ?


 深矢は攻撃するのをやめて、拝島の能面のような読めない表情を見据えた。


「俺をあんたのボスに差し出すんじゃないのか?」

「松永に?そんな下らないことなどするか。早くお家に帰れ。でないと……」

 そこで拝島は口を噤んだ。深矢を値踏みするように見つめる。


「……君の監視に連絡することになる」


「……お前」

 拝島の台詞。監視という言葉。『訓練されたような』鮮やかな動き――

 深矢が息を飲んだのを見て、拝島はやれやれと首を振った。


「冬眠スパイ。そう言えば分かるだろう?全く、任務中の工作員(スパイ)に正体を明かさせるなんて、独断専行もいいところだ」


 そして能面のような顔に投げやりな表情を浮かべ、松永の部屋を見やる。

「……君が復讐したい気は分かる。皮肉なことにSIGにとってもその方が好都合らしい。班長からの定期連絡が途絶えたことからするに、遅かれ早かれ松永組は消される予定だったんだ」

「……よく喋るんだな」


 嫌味っぽい拝島の台詞に皮肉を返しながら、深矢の頭にはいくつか疑問が浮かんでいた。


 拝島はいつから、何の為に潜っていた?松永組の情報集めか?本当にそれだけか?

 ふと、先日の査問中の会話を思い出した。

『松永組については只今調査中です。しかし反社会的組織であることは間違いないでしょう』

 あれは、拝島のことだったのだ。

 そしてお通夜の時の松永の言葉も蘇った。

『うちの拝島はこういったことに聡くてね』

 ――TCCと上海武器商人との取引を松永に漏らしたのは拝島だったのだ。つまり――


「おっと、俺が松永に例の取引の話を持ち出したのは一ヶ月以上も前のことだ。被せてきたのはそちらの団長だよ」


 一瞬で頭に血が上った深矢が手を出すより早く、拝島は悟ったらしい。


「さっきから言っているだろう。早くお家に帰るんだ」

「……俺の監視を知ってるってこた、お前は監察課の人間か?」

「そんなこと、謹慎処分中のポンコツエージェントに言うわけがないだろ……それより、こんな無駄話してる余裕はあるのか?」


 チラリと、深矢は室内の掛け時計に目をやった。

 0:12:58。日付を越えている。余裕はない。しかし――

 深矢は目の前の拝島を睨んだ。


 まだ聞きたいことがある。時間が足りない。

 敵意を向ける深矢に対し、拝島は見下すように嘲笑った。


「五分後にまた来る。その時点でまだ君がいたら監視に連絡を入れる。どう丸め込んだかは知らないが、電話が鳴れば飛び起きるだろうからな。良い子は早く帰って寝ることだ」



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