手乗りネコ耳少女観察日記8 2014年8月15日
七夕の夜に少女の涙を目にしてからおよそ一ヶ月。
その後は特に何もなく過ごすことができた。
さて、今日は8月15日。終戦の日であり、お盆であり、近所の花火大会であり、猛暑であった。
ネコは熱さは得意なはずだが、ネコ耳少女はどうもそうではないらしい。
朝から暑さにやられ、元気がない。
そこで今日は少女をプールに入れてみようと思う。
と、言っても人の集まる市民プールに連れていくわけにはいかないので、ベランダにビニールプールを出すことにした。
ちなみに、少女の水着は夏服とともに、例の通販で、本日中、恐らくもうすぐ届くはずだ。
ベランダのプールに浅く水を張った所で小包が届いた。
小包を受け取り、中を確認する。
中には注文した水色のワンピースと、セパレートタイプの水着一式。
早速少女に水着に着替てもらい、いざプールへ。
初めは恐る恐るといった様子だったが、足を滑らせたのをきっかけに水につかり始めた。
その間、自分は冷凍庫から氷を取り出した。
昨日、スーパーで手回し式のかき氷機を買っておいた。
が、ここでシロップを買うのを忘れていたことに気付いた。
少女はまだプールを楽しんでいるようなので、氷を戻してから近くのコンビニまで走ることにした。
数分後、とりあえずイチゴ味のシロップを買い、部屋のドアの前に着いた。
そこで、ドアの前に出るときには無かった小包が置いてあることに気付いた。
先程置き忘れられたものかと思い、とりあえず持って入った。
買ってきたものを置き、小包を調べる。
が、表面には何も書いていなかった。
いや、そもそも置き忘れなら出るときに気づかないはずが無い。
つまり家を出た後に置かれた、ということだろうか。
少し記憶に引っ掛かるものがあるような気もしたので、開ける事にする。
ここで完全に記憶がよみがえった。
中には、見覚えのある印籠箱。
およそ半年前の記憶ではこの中には大量の脱脂綿と、純白という言葉が良く似合う、決して言葉を発することのない手乗りサイズのネコ耳少女が入っていたはずだ。
すでに自分には開けないという選択肢は無かった。
箱の上下を気にしつつ、ゆっくりとふたをずらしていく。
まず目に入ったのは、大量に敷き詰められた脱脂綿。
半年前の記憶と寸分違う事の無い光景。
しかし、次に目に入ったのは、ツヤのある、漆黒の毛並みの少女の姿。
やはり人間の耳はなく、ネコ耳。
そこに、やわらかそうな純白の少女とは違い非常にツヤのあるスルリとのびたしっぽが続く。
純白の少女は手に包みたいようなイメージだったが、この漆黒の少女は撫でまわしたいようなイメージだ。
もちろんそんなことをしてはまた指を噛まれてしまうのだろうが……。
純白のネコ耳少女の時はすぐに起きたのだが、こちらの少女は起きる様子も無く、この猛暑に似合わないほど気持ちよさそうに眠っている。
…………どうしようか。
とりあえずそのまま机の上に置き、純白のネコ耳少女の反応を見てみようと思う。
とりあえず今の状況を説明しよう。
二人で黙々と氷を削っている。
何があったのかというと、漆黒のネコ耳少女を目にした純白のネコ耳少女は、見る見るうちに機嫌が悪くなった。
表情に出るのですぐに分かる。
まるで家の外で学校の先輩や会社の上司を見つけた時みたいだ。
そんな状況なったことないけど。
もしかしたらこの二人は知り合いなのかもしれない。
漆黒の少女が目を覚ましたら何か分かるかもしれない。
そんなことも思ったが、今すぐには目を覚ましそうになかったのでそのまま寝かせておくことにした。
静かな室内に氷を削る音だけが響く。
削った氷にシロップを掛け、二人で食べる。
……が、やはり少女は楽しそうではない。
楽しい時間はあっという間に過ぎて行くが、そうでない時間は全く進んでくれない。
そもそも少女は話さないし、独り言を言う質でもないのでこの部屋には静寂しかないのだが、今は本当に無音だ。
なので物音にはすぐに気が付いた。
漆黒の少女が目を覚ましたようだ。
純白の少女はなにも反応を示さない。
漆黒の少女は体を起こし、こちらを見つめている。
「ここ……どこ?」
なんと声を掛けようかと考えていたら向こうから話しかけてきた。
……意外だった。
てっきりこの少女も何も話さないものだと思っていた。
…………どこ、と聞かれても一体なんと答えればいいのか。
とにかくここは安アパートの一室だ。
「そんなことは解ってる……まぁいいや。で? あんたが私を拾ってくれたわけ? そこの貴族様と同じように」
……貴族? 意味は分からなかったが漆黒の少女の目線の先、純白の少女を見る。
と、そこには肩を震わせた少女の姿があった。
よくは解らないが今の言葉は純白の少女のカンに障ったらしい。
とにかくどう言う事か、漆黒の少女に聞いてみる。
「なに? 全く説明してないの? 信じらんない。他人の世話になってるくせに自分のことは全部隠してるなんて……あんたもあんたよ。素性のわからない、ましてや他種族なんかの面倒見て。どう言うつもり?」
……どう言うつもりか、と言われると困る。
ある日玄関先に置かれていた箱を開けたらそこにいただけだ。
「はぁ……お人好しってかあんたバカね。…………分かった。こいつのバカっぷりに免じて内緒にしといてあげる。ってわけだから、悪いけど私のことも隠させてもらうわ」
それを聞きうれしそうに漆黒の少女に抱きつく純白の少女。
「わっ! ちょっと抱きつかないでよ! ってかあんたも、その呼び方なんとかしてよね」
なんとか、と言われても。
「呼び名ぐらいちゃっちゃときめちゃいなさいよ」
と、いうことで二人の名前を決める事になったのだが、とにかく悩んだ。
そもそもなにかに名前を付けるなんて初めてだ。
…………
「で、結局このこがナズナで、私がスズナ、と。名前の由来は?」
春の七草から。
「まぁ悪くないんじゃない? ねぇ。ナズナ様?」
そう呼ばれた純白の、いや、ナズナは実に不愉快そうだ。
どうやら「様」と付けられたのが気に食わないらしい。
「悪かったわよ……じゃぁ、ナズナちゃん?」
これでナズナも納得したようで、何とか名前も付けられたようだ。
「…………」
スズナはある一点を見つめている。
「おいしそうね、あれ」
一緒に食べる? というようにナズナがスズナを引っ張っていく。
その後、皆でかき氷を食べ、夕方、ベランダのプールに足をつけながら花火を鑑賞した。
こうして日常に、また新たな要素が加わった。
およそ2カ月遅れの8月編となってしまい、申し訳ありません。
まだ遅れそうですが、9、10月編も書いていきたいと思いますので、気を長くしてお待ちください。
誤字脱字、意見質問批判批評、また、季節のネタなどございましたら、お気軽にお寄せ下さい。




