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手乗りネコ耳少女観察日記26 2015年9月27日

 夏の暑さは消え、すっかり秋になった。

 天気予報を見ると、今夜は綺麗な満月が見れそうだった。

 ナズナとスズナとともに過ごす日常がもはや当たり前になり、そんな当たり前がいつまで続くのかと、何度か考えたことはあったが、今日まで答えは出ないままだった。


「ねぇ、月にはウサギがいるって、本気で考えたことある?」

 日が沈み、お月見団子を並べ終えたころに、スズナが言った。

 …………。

「あれね、嘘よ。実際にいるのは私たちなの」

 スズナの言う私たちとは、スズナとナズナのことか、あるいは他の手乗りサイズのネコ耳の仲間ことだろうか。

「少し前に争いが起こって、都が混乱に陥った時に大勢が避難した。その中にはこの子のそばにいた人たちもいた。七夕の涙は、それが理由」

 スズナが何を言っているのかを理解することはできなかったが、そのすべてが真実であることだけはわかった。

「この子は争いを嫌い、外の世界、つまり今私たちがいるここに興味を示した。昔話を聞いてね。私はそんな混乱の中で生きてきた。ある時に、とある屋敷に忍び込んだの。そこで出会ったのがこの子。他の屋敷の住民が我先にと逃げ出す中、この子と一部の屋敷の使用人は残っていた」

 ナズナは何も言わない。

 いくつもの感情が混ざった複雑な表情を浮かべていた。

「それから毎日屋敷に行ったわ。私がいた環境では、屋敷では手に入らない話もたくさん聞けたから。この子は目を輝かせて話を聞いていた。でもそれも長くは続かなかった」

 これは、ナズナとスズナの昔話だろう。

「ある時、屋敷に行くとこの子の姿は無かった。私は、遠い川のほとりまで屋敷の使用人に連れられた。そこで聞いたの。この子が流罪になったって。大昔の事件以来、外の世界に興味を持つことは禁忌とされてきた。その罪は重く、それをそそのかしたとして私も同罪になった」

 …………それでここへ来た、と。

「……信じるの?」

 …………嘘じゃないことはわかる。

「そう…………じゃぁ私が今話した意味も、わかるわよね?」

 今スズナが話したことの意味。それはつまり。

「……ごめんなさい。本当はもっと早くに伝えるべきだったんだけど……」

  スズナが視線をナズナに移すが、うつむいたままで表情はわからなかった。

「慣例通り、あんたには望むものが与えられる……はずだったのだけど、都は混乱から抜けきっておらず、川のほとりもまだきちんとは機能していないの……」

 …………望んだものはもう受け取った。

「それ…………」

 一冊の日記帳。

 始めから数十ページは白紙で、去年の2月7日から書きつづられている。

 これはナズナとスズナとの思いでそのものだ。

「本当に……いいの?」

 …………これ以上のものは何も望まない。

「…………そう」

 ナズナがスズナとともに満月を背景に窓際へ並ぶ。

「…………時間よ」

 月の光が徐々に強くなっていく。

 二人の姿が光に消える前に、ナズナが顔をあげた。

「あり……がとう」

 ナズナの頬には細い一筋の涙が伝っていたが、その顔は笑っていた。


 しばらく、月を眺めていた。

 そして日記帳を開き、筆を取る。

 いつも、そうしていたように。




 日常に現れた非日常は、いつしか日常へと変わり、その日常は消え、再び非日常へと舞い戻る。










1年と半年以上という長い時間の間、本作をご愛読いただき、誠にありがとうございました。

短編集というものを初めて書き、初めはどのように完結を迎えれば良いのか、まるで検討もつきませんでしたが、おかげさまで「手乗りネコ耳少女観察日記」は無事完結を迎えることができました。

本当にありがとうございました。


本作の番外編として、「梅雨の手乗りネコ耳少女冒険日記(仮)」の執筆を予定しております。

これは、同作者の短編作品である「梅雨は季節と人生の変わり目」とのクロスオーバーのような形にしたいと考えております。

どうぞ梅雨の季節のスズナの冒険をお楽しみください。


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