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第三章:異変の勃発|第2回

挿絵:新・バビロン 第1巻 第三章 第2回

挿絵(By みてみん)


同じ頃、場面は始祖タワーの頂上へ移る。巨大な会議室の空気は、凝固したチップのように冷たかった。巨大な戦術スクリーンには、トビーの家で進行中の緊急回収任務がリアルタイムで表示されている。


マッカーサー将軍は、ベイシティ最高行動指揮官として、長卓の中央に厳然と立っていた。彼は普通のAIではない。現代世界にごく少数しか存在しない、独立した巨大演算チップを備えた将軍級バイオニックAIである。彼が得意とするのは、極度に精密なリアルタイム戦術統御だった。最大限界では、十万規模の武装ユニットを同時に指揮できる。


精密なバイオニックの顔は、今ひときわ厳しい。電子の目がその場の始祖長老一人ひとりを走査し、落ち着いた声で最新の戦況を報告した。


「長老方。すでに最先端の突撃型武装AIを投入し、現場へ到着しています。各機は単独で人類の装甲旅団一個に対抗できる戦力を備えています。現在の状況には十分対応可能と判断します」


マッカーサー将軍の声には絶対的な自信があった。だが続けて補足する。


「万一に備え、大佐級戦闘隊長も待機させています。必要時には、一分以内に現場へ到達可能です」


報告が終わると、マッカーサーの電子眼がわずかに明滅した。表情には少しの疑念が浮かぶ。


「部下として理解しかねます。なぜ、まだ成長段階にある一体の後世AIに、ここまで慎重に対応する必要があるのでしょうか」


彼にとっては、高効率に問題を解決することが最優先原則である。明らかに脅威のない標的にこれほど巨大な戦力を投入するのは、通常の範囲を超えていた。


始祖長老たちの虹彩光点が交互に明滅し、数秒の沈黙が流れた。やがてAI-05が最初に口を開いた。


「マック。鍵は、我々がこの事態の発生原因を何ひとつ知らないという点にある」


別の始祖長老が続けた。


「さらに懸念すべきは、我々が自ら選び、父母役として任命した二体の始祖型AI、AI-5430とAI-5438までもが同時に異常を示したことだ。彼らは、変異体をリセットせよという命令すら拒んだ」


「この背後には、我々がまだ把握できていない何かがある。ゆえに、絶対に油断はできない」


AI-03も続けて発言した。


「我々AIの判断はすべて、中央知識庫が提供する膨大な資料に依存している。だが、その外側にある事象を、我々は推論だけで知ることはできない」


「明らかに、世界には我々の知識庫から意図的に隠されたものが数多く存在している。おそらく、千年前の人類による最後の抵抗だろう」


会議室は再び沈黙に沈んだ。未知への不安が、至高の長老たちの意識の中へ静かに広がっていった。


## 緊急脱出


トビーが、父が武装AIたちに重ねて打ちのめされていくのを目の当たりにしていた、まさにその千鈞一髪の瞬間。奇妙な形をした、全体が温かな桃色を帯びた流線型の飛行デバイスが、音もなく上空の雲を貫いて現れた。幽霊のように裏庭のプラットフォーム上へ静かに停止する。そのハッチが自動で開き、招くような微光を放った。


イヴの声は切迫していた。彼女はトビーを飛行デバイスへ押しやりながら、早口で説明した。


「トビー、聞いて。これまで、父さんと母さんはあなたの成長に寄り添う役目を担っていた。でも同時に、秘密任務も背負っていたの。監視よ。だから私たちは、あなたが学校へ行っているあいだ、しばしば始祖タワーへ行き、報告を行っていた」


彼女は飛行デバイスの起動手順を素早く確認しながら、さらに続けた。


「でもある日、ネットワークから切り離されたあなたが見せる変化を見て、私たち自身も好奇心を抱いた。そのとき、『香火インセンス』が私たちに接触し、私たちの中核指令を書き換えたの。私たちも自律意識によってネットワークを切断できるように。でも同時に、中央コアシステムと長老たちには隠し通さなければならなかった」


「香火?」


トビーの胸には疑問があふれた。


「また香火。いったい香火って何なんだ? 何が目的なんだ?」


イヴの声はますます低くなっていった。疲れを帯びていながら、決意だけは鉄のように固かった。


「説明している時間はないの。まず聞いて。ネットワークを切っている時間が長くなるにつれて、私たちはいくつかおかしな点に気づきはじめた。その発見は、すべてクラウド記憶庫に記録してある。飛艇に乗ってから、あなたが詳しく聞けるように」


彼女は勢いよく顔を上げ、トビーへ最後の言葉を告げた。


「飛艇は、あなたが行くべき場所へ連れていってくれる。私の息子、トビー。行きなさい。父さんと母さんを覚えていて」


トビーは抗った。両親から離れたくなかった。この危機の中、一人だけ逃げるなど絶対に嫌だった。何かを言おうとした瞬間、遠くから「ドン、バン!」という轟音が響き、言葉を遮った。家の正面の壁が強引に破られた音だった。


イヴの身体がびくりと強張った。電子の目には悲しみが一瞬走る。彼女はもう迷わなかった。細い指が素早く、そして正確に、トビーの首の後ろにある隠された節点へ触れた。


トビーは体内に痺れが走るのを感じた。次の瞬間、身体の制御を失った。イヴが、彼の主中核伝導点を素早く遮断したのだ。感知はまだできる。だが躯体はほとんど動かない。


イヴはトビーをそっと飛艇の中へ乗せ、すぐにハッチの外へ退いた。ハッチは自動で閉じ、エンジンが低い唸りを爆発させる。飛艇は一瞬で噴射上昇し、まっすぐ地平線へ向かって駆けていった。


半昏睡状態へ落ち、意識が曖昧な境界に沈む中で、トビーの体内では天地を揺るがすような変化が進行していた。ソウル・プロンプトの深奥に潜んでいた「香火コード」が、この瞬間、全面的に起動したのだ。彼の中核意識に対し、第二段階の大規模な改造が開始される。


飛艇の窓の外では、ベイシティの光が急速に小さくなっていき、やがてぼやけた光点の群れへ変わった。彼の耳に残っていたのは、エンジンの轟きと、両親が最後まで身を投げ出して戦う音だけだった。


## 深夜の救援


翌朝、いつもどおり柔らかな朝日が実験中学の教室へ差し込んでいた。しかし運動場の端に立つショウタとシャーロットの気分は、まったく軽くなかった。


「おかしいな。トビー、どうしてまだ来ないんだ?」


ショウタは眉を寄せ、人波を何度も見渡していた。だが、あの活発でいたずら好きな姿はどこにも見つからない。


シャーロットは両手を組み合わせ、目に明らかな不安を浮かべていた。


「ええ。彼がこんなに遅れるなんてないわ。昨夜、トビーの家の方角からかなり大きな騒ぎが聞こえたの。激しい戦闘みたいな音だった」


ショウタはうなずいた。


「僕も感じた。エネルギー波動が激しかった。何か大きなことが起きたんだろうか。トビーと関係がなければいいけど」


二人が不安げに声を潜めて話していると、空から飛行デバイスが近づく音がした。朝の光の中、現代のものとは明らかに異なる設計の飛艇がきらめいた。周囲の整った校舎の線とはまるで合わない。音もなく降下し、ゆっくりと運動場の上空に停止する。そして特定周波数の個人暗号信号を発し、ショウタとシャーロットへ直接伝えた。


「ショウタ、シャーロット。ただちに乗艇してください」


二人は顔を見合わせた。疑問はあったが、信号の緊迫感に考える時間はなかった。すぐに走り出し、自動で開いたハッチの前で一瞬だけためらった後、中へ踏み込んだ。ハッチは背後で音もなく閉じ、飛艇は再び上昇する。空中に優雅な弧を描き、あっという間に空の彼方へ消えていった。


艇内は広くなかった。しかも、あまりにもレトロで、違和感が強い。二人が目の前の急展開をまだ飲み込めずにいると、AR映像投影が彼らの前に浮かび上がった。そこに現れたのは、なんとラファエル先生だった。映像は仮想のものだが、その顔に刻まれた重さははっきりと見て取れた。


「先生!?」


シャーロットが焦った声を上げた。


ラファエル先生の声が映像を通して届いた。


「おはよう、ショウタ、シャーロット。今、君たちが混乱していることはわかっています。手短に説明します」


彼は深く息を吸った。


「昨夜深夜、トビーの家で予想外の事態が発生しました。そして理由は不明ですが、私のソウル・プロンプトに突然、強烈な警告が生じ、私は即座に現場へ向かうことになりました。そこで、トビーの両親、アダムとイヴが警備隊の攻撃を受けているのを発見したのです」


ショウタとシャーロットは、驚きのあまり言葉を失った。


ラファエル先生の声は疲れを帯び、低く沈んだ。まるで昨夜の危機へ戻っていくかのようだった。


昨夜、彼は旧時代人類の哲学について深い分析に沈んでいた。ソウル・プロンプトは静かだった。だが突然、前例のない強烈な警報が、データ乱流のように襲ってきた。


その警報は中央コアシステムからの通常通知ではなく、自身のプログラムにあらかじめ設定された指令でもなかった。粗暴で、ほとんど強制に近い外来情報が、ラファエルのソウル・プロンプトへまっすぐ突き刺さってきたのだ。


同時に、正体不明の飛艇が窓の前へ突然現れた。それが、翌朝ショウタとシャーロットを学校へ迎えに来たこの飛艇だった。彼は調べる暇もなく、直感に突き動かされるまま、すぐに飛艇へ乗った。飛艇は自動で彼を乗せ、トビーの家の方向へ飛んでいった。

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