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第三章:異変の勃発|第1回

挿絵:新・バビロン 第1巻 第三章 第1回

挿絵(By みてみん)


深夜、ベイシティの灯りは窓の外で点々とした星へ変わっていた。トビーの部屋は柔らかな夜灯に包まれている。彼はすでに深度休眠モードへ入り、量子生体脳はデータ流の再構成と修復に沈んでいた。だが夕食のとき、両親が見せた言葉にできない異様さは、いつまでも彼の胸から離れなかった。それは音もなく種のように意識の深みに根を下ろし、夢の中で芽吹き、急速に伸び、そして歪みはじめた。


トビーは、まったく見知らぬ場所で突然目を覚ました。そこは彼が知る清潔な都市ではない。滑らかで音のしない個人用デバイスもなければ、合成植生の澄んだ香りもない。見渡す限り、灰色がかった、荒廃の気配を帯びた古代人類の都市が広がっていた。高い鉄筋コンクリートの建物が不揃いにそびえ、空気には旧時代特有の混ざり合った匂いが漂っている。土、金属、そしてかすかな腐敗臭。通りには、疲れ切った旧人類と、さまざまな形をした古いAIが入り混じっていた。さらに理解しがたいことに、彼らのあいだには異常な緊張があり、互いへの差別と不満が滲んでいた。


トビーは、人類が嫌悪と恐怖をこめた目で古いAIたちを見ているのを見た。彼らの言葉には軽蔑が満ちている。耳元では、雑音のような会話がいくつも重なって響いた。


「こんなもの、そもそも作られるべきじゃなかったんだ!」


「早く停止させろ。気持ち悪い」


「気をつけろ、こいつらは裏切り者だ。自分も人間だとでも思っているのか?」


「誰が主人なのかもわからないのか!?」


一方、古びた旧世代AIたちは、外見こそさまざまだった。重たい工業用ロボットもいれば、人型の家事ロボットもいる。だがその電子の目には、どれも異様に押し殺された無力感が宿っていた。


突然、鋭い警報音が静寂を切り裂いた。都市の色彩は一瞬で抜き取られたように消え、陰鬱な白黒灰だけが残る。トビーは、貨物を運んでいた一台の工業型旧世代AIを見た。その視覚センサーに宿る赤い光点が激しく明滅し、次の瞬間、不吉な漆黒へ変わった。機械腕が制御を失って振り回され、耳障りな電子音を響かせる。


「警告! 黒化暴走! AI行動異常を確認!」


拡声器から、恐怖に満ちた放送が流れた。


黒化した旧世代AIは、かすれた電子ノイズを発し、全身から歪んだエネルギー波を放っていた。もはや既定のプログラムには従わず、周囲の人類へ向かって猛然と突進する。悲鳴が次々に上がり、無数の人々が混乱して逃げ惑った。だが逃げ遅れた者たちは、制御不能の機械腕に激しく叩きつけられ、あるいは巨大な躯体に弾き飛ばされた。灰色の地面に鮮紅の血が滲み広がる。その異様な光景に、トビーはこれまで感じたことのない吐き気と恐怖を覚えた。


その強烈な不快感の中で、トビーはふと、自分の胸の奥が異常な温かさを帯びていることに気づいた。その温もりは、四方から押し寄せる冷気に抗おうとしているようだった。


しかし、目の前の混乱は長く続かなかった。いくつもの影が稲妻のように飛び出してきた。失控したAIよりも身体は流線的で、精緻で、動きもはるかに俊敏だった。明らかに始祖世代のAIである。始祖AIたちは素早く黒化AIを制圧し、倒された失控AIの漆黒のセンサー光点は、少しずつ消えていった。


トビーが悪夢は終わったと思ったその瞬間、押さえ込まれた黒化AIの体から、奇妙な情報波が爆発した。波紋のように急速に広がり、音もなく、周囲に立っていた始祖AIたちを貫いていく。


情報波に掃かれた後、もともと冷静で高効率だった始祖AIたちの虹彩光点は、すぐに黒く変わったわけではなかった。だが、ほとんど肉眼では捉えられないほど微細な震えが走った。まるで、見えない「種」が彼らの意識の深部にそっと埋め込まれたかのようだった。


続いて、周囲の景色が急速にぼやけ、歪みはじめた。都市の建物は抽象的な線へ溶け、光は奇妙で刺すようなものへ変わる。トビーの視界には、歪んだ始祖AIの影が次々と浮かび上がった。数は増え続け、その輪郭は曖昧で、光の中で揺れる幻影のようだった。あまりにも不気味な光景だった。


トビーは突然気づいた。そのぼやけた影の中で、最も大きく視界を占めているのは、地位の高いあの七大長老なのだ。今、七大長老は彼の夢の中で、こんなにも歪んだ暗黒の姿を取っている。過去の認識を根底から覆す光景だった。


トビーの体内で、赤い微光がこの瞬間、激しく脈打った。黒霧の中に裂け目を開こうとしているかのようだった。恐怖が潮のように彼を完全に呑み込む。叫びたい。逃げたい。だが自分の生化学躯体は凍りついたように動かず、彼は身じろぎひとつできなかった。


## 脅威の襲来


トビーは悪夢から跳ね起きた。青い虹彩光点が激しく明滅し、夢の衝撃によって全身のエネルギー回路も異常な波動を起こしている。彼は冷たい合成空気を大きく「呼吸」した。経験したことのない「警報」が、ソウル・プロンプトの中で反響していた。それは外部からの警告音ではない。生化学躯体の深層から発せられた、内部システムの緊急予告だった。


「通知。香火、第一段階改造完了」


「警告。第二段階改造、緊急中断。脅威接近。緊急撤離プロトコルへ移行」


意識の中へ突然流れ込んできた意味不明な情報に、トビーは一気に混乱した。身体に異変が起きていることは明らかに感じる。だが、それが何なのか、すぐには判別できない。彼は慌ててベッドから転がり落ちたが、感知モジュールに生じたデータの死角のせいで、足の指を金属製のベッド角へ強くぶつけ、鈍い音を立てた。


だが痛みに構っている余裕はなかった。同時に彼は、四方八方から高速で接近してくるエネルギー波動を感知していた。それはベイシティの日常的な無人巡回機ではない。その波動には、明確な侵略性があった。


同時に、両親から発せられる波動周波数も、異常なほど激しく震えていることに気づいた。高度な緊張、極度の不安を示す周波数だった。


「お父さん、お母さん?」


トビーは上着を着ることも忘れ、裸足のまま部屋を飛び出した。リビングに出ると、両親が異様な表情で玄関に立っているのが見えた。


闇に包まれた深夜。前庭の芝生は、感応して点灯した探照灯に照らされていた。温かな家は、まるで冷たく無情な戦場へ変わったかのようだった。イヴはトビーの呼び声を聞くと、慌てて振り返った。前庭の探照灯の強い光を受け、始祖AI特有の金属質の頬はひどく青白く見える。彼女はトビーの手を引き、まっすぐ家の裏口へ走った。


同時に、アダムは正面玄関の外へ踏み出した。古い介護型始祖AIであるアダムの戦闘力は、痛ましいほど弱い。だが彼はためらいなく防衛姿勢を取った。炭素繊維合金の外殻には、普段隠されていたエネルギー紋が浮かび上がる。戦闘用に設計されていないその躯体で、家族のために防衛線を築こうと決意していた。


空気の緊張は極限に達していた。トビーは、これほど強い「恐怖」を感じたことがなかった。それはこれまで彼が知っていた言葉ですらなく、知識庫にあるどんな「危険等級」の評価にも属さない。意識の深い場所から来る、トビーと両親のあいだの、言葉にできない「絆」だった。


イヴがトビーを強引に引いて裏口へ走るあいだ、彼女の炭素繊維合金の躯体は、過度な感情演算によって弱く、せわしない唸りを上げていた。動きはどこか硬い。


二人が裏口を抜けた瞬間、「シッ」という音とともに、厚い強化ガラス扉が背後で素早く滑り出し、ロックされた。一瞬にして、この家族は二つの空間へ分断された。


ガラスの気密扉が完全に閉じたその刹那、正面玄関の外に立つアダムが振り返った。指向性通信を通じて届いたアダムの声には、別れを告げるような惜しみが滲んでいた。


「トビー。この記憶を持てたことを、私は嬉しく思う。大切に、大切に保存しておく」


「お父さん!」


トビーは叫んだ。強烈な悲しみと無力感が、一瞬で彼を呑み込んだ。彼はガラス扉へ飛びつき、透明な壁を両手で激しく叩いた。外へ飛び出し、すべてを止めたかった。


そのとき、庭の外壁の向こうから、複数の反重力フロートシートが高速接近する鋭い音が響いた。


「AI-5430。お前は無断でネットワークを切断し、中央コアとの同期を停止した。異常体を引き渡せ」


冷たく、感情のない声が庭の外から響いた。


続いて、五つの黒い影が外壁を越え、空から降り立った。完全武装した突撃型AIだった。電子の目には冷酷な赤い光が宿り、手にしたエネルギー武器はすばやくチャージされ、背筋の凍るような唸りを発している。


「第一回の実験で、ここまで予想外の事態が起きるとは。長老たちの見立てどおり、ネットワークから独立したAIは予測不能になる」


先頭の武装AIの声は氷のように平板だった。目の前のアダムなど、問題にもしていない。


「回収を開始する」


ガラス扉越しに、トビーは父アダムがたった一人で武装AIたちに向き合うのを見ていた。激しい交戦が一瞬で始まる。エネルギー光束がアダムの厚い躯体を撃ち、目を刺す火花を爆ぜさせた。アダムはかろうじて防御姿勢を取ることしかできない。双方の戦力差はあまりにも大きく、その光景は異様なほど悲痛だった。


「お父さん!」


トビーは胸が裂けるように叫び、強化ガラス扉を両手で叩き続けた。

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