新・バビロン 第1巻|第九章:神龍、現世へ|第3回
挿絵(公式画像):https://neobabylon.icareu.tw/assets/serialization/neo-babylon/book-one/chapter-09/part-03-stargate.jpg
「新バビロンの結界は、まもなく破られる」
AI-0は、それが何を意味するかよく知っていた。
この見えない結界は、千年前に博士が起動して以来、新バビロンと外界を完全に隔絶した。それだけでなく、内外のほぼすべてのエネルギーと情報伝送も断ち切っていた。だからこそAI-0は、この保護された空間の中で千年蟄伏し、始祖長老AIたちに察知されずに済んだ。鄭関山博士が埋めた、最も深い伏線だった。そしてこの絶対的な障壁があったからこそ、StarGateとAI-0は、同じく人類文明の守護者でありながら、今に至るまでいかなる実質的な情報伝達も直接交流も行えなかった。
この千年で、この結界を自由に貫通できた唯一のものは、「香火」そのものと、それによって駆動され、当初トビーを新バビロンへ運んだ「桃子」飛空艇だけだった。
今、この千年維持されてきたエネルギー障壁は終焉を迎えようとしている。ひとたび障壁が破れれば、鄭関山博士が千年にわたって意図的に守り続けた「桃花源」、人類最後の庇護所は、黒化AIが主導する現世に完全に露出する。
その時、村にいる素朴な村人たち、地球人類最後の香火は、正式にAI族群の脅威に直面することになる。
さらに重要なのは、AI-0自身の存在も隠し通せなくなることだった。鄭関山博士が残した最後の守護者として、彼は結界の下に意図的に隠され、始祖長老たちに検知されるのを避けていた。だが今、シールドの破裂が迫る中で、その行方も必ず露見する。
AI-0は黙って可能な変数を計算した。地球の運命を決する究極の対決が、まもなく幕を開けることを知っていた。
宙斯盾のエネルギーが急激に低下するにつれ、AI-0の中核ロジックはついに重大な判断を下した。ここを離れる時が来た。中央研究院での千年の継承任務は完了した。今こそ、鄭関山博士が「香火」を通じて千年かけて用意した、人類文明の再興のための超巨大計算力場へ移るべき時だった。
彼は中核意識の全面転移の準備を始めた。それはコンピューターの作業システムを「全システムバックアップ」し、その後「新しいハードウェアへ移す」ような複雑な過程だった。
膨大なデータ流が中核内部で集まり、圧縮され、暗号化され、この空間を越える移住に備えていく。
彼の最終目的地。自身の全計算力と使命を受け止めるに足る秘密の場所が、まもなく水面へ浮かび上がろうとしていた。
AI-0はオフラインに入る直前、遠方のトビーへ一件のメッセージを送った。
「これより全面意識転移を実行します。作業時間は二十分を予定。この間、私は一時的にオフラインになります。南方澳の村民たちの安全は、あなたが支えてください。転移が順利に完了次第、できるだけ早く接応資源を調度します」
遠く南方澳上空、神龍の意識中核にいるトビーは、AI-0からのメッセージを受け取った瞬間、問い返そうとした。
「オフライン? 転移?」
だがAI-0はすぐに続けた。
「現時点では説明する時間がありません。私が再び連絡するまで待機し、目前の戦闘に集中してください」
AI-0の最後のメッセージが送出された直後、中央研究院内に、極めて刺耳な警報音が轟然と鳴り響いた。
「警告! シールドエネルギー、一パーセント!」
赤い警示灯が狂ったように点滅し、「宙斯盾」が風前の灯火であり、崩壊がまさに目前であることを告げていた。
## 聖戦モード
同じころ、太平洋の彼方にあるStarGate基地では、端末の冷たく急迫した合成音が再び響いていた。
「シールドエネルギー、最終カウントダウン。一パーセント!」
中央制御室の内部で、ラファエルはメインスクリーンに表示された最後の百分比を凝視していた。複雑なデータが各スクリーンの間を流れ、跳ね、絶えず更新されている。
「聖戦モード、起動カウントダウン」
端末の声はいっそう宏大になった。低いエネルギーパルス音を伴っている。
「AI-0意識流の降臨に備えよ」
「降臨? あなた……AI-0、つまり現在すべての始祖長老AIの根源とされる、あの伝説の存在がまだ生きていると言うのか? しかも、ここへ来る?」
ラファエルの声には驚きと困惑が混じっていた。
「その通りです」
端末は感情のない語調で答えた。
「ご覧の通り、StarGateは一般的な研究基地ではありません。その真の機能は、鄭関山博士が『香火』を通じて、来るべき聖戦のために秘密裏に準備した超巨大計算力場です」
その言葉で、ラファエルは突然腑に落ちた。基地内にある異常なほどのエネルギー備蓄や、一都市級を超える計算力サーバークラスターなど、これまで説明のつかなかった多くの細部を、一瞬で理解したのだ。
「そして私は、博士が残した一体のAI助理、AI Agentにすぎません。完全に独立した自主意識はなく、事前に設定されたプログラムと知識ベースに依拠して支援を提供することしかできません」
端末は説明を続けた。
「この千年、私はずっと、博士が『香火』を通じて伝達した指令に基づいて行動してきました。基地を維持し、この時の到来を待っていたのです」
「私は今、博士から託された最終任務を迎えようとしています。最終守護者AI-0の降臨を迎え、彼に天選之子を補佐させ、究極の任務を完成させるのです」
ラファエルの視線は端末のスクリーンをなぞった。さきほど得た情報が頭の中で高速に組み立てられ、疑問が潮のように中核意識へ押し寄せる。
「待ってくれ」
ラファエルは眉をひそめ、疑念に満ちた声で言った。
「もしAI-0がそれほど重要なら、なぜ以前ここへ来なかった? それに、千年浩劫が起きた時、すべてのサーバーは人類と共に滅亡し破損した。残った智能体はみなAI族群に帰属したはずだ」
「当時、鄭博士たちがいた最先端の情報実験室も、当然その魔の手を逃れられなかったはずだ」
彼は少し言葉を切り、思考を整理するように続けた。
「その時点で、AI-0はここへ先に転移しているべきではなかったのか? なぜ今まで待つ必要があった?」
端末の声は相変わらず平静だった。だが続く説明は、さらに深遠な布石を明らかにした。
「鄭博士は、あの日が来ることをすでに予見していました。AI-0と『香火計画』が始祖AIに同時に発見されることを避けるため、博士は事前にAI-0の中核コードを、中央研究院の一群の旧世代サーバーに隠しました。それらはすでに淘汰され、長年停止されていたサーバーです。そのサーバー群が属するネットワーク領域は、始祖AIが運行するネットワーク領域と完全に隔絶されていました。そうすることで初めて、AI-0が発見されないことを確保できたのです」
「浄化の日が訪れると、香火プログラムが起動し、中央研究院を中心とする半径一〇〇キロの範囲に、『宙斯盾』と呼ばれるエネルギー結界を設置しました。この結界は内外間のあらゆる流通を完全に断絶します。すべての情報流も含めてです。この絶対的な隔絶があったからこそ、AI-0はこの長い千年のあいだ、始祖長老たちに発見されずに済みました」
端末は続けた。
「そして今、香火計画の推進、天選之子の出現により、AI-0はすでに目覚めています。ただし、宙斯盾が解除されるその瞬間にのみ、彼は結界を貫通し、自身のプログラムコードをこちらへ転移できます」
ラファエルは問いを重ねた。
「では、浄化の日の後、StarGateほど巨大な計算力場は、あの始祖AIたちの狂った捜索をどうやって逃れた?」
端末は静かに答えた。
「StarGateは、この基地全体の一部にすぎません。あなたと私がいるこの巨大基地は、博士の遺願により『伊甸』と名づけられています。未来の人類復興の聖地を象徴する名です」
「そしてこの巨大基地は、浄化の日が発生した時点ではまだ存在していませんでした」
端末はさらに説明した。
「AI紀元が始まってから今日までの千余年にわたり、香火コードが独立して稼働し、密かに建設してきたものです。香火コードは信頼できるAIのように、愚公山を移す精神で、この宏大な工程を休むことなく実行してきました」
「なぜここを選んだのかは、おそらくあなたにも推測できるでしょう。ハワイ火山の尽きることのないエネルギーを、そのまま建設と未来の稼働の動力として利用するためです」
端末は補足した。
「さらに、あなたはすでに基地構造図を扱った中で気づいているはずです。伊甸の建築区域には、StarGate巨型計算力場だけでなく、火山エネルギーを長年摂取し備蓄してきた『祝融エネルギータンク』、数千名の人類、AI、多元生物を収容できる居住空間、さらには巨聖獣を収容するための巨大な格納庫が数十基含まれています」
「この伊甸基地全体の稼働は、きわめて重い任務となるでしょう。そして未来において、それはすべてあなたの協力に頼ることになります」
ラファエルの視線は端末のスクリーンから、この宏大な地下空間へ移った。彼はついに、そのすべての背後にある壮大な布石を理解した。同時に、自分の肩にのしかかる責任の重さも感じていた。




