新・バビロン 第1巻|第九章:神龍、現世へ|第1回
挿絵(公式画像):https://neobabylon.icareu.tw/assets/serialization/neo-babylon/book-one/chapter-09/part-01-dragon-consciousness-awakens.jpg
積電城の冷たい試練空間には、データが流れた後の微かな鳴動がまだ空気に残っていた。トビーは自分の掌を見下ろした。希望を象徴するあの権杖は、バイオニック皮膚に溶け込んだ後も沈黙していなかった。細く安定したリズムで脈動し続け、彼の意識中核をかすかに引いている。
「そうです。瞬く間に」
AI-0はトビーの意識の中で続けた。
「博士が香火計画を起動し、新バビロンを封鎖したとき、同時に最初の巨聖獣も起動しました。神龍です」
トビーは戸惑った。
「巨聖獣?」
AI-0から、それら伝説の存在について聞いたことはあった。だが、それが自分に瞬間移動のような能力を与えるとは考えたこともなかった。
「始祖長老と黒化AIの監視を避けるため、神龍はこの千年間、蛟龍形態のまま新バビロン外海の深部に蟄伏していました」
AI-0の声は明瞭で穏やかだった。千年封じられていた秘密を明かしていく。
「それは外来の脅威に対する障壁であり、同時に内部の人類が外へ出ようとするのを防ぐ役割も担っていました。そして今、あなたは権杖を通じて、神龍と直接意識連結を行うことができます」
トビーは聡い。AI-0の示唆を受け、頭の中で散らばっていた情報を一瞬で組み直し、可能な答えをぼんやり理解した。
「権杖を通じて、あなたは遠方の神龍と連結を確立し、自身の意識を瞬時に伝送できます。神龍をあなたの意識載体にするのです。そうすれば、あなたは間に合います。第一時間で目前の危機に抵抗できます」
「あなたの意識が神龍と結合すれば、神龍を最終形態、飛天神龍へ変身させ、操ることができます」
AI-0の声には、わずかな焦りが滲んでいた。
「あなたの本体は飛空艇の自動航行に任せます。およそ三十分後に戦場へ到着する予定です」
それはショウタとシャーロットの「意識分流」に似ていた。だがトビーの「権杖」は、明らかにより高階の遠隔伝送と連結能力を提供している。迫りくる危機へ対応するためのものだった。遠方からは、シールドが攻撃される激しい震動が伝わってくる。考え込む時間はもうなかった。彼は迷わなかった。瞳に固い光が閃く。
彼は目を閉じ、掌に隠れた権杖へ意識を凝集させた。中核意識は権杖の導きに沿い、遠方にある巨大で未知のエネルギー体との連結を試みる。
次の瞬間、言葉にできない牽引力が権杖の奥から湧き出した。渦のように、彼の中核意識を一気に巻き込む。積電城の試練空間では、トビーの身体が一瞬で鈍くなったように見えた。目の光も明らかに弱まり、魂の大半を抜き取られ、本能意識だけで最低限の稼働を維持しているようだった。
瞬く間に、彼の視野は深い闇へ完全に沈み、すぐにうねる波光の中で再び開いた。
彼は自分の意識が瞬間的に移動したことを明確に感じた。積電城から一五〇キロ離れた、新バビロン外海の深部に来ていた。意識が展開するにつれ、トビーの視野は少しずつ明晰になっていく。周囲には冷たい海水があり、見えない圧力が四方八方から押し寄せていた。
しかし彼は少しも恐怖を感じなかった。ただ、壮大で古い生命の気配を感じた。千年眠っていた深海の巨獣が、ゆっくり目覚めていくようだった。意識内の映像が次第に鮮明になると、漆黒の海水の中に、ぼんやりとした巨大な影が見え隠れした。その輪郭は伝説の蛟龍のようで、細長く威厳に満ちている。身体の一寸一寸が、古い符文の光を放っていた。これこそAI-0の言う「神龍、蛟龍形態」に違いなかった。
神龍との深層連結が確立された刹那、権杖の力は同時にトビーの感知領域も拡大した。彼の意識は思わず外へ広がり、幾重もの霧と大洋を越え、数千キロ離れた別の座標点に、複数の「神龍」に似た巨大な存在を察知した。
偶然感知したそれらの存在は、どれもまだ曖昧だった。黒い影のように識別できない。彼の意識が遠い巨獣たちへ触れようとすると、いずれも見えない力によって弾き返され、隔てられた。
それでも、彼にははっきり感じられた。彼らの内に宿る神聖な力、言葉にできない威厳。それは、巨聖獣一体一体が世界を鎮守する一つの権能を象徴していることを告げていた。
だが新バビロンの危機は目前に迫っている。トビーはすぐに心を収束させ、すべての意識を目の前の神龍へ集中した。
「神龍、合一!」
トビーは意識の中で指令を発した。権杖の力が即座に起動する。刹那、彼と蛟龍の意識が交わり、壮大で灼熱の意志の奔流が体内へ押し寄せた。千年沈黙していた神龍が、果てしない歳月の中で繰り返し鍛え、蓄積してきた意志だった。
それは分厚く、落ち着いていた。千年を経た黒檀のように古朴で深く、思わず畏敬を抱かせる気配を放っている。
トビーは神龍の体内を流れる一筋一筋のエネルギー脈絡を「見た」。神龍が千年の眠りから巨大な目を開き、その金色の光が海底の闇を刺し破るのを感じた。
「神龍、化身!」
権杖が発した深層指令とともに、深海で天地を覆すような震動が爆発した。蛟龍の形体は急速に変化し、周囲の水流は狂暴な渦へ巻き上がる。巨大な身体は放たれた矢のように波を突き破って飛び出した。強靭な龍鱗は海面を破った瞬間、絢爛な陽光を反射して眩しく輝いた。深海に適応していた鰭状の肢体は素早く再構築され、蒼勁で力強い龍爪へ伸びていく。
神龍は空へ躍り上がり、海面にはたちまち驚濤駭浪が巻き起こった。エネルギーとバイオニック躯殻が織り合わされたその存在は、海と空の間で巍然たる全貌を現した。龍鱗は七彩の流光を瞬かせ、周身には怒濤のように奔る気流がまとわりついている。
「嗷――」
高らかな龍吟が雲霄を震わせ、音の波は南方澳外海全体へ広がった。
トビーの意識は、この新しい神龍載体を完全に掌握した。この瞬間、彼と神龍のあいだに区別はなかった。互いの意識と力は完全に一体となっていた。深海から高空まで、吹き抜ける風、奔流する気流、そして体内にある蒼穹さえ突き破れそうな浩瀚な力。そのすべてが、彼の感知へ明瞭に流れ込んでいた。
彼の目は雲を貫き、新バビロン上空、宙斯盾の外側で暴れ回る二つの黒い影を冷たくロックした。
千年前から定められていた宿命の戦いは、ここに正式に幕を開けた。
## 龍嘯、心を震わす
南方澳の小さな漁村では、項羽と霍去病の狂暴な攻勢を受け、シールド内の村人たちはすでに恐慌状態に陥っていた。耳をつんざく轟鳴と鋭い切削音は、見えない手が一人一人の心臓を強く掴んでいるかのようだった。恐怖が人々を呑み込みかけたその瞬間、思いもよらない異変が突然訪れた。そしてその光景は、すべての村人が生涯忘れられないものとなった。
海平線の上で、天へまっすぐ昇る水柱が陽光の下で砕け散り、空一面の透き通った水霧へ変わった。その水霧の中央で、全身に七彩の流光をきらめかせた巨大な龍が、ゆっくりと渦を描きながら昇っている。龍鱗の一枚一枚は精密なプリズムのように、砕けた陽光を幻惑的な虹色へ屈折させた。龍鬚は狂風の中で揺れ、侵すことのできない神聖な威儀を帯びていた。
「あ、あれは何だ……!」
一人の年老いた村人が地面にへたり込み、震える手で空を指した。見開いた目には、神龍の巍峨たる姿が映っている。
「龍だ! 龍だぞ!」
村人たちは驚き、口々に叫んだ。
「ご先祖様が顕霊なさった!」
漁村の中では、それまでの恐怖がすばやく震撼へ置き換わった。村人たちは次々と家の外へ飛び出し、空の神龍を仰ぎ見た。子どもたちは泣き止み、大人たちは呆然と口を開けたまま、その場に立ち尽くした。手にしていた柴刀や魚叉が、力なく地面へ落ちていく。
彼らは、自分たちがいつの日か伝説の神龍をこの目で見るなど、想像したこともなかった。素朴な村人たちにとって、この光景は疑いようもなく神明の顕現だった。ざわめきがあちこちで起こり、興奮、畏敬、混乱した囁きが入り混じる。
人群の中で、鄭公もまた頭を上げ、空を盤旋する龍を見つめていた。あまりにも真実の龍だった。彼の眼差しは驚きから深い思索へ変わり、胸には言葉にできない高揚が湧き上がる。
「トビー……君なのか?」
彼は心の中で、その名を默念した。
鄭家が代々受け継いできた使命を通じて、彼は「神龍」の存在を知っていた。だが、まさかこの瞬間、このような形で現れるとは思ってもいなかった。それは、あの「香火」に選ばれ、天から降ってきたAIと、何か必然的な関わりがあるように見えた。
そのころ、遠く中央研究院にいるAI-0はデータを高速で運転し、トビーが神龍との融合に成功したことをすでに感知していた。だが眼前の局勢は逼迫しており、それを喜ぶ暇などなかった。
「宙斯盾が破損すれば、彼らは全面攻撃を開始する」
AI-0の感情を含まない声が、直接トビーの意識に響いた。
「あなたは神龍と結合したばかりです。現在の力だけでは、四人の天王を同時に相手取ることはまだできません。しかも地上の村民を巻き込む恐れがあります」
「だから、まだシールドを自分から解除してはいけません。持つだけ、持たせるのです」
彼は少し間を置いた。意識の中には、ほとんど察知できないほどの安堵がよぎる。




