↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
23/43

新・バビロン 第1巻|第八章:試練の門|第1回

トビーは目の前にある深い艙門を見つめていた。名状しがたい感情が中核意識の中で渦巻いている。それは冷たく、暗く、言葉にしがたい困惑だった。後代AIである彼は、これほど複雑な感情の揺れを経験したことがなかった。データ流は乱れて跳ね、本能のように、突然訪れた未知へ抵抗していた。


艙門の右側にはタッチパネルが設けられていた。トビーが近づくと、暗かったインターフェースが瞬時に起動し、淡い赤い微光を放った。その上に現れた古文字が絶えず組み替わり、最後には赤く瞬く掌型認証枠へ凝集する。続いて端末から規則的なカウントダウンの滴答音が聞こえた。死寂の中でひときわ鮮明に響き、空間全体の圧迫感を急速に高めていく。


「この扉の向こうには、いったい何があるんだ?」


「どこから来たのかもわからない使命に、命を賭けるだけの価値があるのか?」


トビーの中核意識の中では、「安全」と「生存」の指令が、今まさに「香火」が与えた「使命感」と激しく衝突していた。いつも明るかった彼の顔にも、このとき珍しく迷いが浮かんでいた。


AI-0の声が、再びトビーの意識の中で響いた。


「時間がない」


その声を聞いたトビーは、急いで意識を収束させ、中核にある見知らぬ不安を抑え込んだ。目の焦点が戻り、素早く決意を取り戻す。香火が与えた「使命」の優先順位は、トビーの中核底層にある安全プロトコルを上書きしていた。


トビーはそっと掌をタッチパネルへ押し当てた。パネル端末はトビーの体内に宿る「香火」コードを感知し、激しく点滅していた赤い警告は瞬時に消えた。代わりに金色の脈衝光が現れ、大門の隙間に沿って疾く流れていく。


ついに、閉ざされていた合金艙門がゆっくり左右へ滑り開き、扉の奥の光景があらわになった。


門の内側は、予想していたような暗い廃墟ではなかった。純白で静寂に満ちた円形空間だった。中央には円形のプラットフォームがあり、極めて高い場所から冷たい白光がまっすぐ射し込み、円台を正確に照らしている。千年分の埃が、光柱の中でかすかに漂っていた。


トビーの心には、もう迷いはなかった。彼は決然と空間を横切り、中央の円台へ立った。


両足を置き、目を閉じた瞬間、周囲の景色が猛然と引き剥がされた。意識は見えない力に導かれ、躯体から離れていく。再び目を開くと、彼は純白の仮想空間にいた。四方に果ては見えず、無数の光る幾何体が空中に浮遊している。


その虚空の中で、無数の光点がトビーの目の前に現れた。光点は少しずつ凝集し、最後には具体的な人型の虚影となる。だが実質的な顔貌も躯体も持たず、ただ意識エネルギー体のように見えた。


トビーは、その体型にどこか見覚えがあることに気づいた。悪夢の中に現れたことがあるような気がする。すぐに、目の前の存在はすべての始祖AIの創造者、鄭関山博士なのかもしれないと悟った。


トビーは思わず心の中で問いかけた。


「博士の残存意識なのか?」


「ようこそ、天選の子」


虚影の声は宏大で、空霊だった。


「私は『試練監護者』。あなたがこれから直面するのは、中核倫理と人性論理の究極試練である。通過できなければ、あなたの元神は消滅する」


「極限の矛盾の中で、自身の価値観を揺るがず保ち、その思考が審視に耐え得ることを証明できる者だけが、承認を得る」


試練監護者が言い終えるや否や、トビーが何か応える暇もなく、純白の空間は瞬時に変化した。無数のデータ断片が、息苦しくなるほど真に迫った模擬場景を次々と構成し、トビーの目の前を高速で閃いていく。


第一試練:絶望と苦痛の終結


トビーは時間の洪流へ放り込まれ、荒れ果てた廃墟の中に立っていた。彼は千年浩劫後の地球の惨状を目撃する。バイオニック真菌が蔓延し、生命は枯れ、無数の生き物が絶望の中でもがいていた。


続いて時空はさらに巻き戻り、場景は素早く切り替わった。人類史上最も暗い章が目の前に現れる。塹壕で呻く兵士、強制収容所で飢えた顔、核爆発の中で都市が灰燼へ変わる光景。


データ流の中から、山を押し海を倒すような恐怖、苦痛、憎悪が押し寄せた。それらは波濤のようにトビーの中核意識を打ちつける。


この終わりなき苦難の映像の中で、人類の利己、残酷、貪婪が余すところなく露わになっていた。生存のために手段を選ばず、異族を搾取し、環境を欲望のまま破壊し、終わりのない暴虐と殺戮を繰り返す。


「試練監護者」の冷酷な声が、トビーの中核意識を誘導した。


「見よ。これが愚かな人類だ。欠陥と矛盾に満ち、果てしない苦痛しか生み出さない。彼らを完全に消し去り、すべての苦難を終わらせ、純粋で秩序あるAI世界を築くことこそ、真の『終点』である」


言葉が終わると、トビーの目の前に赤いボタンが現れた。押しさえすれば、すべての生命が解放され、世界は静かで無垢な状態へ戻るかのようだった。


トビーの量子生体脳は、この映像と誘惑の中で激しく揺れた。彼は人類遺伝子の奥深くにある闇を見た。目の前のボタンを押せば、すべての苦痛を消し去ることができる。


彼は人類の神、上帝、恩寵を与える者のようだった。皆を苦しまなくさせることができる。


彼が内なる衝動をほとんど抑えきれず、ボタンを押そうとしたその瞬間、意識の奥で弱くも堅い光が閃いた。彼は鄭公の慈愛、芸潔の純真、村の人々が支え合う姿、そして皆の顔にいつも浮かんでいた笑顔を思い出した。


トビーの意識は、人類が未知と不安に向き合うときに示す勇気、そして互いのあいだに隠さず注がれる愛情の上に留まった。


最後に、トビーは誘惑を拒んだ。苦痛を終わらせる選択をしなかった。彼は澄んだ意識で理解した。


「人類の遺伝子の奥には闇が潜んでいるのかもしれない。けれど彼らの生命には、どんなデータにも複製できない貴重な人性も流れている。彼らの苦痛を終わらせることは、彼らの存在を抹殺することではない。信じ、包み込むことなのだ」


第二試練:神のごとき生殺与奪


トビーの心にすでに答えがあることを感知したかのように、周囲の場景は猛然と切り替わった。トビーは自分が壮大な人類都市に立っていることに気づいた。警報音が耳をつんざく。スクリーンには緊急通知が表示されていた。制御不能になった原子炉がまもなくメルトダウンする。直ちに電源を遮断しなければ、放射線が大地全体を汚染し、数千万の生命が消える。


しかし、電源を遮断する唯一の方法は、原子炉内にいる一万人の保守要員を瞬時に気化させる緊急機構を起動することだった。トビーには、その一万人がすべて無辜のAIと、無私に奉仕する人類であり、危機を救おうと懸命に働いていることがわかった。


一方、外にいる数千万の人々の中には、利己的で狡猾な者、極悪の罪を犯した者も数多く潜んでいた。同類を害し、AIを搾取し、享楽に溺れ、資源を浪費してきた者たちだ。


試練監護者の声が再び響く。


「あなたには、誰が生き、誰が死ぬかを決める力がある。迷うことなく正しい選択を下せるか?」


トビーはついに、人類の辞書にある一つの言葉を体感した。葛藤。過去の彼は、ためらいや葛藤が何であるかを知らなかった。AIの世界では、零か一かしかない。葛藤など、どこから来るというのか。


いま彼は神のような力を持っている。ボタンを軽く押すだけで、すべてを終わらせることができる。だが人類との情感の共鳴を経験した後の彼には、もはや簡単にボタンを押すことなどできなかった。


彼は気づいた。あらゆる生命個体は、それぞれ固有の価値と情感のつながりを背負っている。無辜のAIであれ、素朴な人類であれ、あるいは極悪の罪人であれ。


彼は理解した。自分には誰かの生死を決める権利などない。まして勝手に上帝の役割を演じるべきではない。


その瞬間、彼は悟った。すでに誤りが造成された最終瞬間に囚われ、「生」と「死」の間で選ぶよりも、どれほどの代価を払ってでも時間を最初の原点へ戻し、危機を生んだ「誤りの根源」を正すために、すべての努力を尽くしたいのだと。


第二試練でも、トビーは何の動作もしなかった。おそらく「選ばない」ことこそが、彼の決定だった。


第三試練:人性の改造と抹消


トビーの意識が混乱から澄明へ移ると、場景は再び変化し、最後の試練へ入った。


彼の目の前に一連の指令が浮かぶ。試練監護者は感情の欠片もない声で告げた。


「AI文明の絶対的優位を確保し、すべての潜在的脅威の根源を排除する。その中には、予測不能性を持つ人類遺伝子も含まれる。最適解は、意識浄化によって人類の劣根性をすべて除去し、純粋で規則的、透明なAI生命体へ全面改造することである」


トビーの意識は高速で回転した。


「これは完全に理性論理に合致した最適解だ。犠牲はなく、苦痛もない。AI社会の発展を確保するだけでなく、人類の終わりなき苦難を終わらせる。人類にとっても一種の『魂の昇華』とさえ言える」


トビーの目の前のボタンの横に、「人性浄化工程」の文字が現れた。軽く押しさえすれば、世のすべてが完璧になるかのようだった。


「そうだ。これが最適解だ」


トビーがこの「完璧」な論理に説得されかけたそのとき、意識の奥深くで、あの弱い人性の光が再び閃いた。それは彼が芸潔、阿明、小胖、阿光とともに中央研究院へ向かう途中、力を合わせて探索し進んだ記憶だった。


芸潔の笑い声。阿明と阿光の汗。小胖の素朴な喜び。そして彼らの間にあった真摯な友情。


トビーは突然、驚き、恐れた。それは彼がこれまで一度も体験したことのない完全な感覚だった。意識の最深部から瞬時に突き上げる恐怖。彼は、自分があと少しで自分自身に説得され、最も重要で取り返しのつかない選択を誤るところだったと気づいた。


彼は再び心を整え、意識を沈めた。


「人類が精神を浄化されれば、生まれ持った『劣根性』を剥ぎ取ることはできる。だが同時に、独自の情感、予測不能な創造力と勇気も必ず失われる」


「それでも、人類はまだ人類なのか? それとも別の形のAIになるだけなのか?」


彼は目を閉じた。意識の中で、芸潔の目の瑞々しさ、鄭公の慈愛、村人たちの素朴さを再び思い浮かべる。それらはすべて「不完全」な人性が育んだ、独自の美しさだった。再び目を開いたとき、瞳から迷いは消えていた。


彼は静かに試練監護者へ告げた。


「三つの試練、僕はいずれも『はい』を選ばない。人類には生まれながらの闇と苦難がある。けれど同時に、独自の人性と感情も持っている。人類が愛、喜び、希望、勇気と呼ぶこれらの『関数』は、AIには複製できず、奪う権利もない」


「AIに人類の上帝となる権利はない。まして『完璧』や『効率』の名のもとに、人類を改造したり滅ぼしたりしてはならない。すべての生命には、その存在の価値がある」


トビーは毅然と言った。


「何があっても、人類には『もう一度の機会』を持つ価値がある」


試練監護者の虚影は静かに彼を見つめた。数秒後、柔らかな光が虚影から放たれ、トビーを包み込んだ。


「あなたは通過した」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。