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中央中庭



「もう隠れてる意味がないわね。この足で乗り込んでやるわ!」



私はバットの先端についた黒い煤を乱暴に振り払うと、振り返りもせず執務室を飛び出した。


証拠を奪いに来たということは、あちらさんはもう「見られている」ことに気づいている。

だったら、ちまちまアナログで裏を取る段階は終わりよ。



「マ、マリア様! お待ちください、その格好で学園へ行くのですか!?」



慌てて追いかけてきたリリアナが、私のボロボロの賢者コートと、インクで汚れた顔を見て悲鳴を上げる。



「当たり前でしょ。これが私の『戦闘正装』よ。リリアナ、あんたも乗りなさい! 路銀を稼ぐチャンスよ!」



城のガレージに鎮座する、愛車「エクス号」。


おじいさんと改造し、月光銀の魔導布で補強されたそのリヤカーは、主人の怒りに呼応するように静かに翡翠色の光を帯びていた。




「ええっ、あ、はい! 失礼いたします!」




リリアナが完璧な所作で荷台に飛び乗るのと同時に、私はエクス号のブースターを全開にした。




「目標、貴族魔法学園・中央中庭パティオ! 最短ルートで突っ切るわよ!」



帝都の空を切り裂き、リヤカーが爆走する。

眼下に見える学園の幾重にも重なる防護結界――帝国のエリートたちが「絶対」と信じる防御障壁が迫る。



「……こんな非効率な結界、座標のバグを突けばただの薄い膜ね。……そこっ!」



パリン、という小気味良い音と共に、学園の最高級結界がリヤカーの先端から砕け散った。




* * *




学園の中庭では、帝国最高峰の令嬢たちが優雅にティーカップを傾けていた。

中心に座るのは、鮮やかな縦ロールと傲慢な笑みを湛えた公爵令嬢。


彼女が一口、特製のハーブティーを啜ろうとしたその瞬間。



「どきなさい! 道を空けろって言ってるのよ!」




轟音と共に、空から「動く家」のような巨大なリヤカーが降臨した。

完璧に手入れされた芝生を豪快に削り、エクス号は令嬢たちの円卓の真横で急停車する。


巻き上がる土煙の中、私はバットを肩に担ぎ、驚愕で固まっている令嬢たちの前に降り立った。



「……あら、お楽しみのところ失礼。あなたが例の『非効率な予算泥棒』さんかしら?」




ティーカップを落として呆然とする公爵令嬢の前に、私は泥臭い調査で掴んだ「あの乱れた筆跡の払出票」を叩きつけた。


リリアナが荷台から降り、乱れた髪を瞬時に整えて再び完璧な一礼をする。



「ごきげんよう、皆様。突然の乱入、深くお詫び申し上げます。……ですが、この帳簿の数字、少し『お行儀』が悪いようですわよ?」


「知らないわよ! 急に空から降ってきて、失礼極まりないわね!」




縦ロールを震わせ、顔を真っ赤にして叫ぶ公爵令嬢――ソフィア。


その瞳にあるのは、追い詰められた犯人の色ではなく、純粋に「理解不能な事態への戸惑い」と、プライドを傷つけられたことへの怒りだった。




「……とぼけちゃって。あんたがその贅沢三昧な生活を維持するために、帝国の予算をチョロまかしてるのは調査済みよ」



私はバットを肩に担ぎ直し、一歩詰め寄る。

泥臭く調べ上げたあの「筆跡の乱れた払出票」のコピーを彼女の鼻先に突きつけた。



「この『第三区画の兵糧予算』の二重決済。あんたの領地を経由して、この学園のあんたのサロンに流れてるわ。言い逃れはさせないわよ、この『非効率な予算泥棒』さん!」


「なっ……! 予算泥棒!? 心外だわ、私はそんな汚らしいこと……!」




ソフィアが絶句し、ワナワナと震え出したその時だった。



背後で完璧な姿勢を保っていたリリアナが、スッと眼鏡を直すような仕草((眼鏡はかけていないけれど、社畜時代の癖らしいわ))でソフィアの胸元を凝視した。

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