使い魔
「アヴィラージュ、これ、この重複分を差し止めるわよ。浮いた予算は、北の領地の兵糧支援に回す。……はい、更地完了!」
魔法に頼らず、インクで指を汚しながら導き出した真実。
私は、最高に「効率的」な成果を手にした充実感に浸りながら、次なる標的——あの悪役令嬢の尻尾を掴むべく、リリアナと視線を交わした。
アヴィラージュは呆然とした顔で、私たちが更地にしたデスクと、完璧に整理された報告書の山を見つめている。
「……恐ろしいな、君たちは。これほど鮮やかに、王族ですら手を出せなかった『学園の闇』を暴くとは……。この不正を差し止めれば、少なからず反発があるだろうが……」
その時だった。
キン、という耳障りな金属音が執務室に響き渡った。 窓ガラスに、何かがぶつかる音。
「……何よ、今度は」
私が振り返るより早く、窓枠がメリメリと音を立てて内側へ押し破られた。
暗い廊下から飛び込んできたのは、漆黒の煙をまとった、禍々しい姿の使い魔だった。
それは、まるで巨大なカラスの骨に薄い影を貼り付けたような姿で、そのクチバシは分厚い羊皮紙を易々と引き裂けそうなほど鋭い。
「きゃっ!」
リリアナが小さく悲鳴を上げ、身をすくめた。
使い魔の狙いは明確だった。
私たちとアヴィラージュのデスクに積み上げられた、不正の証拠が記された報告書。
あの、筆跡が乱れた払出票だ。
「私の更地を、汚すんじゃないわよ!!」
私が叫ぶと同時に、リヤカーの荷台から引き抜いた愛用の「改良型金属バット」を構えた。
柄の部分には、簡易的な魔力加速と振動吸収の術式が刻まれている。
「リリアナ、危ない! そこを動かないで!」
使い魔は、甲高い鳴き声を上げながら、鋭い爪を振り上げて突進してきた。
私は地面を蹴り、リリアナを庇うように一歩前へ出る。
「効率的な攻撃とは、最も弱点を突き、一撃で仕留めることよ!」
バットが唸りを上げ、空間を切り裂く。
魔力加速されたバットの先端が、使い魔の脆弱な「核」——胸元の、かろうじて光る一点に吸い込まれるように直撃した。
キンッ!
金属音と共に、漆黒の使い魔は、まるで砂で作られたかのようにバラバラに崩れ去り、黒い煙となって消滅した。
後に残ったのは、窓枠の破片と、僅かな焦げ跡だけ。
「ふん。この程度で私の『更地』を荒らそうなんて、甘いわね」
私はバットを肩に担ぎ、鼻を鳴らした。
リリアナは目を見開き、アヴィラージュは唖然とした顔で、私とバットを交互に見ている。
「……マリア様、あなたは一体……」
「何よ。何か文句でもある?」
「いいえ! とんでもない! 素晴らしいです、マリア様! 私、こんなに心強い方は初めてお会いしました!」
リリアナが目を輝かせながら、私のバットを見つめていた。
それはまるで、自分の命を救ってくれた相手への、純粋な尊敬の眼差しだった。




