第十六話
ウーラーと呼ばれて二十年近くになる。
歴代南部ヤマトの支配者は民衆から敬意を込めてウーラーと呼ばれる伝統があった。
ヤマトの歴史は長い。表ではウーラーが支配し裏では三羽烏と呼ばれる会議が表を支配している構造だ。三羽烏は謎に包まれて組織であり民衆はほとんど知らない。噂ではこの機関が裏で操りアガティールを呼び込んで南部ヤマトを傀儡国家に仕立て上げたとの話もある。何にせよ科学者ラーミア・シュルタンはこの三羽烏を警戒していた。プロトと合意のあったあとすぐに島国へと向かったわけだがそれはやることをやってからであった。それは三羽烏に御伺いを立て失礼のないよう電報を入れることだった。電報というのが肝で電磁的記録に残すことで後世にも何らかの記録が残るだろうという風習だった。しかし不思議なことだった。三羽烏に電報を送ったあと不思議なことが多く起こった。ポルターガイスト現象ともいうのだろうか。勝手に空間がミシミシなったりろうそくが消えたりテレビが勝手に付いたりした。本当に昔に聞いたことだが三羽烏というのは人間ではないという話だった。それは目に見えないなにかでありその名残がウーラーという歴代の支配者を生んで代理統治させたというのである。
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魔女が箒に乗って空を飛ぶというのは面白い話で実際のところその意味は高級である。
魔術師は家に籠もって隠棲し大いなる作業に従事することになる。その際家の掃除は欠かせず必ず掃除をする。今となっては箒は掃除機になったが物というものは使いようによっては心を乗せる乗り物になるのである。魔術師にとって不潔は大敵であり年がら年中掃除に勤しむべきである。現代はQOL(QUOLITY OF LIFE)が低下する時代でありだからこそ魔術師は銃槍を装備しフルで無意識に対抗するのである。
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現実においては天子などの代理者が摂政に等しい奉仕人を選ぶことは当然である。この国南部ヤマトでも現代のウーラーは摂政を立てていた。なぜ立てるのかといえば当然摂理のためである。天子に値する覚者というものは二十四時間365日、夢の中でさえ霊界と会話をしている。こうなると現実に疎くなる。王にはいろいろな王がいるが(大帝もいれば幼帝もいる)現代においては夢破れた者が補償として王になることが多いだろう。これは契約であり反故にできない。我々というものはいわばモドキである。吾輩も去勢をしたし現代においては合っていると思う。吾輩はこの四年間ほとんど誰とも会っていない。会っているのは霊界の閣内留府霊だけでありこの霊たちは専属である。本来天国というのは楽なところであるがこの霊たちはコストを払ってまで監視をするのである。誰だって犠牲を払ってまで監視し続けるということはできない。だがこの霊たちはそもそも殺される原因が王の力によるものなのである。だからこそ面倒をみるという選択肢が可能なのである。天子はモドキとして生きる。人と会わず霊と話すこともモドキである。人ではないからである。吾輩の経験としてはモドキの救急車のサイレン(実際には救急車は走っていないが霊が音を用意する)、空に走る謎の光(霊はこれをドローンと似せている)などがある。我々はいわば時代を取っていない。我々が取っている時間は`も`時`である。モドキも時間でありこれには意味があるのだ。この意味を説明するのは至って簡単であるが簡単ゆえに難しい。これはつまり点なのだ。点は一点で良い。天と地が出来る以上どうしてもこの一点がほしいのである。これが皇一点であり一点にして世界、すべてのモドキが完成するのである。深い意味は更新にあると思う。風呂の桶にも一点穴が付いていて排水出来るようになっている。水を更新することで様々な利点が生じる。
モドキの説明は今度改めて書きたい。これはつまるところ宗教が生まれる以前の擬制システムでありその歴史は長い。これが匹敵するのが資本主義などの経済体制であり金の万能性と同じであるのは自らの肉体を生贄に捧げることで行う意識の底を支配する潮流となるのである。
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ラーミアは気をつけて電報を送った。
その返事は不思議なことに自然を返して行われた。
外に出れば鳩が現れたと同時に一斉に飛び出した。
その瞬間なんとも言えない気持ちとなり束の間の幸福に包まれた。
南部ヤマトから島国へ向かう船の中でプロトにあった。プロトは冷静矍鑠としていてみていて好ましい青年だった。ラーミアも昔自分にそんな時代があったということを思い出し、気さくに話しかけてみることにした。ところがプロトの態度は一行に敬語が直らずずっと恭しくしているような状態でなぜなのか疑問に思った。プロトに聞く前に自分で思ったことだがガイアスという兵器を開発したことがそんなにも人を畏敬の気持ちにさせてしまうということをようやく気付いたのだった。
ラーミアは普通に接してほしいと懇願した。
何せプロトは国のトップである。しかしプロトから帰ってきた言葉は意外なものだった。プロトは幼馴染をアガティールに殺されアガティールに抵抗できる一番槍であるガイアスの技術を喉から手がでるほど欲しかったというものだった。ラーミアは安心してほしいと言った。ガイアスのコピーの作製は島国についてから熱心に取り組むつもりだと伝えたのだ。プロトの目は輝かしかった。それを聞いてかラーミアの言う通り口調も普段通りとなった。
島国まで船に2日かかった。
到着したあと島国の住民から熱烈な歓迎を受けた。
この国の住民はいつだってこういう対応をする。お祭りごとが好きで熱情に溢れている。
ラーミアもこの島国が気に入った。彼女に同行した技術者は数十名。みな気に入ったようだった。
プロトはすぐに亡命政府内に技術局をつくりラーミアを長官に任命した。ラーミアは誇りをもってそれを受託し両者は記者会見に臨んだ。
その記者会見を嫌な感じで見ていたのがアガティールの将軍ワルター・セビウスだった。この数日前皇帝パーディアは体調不良になりワルターが執政を握っていたのだった。ガイアスの技術者が島国にわたったことはアガティール側にすぐに漏れた。しかしプロトは気にしていなかった。ここは島国であり船に乗って2日かかる距離である。そして島国は強力な軍事国家であり簡単には手が出せない。そういう拮抗状態をプロトは知っていたのだ。
記者会見後、すぐに寄付の窓口が設けられ市民や国外からの寄付を募った。しかし寄付などは関係なしにバイルの国のいい面が浮かび上がっていた。亡命と同時に豊かな資金も移動しており研究開発費は潤沢になる予定である。
ここにアガティールに対し反抗を行う組織が築かれた。




