ロマの王・マリオ part1
「ヘンリー!やっときたのか!」
ヘンリーの同期で、曰く親友?でもあるクイントンは、一週間ぶりにMI6本部に姿を現したヘンリーを見つけるやいなや、トイレに連れ込んで個室に入り鍵をかけた。
「おいおいクイントン、こりゃあ何のつもりだ。俺は人の性癖にとやかく言う気はないが、無理強いはルール違反だろ?」
「馬鹿なことを言ってる場合じゃないぞ!君、今度は何をしたんだ?」
「何をって……どうしたんだよ」
「外務省の連中が朝から怒鳴り込んできてるんだ!ドイツ大使から外務省に強硬な抗議が来てるらしいんだよ!」
「ありゃ、もうバレたか」
「イギリスの軍人がドイツ国内の軍事演習場に入り込んでスパイ活動を行い、あげくの果てに複数の軍人を殺害した上、車両を爆破して逃げたって。
犯人を差し出す様にドイツ政府に要求されてるそうだ。やりすぎだよ!」
「半分は当たってると言えば、当たってるな。まあ、正当防衛って言えば正当防衛なんだがねえ」
「外務省はブチ切れてたぞ。諜報部は何がしたいんだ、英独関係を破壊する気かってカンカンだったよ」
「そんな事で腰が引けてるのかよ、あいつら本当ダメだな。これだから点数主義のエリートは、使えないんだよ。で、上層部は何だって?」
「外務省には知らぬ存ぜぬで通したみたいだけど、内部でも大問題になってるよ!」
「まあ、そりゃそうかもな」
「そうかもって……他人事みたいに!」
「やっぱり、クビかなこりゃあ。ナニー*1でもやるべきかね」
「何を言ってるんだよ、今のままじゃあクビぐらいじゃあ済まないぞ!」
「クイントン、おまえこそ大丈夫か。俺と仲がいい事で迷惑かかってんじゃないのか?」
クイントンは一瞬、押し黙ったが、慌てて否定する。
「僕のことはいいから!とにかく、今は目立つ行動はするなよ。それと、さっき君のところのボスに伝言を頼まれたんだ」
「うちのボスに?」
「とりあえず出勤してきたら、他の課の連中に会わずにまっすぐに自分のオフィスに顔出せって」
「やれやれ、仕方ないな。お説教を食らってくるよ。あ、それとこれ」
ヘンリーはカバンから茶封筒と重そうに膨らんだ布袋を取り出しクイントンに手渡した。
「何だよ、これ」
「噂になってたドイツの新型戦車のリポートだ。使用されていた部品も少しだけど入ってるから、おまえんところの武器部で調べておいてくれ。これでおまえの顔も立つだろ」
「ヘンリー、そんな事より君自身のことを考えないとー」
「おまえには何かと世話になってるからな」
「ヘンリー……」
「大丈夫だよ。まあ、ぶん殴られるかもしれないけど、殺されはしないだろ」
「くれぐれも短気は起こすなよ、約束だぞ。それと、これ」
クイントンは鍵束をヘンリーに手渡した。
「これは?」
「ガレージの鍵だ。トライアンフ、直しておいたから」
「ありがとう、あの子も喜ぶよ」
「アーサー君によろしくな」
ボスであるエドガー・マクファーソンのオフィスの扉をノックしようとするヘンリーに、秘書のシャーリーンがそっと近づいてきた。
「よう、久しぶり、シャーリーン。いつになったらデートしてくれるんだい?」
「ヘンリー、気をつけて」
「やっぱりボスは怒ってるのかい?」
「その逆よ……。冷静すぎて怖いくらい」
「へえ、そいつはおっかないなあ。ありがとう、スイートハート」
「もう、あなたって人は」
*1:ナニー……イギリスの伝統文化で、保護者に代わって子どもを預かり、面倒を見る。 ベビーシッターとの大きな違いは、単なる身の回りの世話だけでなく、しつけや勉強、情操教育などを乳幼児の専門家として提供する点。




